初潮を迎えた女児が「ふらふら」「イライラ」系の不調を訴えるとき「まず疑ってみるべき原因」とは?婦人科専門医が解説

いつお目にかかっても、優しくてポジティブなお話に元気を分けていただける産婦人科医の小川真里子先生。「お会いするだけで更年期の沈んだ気持ちが前を向く」とファンも多数です。現在は福島県立医科大学での診察のほか、週に一度東京・JR五反田駅のアヴァンセレディースクリニックで更年期外来をお持ちです。

 

更年期のトラブルに精通する小川先生は、「思春期外来」をご担当だったことも。今回は、ちょうど思春期を迎えた子ども世代が直面する、ホルモンのゆらぎのトラブルについてお伺いします。前編記事『もしも子どもが「学校に行きたくない」と口にしたら。婦人科専門医が解説する「ホルモン由来のメンタル不安定」の対処』に続く後編です。

 

子どものホルモン由来のトラブルにはどのような治療が行えるのか?

――産婦人科ではどのようなアプローチでこうした、ホルモン由来のトラブルに向き合うのでしょうか?

先に低用量ピルなどを使用してみて、それで調子がよくなるのかを見てみてもいいのだと思います。起立性調節障害はどちらかというと貧血が関連していることもあるかもしれません。女の子は初潮を迎えると基本的にまったく鉄が足りません。成長期で体もどんどん大きくなるうえ、汗をかいても鉄は失われますから、鉄欠乏性貧血になっていることがあるのです。10代の子でPMSかも、起立性調節障害かもと診断された子を診察してみると、ふらふらするしイライラもするというケースがあります。そうした子らの血液を検査すると貯蔵鉄がまったく足りないということが多々あります。鉄剤を飲むとかなり改善します。

 

ピルの服用も、月経血を減らすという意味で効果があります。が、どちらにせよ貧血は疑ったほうがよく、思ったよりも大勢が貧血の状態です。ヘモグロビンだけでなくフェリチンの値を検査で確認してください。初潮以降は、それまでと同じ量の補給では絶対に足りません。そもそも必要な鉄の量が全然違うということはあまり認識されていませんから、初潮を迎えてしばらくたって何か症状があったら貧血がないかを検査し、あるようならば投薬やサプリメントを考えていいのだと思います。

 

鉄サプリは少々飲むくらいでは鉄過剰になりません。毎日レバーを食べるというご家庭もそうそうないでしょうし、そもそもダイエットしようとしてお肉を制限する子どもも今どきは結構いますから、まず飲んでみて調子がよくなるかを確認してもと思います。昨今の子どもはやたら鶏肉ばかり食べて赤身肉をいやがったり、魚も食べなかったり、栄養素がいろいろ足りていない可能性は疑ったほうがいいと思います。

 

摂食障害には、SNSに触れた子どもが早い段階から「痩せているほうが美しい」と思いこまされる害も

――子どもがご飯を食べたがらない傾向というのは確かに感じます。早い段階から自分のボディイメージを気にするようになりました。

産婦人科を受診する中には神経性やせ症(以前の拒食症)のお子さんもいらっしゃいます。また、ハードな部活やスポーツなどで相対的なエネルギー不足のお子さんも多いのです。痩せていたほうがタイムがよくなることもあるマラソン、身体が細いほうが審美性が高いとされる新体操などの競技では食事制限をするケースもあり、これらの競技者は初潮が遅いという傾向があります。というのも、初潮は皮下脂肪が一定あってはじめてレプチンが分泌されエストロゲンが上昇して迎えるため、皮下脂肪が少ない場合は迎えることができないのです。

 

最近はダイエットしたいわけでもないけれど、食べると気持ち悪くなる、お腹がぐるぐるするから食べたくないという子どもが結構います。もうひとつ、医学部の女の子によくいましたが、忙しすぎてやりたいことがたくさんあるのに時間を食事に使っていられない、面倒だから食べないというケースも見られます。

 

ちゃんと食べて体を作らないと、いちばん心配なのは月経がきちんとこないことで将来的に骨粗鬆症を引き起こすこと。若年性の脂肪肝などもあり得ます。ちゃんとした食事を摂っていないことで若くして脂質異常症(高脂血症)になったりもします。いちばん危険なのは骨ですが、医学部時代のことを振り返るとびっくりする食生活の人は昔からいて、単に明るみに出なかっただけかもとも感じます(笑)。

 

――こうした、かなり重症のメンタルのトラブルに発展しそうな何かを感じたとき、親はどうしたらいいのでしょうか。

ホルモン由来のメンタルトラブルに苦しむ子どもに対して、仮にできることがたくさんはなかったとしても、とにかく食事は何とかしたほうがいいと痛感します。仮に神経性やせ症の傾向があり、食べたがらないならば、早い段階で児童精神科に相談したほうがよいのです。早いほうが治療効果が出やすいことは判明しています。

 

子どもの頃から明確にやせたいと考えている人もいるけれど、そうではなく食べられなくなってしまう人もたくさんいます。認知行動療法、食事日記やカウンセリングなど、有効な対策があります。神経性やせ症は命に係わる病気ですので、気配を感じたらなるべく早く医療につなげられたほうが予後がよいと思います。

 

神経性やせ症は治る際に揺り戻して過食になることもあります。過食のパターンの中にはたくさん食べて吐くというものがあり、リアルな話をするとこの場合は食費がとてもたくさんかかります。

 

結果的に家計に問題が起き、借金に追い込まれたり、自ら望むわけではなく夜のお仕事をせざるを得なくなったりということも起き得るため、なるべく早いうちになんとかしてあげたい、人生を大きく左右する問題です。

 

子どもが「オルタナティブな道」を歩み始めたとき、親は何を心得ればよいのでしょう

――そのような気配を感じたとき、親はどうすればよいのでしょう?

実際のところ、これらの問題に対して、親ができることは結構少ないのかなと思います。難しいですよね、まだまだ社会の中心が学校である年代です。最近私も調査してみたのですが、親や先生の意見の影響はちょっとしかありませんでした。

 

「食べなさい」と子どもを叱るよりは、早めに児童精神科を受診したほうが、元に戻るのがより容易になるでしょう。もうひとつ、小さいころから外見に対しては指摘をしないほうがいいかもしれません。

 

でも難しいですよね、何も言わないわけにはいかないですし、これは正解がない話です。ひとつひとついいと思うところを探り出して進んでいけるといいですよね。また、いろいろな体験を聞くことで、よくなっていった事例がたくさんあると知って保護者の方が安心なさることもあると思いますから、やはり医療には早めに接点を取ってもらいたいと思います。

 

――保護者が100%悪いというようなプレッシャーを感じることもありました。

子どもが不登校になると、うちの子だけどうして学校に行かないのだろう、育て方を間違えたのだろうかと、保護者の方が苦しまれます。でも、実際のところは個性の問題です。行かない選択肢もある、と思えたらいいんでしょうね。

 

いまは学校に行けなくても将来の選択肢がいろいろ増えてきたと思います。できることなら、親が不安に思わないほうがいいです、やはり不安が子どもに伝わりますので。実際は難しいですよね、でもそういうことも全部込みで、医療者は皆さんの傍らで精いっぱい一緒に悩みながら支えますから、どうぞ受診していただければと思います。

 

つづき>>>もしも子どもが「学校に行きたくない」と口にしたら。婦人科専門医が解説する「ホルモン由来のメンタル不安定」の対処

 

お話/小川真里子先生

福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 医学部産科婦人科学講座 特任教授

1995年福島県立医科大学医学部卒業。慶應義塾大学病院での研修を経て、医学博士取得。2007年より東京歯科大学市川総合病院産婦人科勤務、2015年より同准教授。2022年より福島県立医科大学 特任教授。日本女性医学学会ヘルスケア専門医、指導医、幹事。日本女性心身医学会 認定医師・幹事長・評議員。日本心身医学会 心身医療専門医・代議員。2024年4月から福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センター 特任教授。東京・JR五反田駅のアヴァンセレディースクリニックで、毎週金曜午前に完全予約制の更年期・PMS外来もお持ちです。

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