「嫌しらず」問題の近縁、「イヤと言ってるのに集団で押し切られる」徒労感に溢れた「NO知らず」はなぜ消えないのか
同年代ばかりの集まりで見たある光景に、私はいまも胸のざわつきが収まらない。
2次会が散会した後も、お店の前で立ち話をする人たちがいて、そこにはAさんの姿があった。Aさんは楚々として、古い映画に出てきそうな佇まいの女性。肌が白くて透明なせいか、年齢よりもはるかに若く見える。
【私の更年期by三浦ゆえ】#6 前編
「誰もがきっと見たことがある」ありふれた飲み会の2次会終わりの風景。だが
何人かの男性が、Aさんを囲んでいた。「Aさんを連れてきてって、Bから頼まれているんだよ」……Bという男性は、先に3次会の店に行っているようだった。
男性らに「Bが言ってるんだから、行こうよ」「ちょっと顔を出すだけでも」と口々に言われ、Aさんは最初、首を横に振っていたが、そのうち曖昧な微笑を口元に浮かべるだけになり、最後には、男性らに導かれるようにして3次会の店へと向かっていった。
Aさんの「NO」は、ないことになってしまった。Bが、遠隔で、かき消したのだ。
NOと表明しているのに「押し切られる」。人間関係の内側でいつの間にか生まれているシーン
こんなとき、女性と男性とでは見えている世界がまったく違う、と強く感じる。
Bは酔って浮ついた気分になり、魅力的な女性を誘っただけなのだろう。Bと、彼の指示でAさんを誘った男性らに見えていたのは、ちょっぴり非日常で楽しい夜の光景だと思う。
私は、Aさんの背後に、これまで自分が受けてきたセクハラ、友人知人から聞いた数々のセクハラを見る。
Aさんは、断れない状況に追い込まれていた。Bひとりから誘われたのなら、断るのはさしてむずかしくなかったと思う。でも数人に、ゆるくとは言え取り囲まれ、自分が断ればBも男性たちもメンツが潰れてしまう。いったん圧を感じると、NOを貫く難易度は跳ね上がる。
手慣れているな、と思った。Bのことだ。その巧妙さからして、その場で思いついたとは考えにくかった。彼は日ごろから、同じことをしているのではないか。仕事関係の若い女性を、彼が同じ手口で追い込んでいる姿が、私には容易に想像できた。彼も50歳前後、職場ではそこそこのポジションにいるはずだ。
多くのハラスメントの背景にひそむ「権力の勾配」、その「より悪質な例」とは
上司と部下、発注元と受注先……力関係がはっきりしているなかで、セクハラは起きる。被害者にとっての加害者は、「この人は私より力がある。NOを言えば、何らかの不利益を私に与えるかもしれない」という人物だ。
加害者はだいたい巧妙で、最初から無茶な要求をしてくることは、あまりない。「ほんとは断りたいけど、このぐらいなら、まぁ」という程度の要求からはじまり、少しずつ要求のレベルをあげていくため、被害者は気づけば断れない・逃げられない・誰にも言えない状況に追い込まれている。
AさんとBは仕事関係ではないし、年齢も近く、本来なら対等な立場なのだけれど、Bが自分以外を味方につけている段階で、その力関係ははっきりしている。
厄介なのはBに力を行使している自覚がないことだ。仮に「セクハラってこんなふうにしてはじまるんですよ」と私がBに言ったら、彼は激怒すると思う。
とはいえBにかぎった話ではなく、セクハラを仕掛ける側の目には、恋愛だの好意だの、自分に都合のいいメガネがかかっていて、本意でなくそこにいる相手を見て、「イヤじゃないから来るんだろう」ぐらい思っている。「俺のことが好きなんだ」と思い込んでいても、不思議ではない。
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