“守る側”としての覚悟。「自分たちだけが助かればいい」という考えは許されない「侍」の生き方とは。ともの息子・万丸が人質として多くの命を守る道へ【NHK大河『豊臣兄弟!』16話】

2026.04.28 LIFE

*TOP画像/弥助(上川周作) とも(宮澤エマ) 継潤(ドンペイ) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』16話(4月26日放送)より(C)NHK

 

戦国時代のど真ん中を舞台にした『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)の主人公は仲野太賀が演じる豊臣秀長。兄弟の絆で“天下統一”という偉業を成し遂げた豊臣兄弟の奇跡を描いた大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)の第16話が4月26日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。

 

人間は残酷だが、心を癒すのもまた人間

先週の放送回では、激しい姉川の大合戦が展開され、戦の恐ろしさに小一郎(仲野太賀)や藤吉郎(池松壮亮)、視聴者も震撼したことと思います。そうした中で、浅井長政(中島歩)と織田信長(小栗旬)もまた、互いに割り切れない思いを引きずっているように見えました。

 

多くのかけがえのない武者を亡くし、悲しむ長政に寄り添ったのは市(宮崎あおい)。長政は信長の強さの理由を「そうやって そなたが そばで 支えておったのじゃな」と述べており、支えてくれる存在の大きさを痛感していました。

市(宮崎あおい) 長政(中島歩) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』16話(4月26日放送)より(C)NHK

一方、信長も昨今の一連の出来事に釈然としない思いを抱えているようでしたが、小一郎と藤吉郎の心遣いに救われていました。二人は信長を笑わせようと「兄猿でござる!ウキキッ」「弟猿でござる。ウキ」と、趣向を凝らした軽口を叩きます。信長の反応はそっけなかったものの、二人の思いを汲み取り、まんざらでもなさそうでした。

小一郎(仲野太賀) 藤吉郎(池松壮亮) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』16話(4月26日放送)より(C)NHK

だれかが自分を元気づけるために何かをしてくれるのは、とてもうれしいことです。その気持ちによって状況が好転しなくても、心が救われることもあります。

 

戦国武将は仲間であっても本心が読めない者たちに囲まれながら生き、矢や銃弾が降り注ぐ戦場に何度も身を投じていました。人間の醜さや残酷さを骨の髄まで知り尽くしていても、他者のぬくもりが心の奥底にあたたかく染み渡ることもあります。

 

万丸は人質に……。涙ながらに反対する母・とも

信長が小谷城を攻め落とすために考えた次の策は、宮部継潤(ドンペイ)を味方に付けることでした。

 

継潤の説得を任されたのは、小一郎と藤吉郎。二人は宮部村の百姓に扮し、継潤との対面に成功したものの、顔を覚えられていたこともあり、正体をすぐに看破されました。少し前までは、百姓だった二人ですが、今はもう”変装”しなければ百姓ではありません。

小一郎(仲野太賀) 藤吉郎(池松壮亮) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』16話(4月26日放送)より(C)NHK

藤吉郎が継潤から出された条件は、我が子を覚悟の証として差し出すことでした。藤吉郎が自分には子がいないことを伝えると、継潤は「では 近しい身内の子で構わぬ」と再提案。

 

小一郎と藤吉郎が頼ったのが、とも(宮澤エマ)の息子・万丸(藤田蒼央)でした。幼い万丸は母が少し姿を消しただけで、泣いてしまうほど心許ない一面もあります。

とも(宮澤エマ) 万丸(藤田蒼央) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』16話(4月26日放送)より(C)NHK

ともは小一郎と弥助(上川周作)から一連の話を聞くと、「何考えとるんじゃ~!うあ~!」と、かまを振りかざしながら怒りをあらわにしました。

弥助(上川周作) とも(宮澤エマ) 小一郎(仲野太賀) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』16話(4月26日放送)より(C)NHK

小一郎は「この調略がうまくいけば 浅井殿との戦を 終わらせられるかもしれぬ。多くの者が助かるのじゃ」と説得を試みましたが、ともは「万丸につらい思いをさせてまで 多くの者のことなんて考えられん!」と自らの思いを率直に伝えます。

 

筆者がともの立場であれば、彼女と同じことを口にするでしょう。多くの人が救われるのはとても大切なことだけれども、自分にとって唯一無二の存在を守りたい。我が子に多くの人を救える力があるったとしても、我が子を危険にさらしてまでその役割を引き受けたくありません。

 

ともは万丸を継潤に養子に出すことについて、小一郎と藤吉郎の前で明確に頷いた場面はありませんでした。この場面が割愛されているところも、母親にとって最後まで答えが出せない問いであることがほのめかされているように思いました。

 

ともと万丸には苦しい選択でしたが、救われた命もあります。継潤が小一郎と藤吉郎の味方になったからこそ、比叡山で市井の人びとを命令に背いて逃した藤吉郎は信長に許されました。

 

侍とは何か……

信長は比叡山攻めにあたって、「我らに歯向かう者は 女 子供とて 一人残らず なで斬りにするのじゃ」と家臣らに命じました。

 

藤吉郎は「殿!そのお役目 このサルにお任せくだされ!」と名乗り出ましたが、今回は信長のためというよりも、延暦寺に逃げ込んだ無関係の人たちを守りたいという思いがあったためです。

 

藤吉郎は人びとを守る方法も、自分が信長に逆らえるのかも分からなかったものの、“市井の人たちを殺すために侍になったわけではない”ことだけは分かっていました。

 

藤吉郎は信長を深く敬愛し、出世欲にあふれていますが、侍としてそれだけではない思いを抱えているように思います。故郷・中村が野盗に襲われ、多くの村人が命を落とした光景を目の当たりにし(第2話)、小一郎の婚約者・直(白石聖)が理不尽な死に方をしたゆえに(第8話)、社会を安定させるために必死に戦っているようにも見えます。

 

第2話では、野盗に中村を壊滅状態にされましたが、小一郎は絶望のあまり泣き崩れていたのに対し、藤吉郎は「これが この世じゃ!」と冷静に述べていました。小一郎よりも楽観的な藤吉郎ですが、この世の苦しみを知っているからこそ、楽しく笑って生きているのかもしれません。

 

また、弥助は小一郎と藤吉郎に引き込まれて侍の道を歩み始めたものの、侍という立場を深く理解していました。万丸を人質に出すことについても「そんでも 侍なら従わねばならん」「それが嫌なら 百姓に戻るしかない」と、藤吉郎と小一郎の決断に父として理解を示していました。

 

弥助は侍になれたことや、今の恵まれた暮らしに対しても感謝の気持ちを示していました。何事にも良い面と悪い面があるように、侍の生き方にも負の側面はあります。弥助は侍のおいしいところだけを享受しようとするのではなく、自分にとって苦しいことにもきちんと向き合い、受け入れようとしているのです。

 

小一郎も自身の立場を理解していました。ともに万丸の人質の件を説得する際、「わしらは もう百姓ではない。侍なんじゃ!」と真っすぐに前を見据え、迷いのない表情で伝えています。小一郎は自分たち一家は“守る側になった”という強い責任感を抱いています。“守る側”の人間は自分や家族の幸福だけを追求するのではなく、小一郎が述べていたように“一人でも多くの者が助かる道”を選ばなければならないのです。

 

小一郎が思いを明かしていたように、百姓だった頃の方が一家に笑顔があったのかもしれない。しかし今はもう、家族の笑顔だけを願っていられる境地ではなく、引き返せないところまで来てしまっていたのです。

 

侍は地位によって異なるとはいえども、身分は比較的高く、百姓よりは豊かな暮らしができていました。“高い地位には義務を伴う”という言葉もありますが、小一郎と藤吉郎、そして弥助はそのことをきちんと理解しています。

 

現代の日本には戦国時代とは異なる苦しみを抱えて生きている人が多くいます。戦で亡くなる者はほとんどいませんが、生きづらさのあまり自殺する者や他者を無差別に殺める者はいます。社会における上層部の者たちは“守る側”という意識を持ってくれているだろうか……。

 

本記事では、万丸を人質に出す経緯と、小一郎、藤吉郎、弥助の侍しての覚悟をお伝えしました。

秀吉に人質に出された万丸の人生は……。万丸だけではない、家族から非常な扱いを受けた戦国時代の男たち【NHK大河『豊臣兄弟!』16話】

では、万丸がたどった人生と、戦国時代に人質に出された男性についてお届けします。

 

 

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