子どもを置いて逃げた母は、間違っていなかった。あの「雪の日」から動き始めた人生は
顔を殴られた翌朝、「灯油を買ってこい」と命じられ、雪の中を歩かされたYさん。家とは逆の道を選び、タクシーに向かって絞り出すように「助けてください」と伝えたその瞬間、堪えていたものがあふれ、涙がこぼれました。
<<前編:子どもの前で殴られ、雪の日に家を追い出された私。「5万円」しか生活費をくれないDV夫のために、どこまで我慢するべきなのか警察・支援センター・シェルターとつながったことで、Yさんと子どもたちの身に何が起きたのか、そして「逃げる」という選択が、どのように人生を変えていったのかを見ていきます。
思わずタクシーに向かって手をあげていた
頬の痛み。昨夜の暴力。
ずっと続いている体調の悪さ。そして、家に戻れば、いつまた何をされるかわからないという恐怖。
「このまま家に戻ったら、夫の支配から抜け出すことはできない。今すぐ、夫から逃げたい」その思いが、雪の静けさの中で、Yさんの心をどんどん占めていきました。
Yさんは、灯油を買いに行くはずだった道ではなく、反対側の道へと足を向けました。ちょうど一台のタクシーが通りかかり、Yさんは思わず手をあげました。すぐに停車してくれたタクシーの行灯の明かりが心にしみるように感じられたといいます。
Yさんは、震える声で言いました。
「……助けてください」
運転手は、腫れたYさんの顔を見た瞬間、状況を察したようでした。
「これは大変だ。すぐに乗って」
Yさんは後部座席の隅に身を縮め、運転手の携帯電話を借りて支援センターへ電話をかけ、担当者の指示で、そのまま最寄りの警察署へ向かうことになりました。
警察署に着くと、担当の警察官が事情を丁寧に聞き取り、Yさんの腫れた顔を確認しながら、こう言いました。
「今日は、家には戻らないほうがいいですよ」
その言葉を聞いても、Yさんの頭に浮かんだのは、子どもたちのことでした。自分だけが逃げてきたことへの申し訳なさが胸に広がり、涙があふれそうになります。
「子どもを迎えに行きたいんです……」
Yさんは、そう訴えました。しかし、警察の担当者は、静かにこう説明しました。
「今、あなたが家に戻るのは危険です」
「まずは、あなたの身の安全を確保します。そのうえで、子どもたちの保護はこちらで進めます」
暴力を受け続けていた状況では、母親が単独で戻ることはかえって危険で、新たな暴力に巻き込まれる可能性があるとのことでした。「子どもたちを守るためにも、まず母親を隔離することが必要」だと、そう判断されたのでした。
その説明を聞きながら、Yさんの涙は止まりませんでした。
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