「本能寺の変」で描かれた“兄弟の絆”――愛憎の果てに、信長と信勝が通じ合った瞬間【NHK大河『豊臣兄弟!』27話】

2026.07.14 LIFE

*TOP画像/信長(小栗旬) 森乱(市川團子) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』27話(7月12日放送)より(C)NHK

 

戦国時代のど真ん中を舞台にした『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)の主人公は仲野太賀が演じる豊臣秀長。兄弟の絆で“天下統一”という偉業を成し遂げた豊臣兄弟の奇跡を描いた大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)の第27話が7月12日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。

 

信長が感じる己を包む憎悪

織田信長(小栗旬)は秀吉(池松壮亮)に免じて信澄(緒形敦)を信じることにしたものの、信澄は信長に対して父を殺された恨みを抱き続けていました。そして、徳川家康(松下洸平)のもてなしの席で出される信長の食事に毒を入れるよう命じたのです。

 

信澄は母に託された父の仇を討つため、その機の訪れを待ち、自分の感情を葬って生きていたのです。彼は「全ては 生き延びるため」と、信長に尽くしてきた理由を明智光秀(要潤)に明かしていました。

信澄(緒形敦) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』27話(7月12日放送)より(C)NHK

人の恨みや執念は強力であり、加害者側は半ば忘れていても、被害者は昨日のことのように覚えており、負の感情はどんなものよりも原動力になることもあります。信長は弟・信勝(中沢元紀)に心を寄せながら、「わしは…どこかで道を間違えたのやもしれぬ」と、市(宮崎あおい)に思いを明かしていました。市は「生きてる者にしか この世を変えることはできませぬ。我が娘たちが悲しむことのない 安寧の世を 一日も早くおつくりくださいませ」と、信長を励ましました。

 

すると、信長は「たやすく言うでない!」と声を荒げ、「血塗られたこの手で そのような世を どうつくれというのじゃ」「わしには壊すことしかできぬ!」と、自らが抱える罪の意識を露わにしました。信長は決断に一切の迷いを見せず、自分が殺めた者たちに同情を寄せないかのように振る舞っていました。しかし、心の奥底では、自分の手が彼らの血で汚れていることに、強い罪悪感と恐怖を抱いていたのです。

 

気落ちした信長のもとに、市の計らいで小一郎(仲野太賀)が訪れました。信長は「お主…兄を憎んだことはあるか?殺したいと思ったことはあるか?」と、小一郎に率直に尋ねました。小一郎は一瞬おどろきつつも、「もう しょっちゅうでござりまする。侍になりたての頃は いっつも思うておりました」と本音を打ち明けます。

小一郎(仲野太賀) 信長(小栗旬) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』27話(7月12日放送)より(C)NHK

 

振り返ってみると、秀吉は今でこそ立派な城持ちですが、侍になりたての頃は出世の見込みがあると母や妹にも嘘をつき、できもしないことを軽々しく引き受けては、小一郎を巻き添えにしていました。小一郎は兄に対する怒りを露わにした後、「それでも…放ってはおけぬのです。[中略]憎いというのは 慕ってることの裏返しでござります」と続けました。

 

兄弟とは不思議なもので、“腹立たしい”と思うこともあるけれど、それはうらみつらみの感情とは異なるもの……。どこか自分と似ていて、自分をもっともよく知る存在でもあり、常につながりを感じられる唯一無二の存在でもあります。小一郎が「信勝様は 上様を恨んではおりませぬ」と信勝の気持ちを同じ弟の立場から代弁すると、信長は小一郎を通して弟の思いを知り、不安が和らいだようです。

 

そして、茶会を開くために京に行くついでに、秀吉の希望通り備中を訪ねると小一郎に約束しました。ちなみに、秀吉は光秀や柴田勝家(山口馬木也)の鼻を明かすために、毛利攻めの総仕上げの際には信長に“あわよくば”備中に顔を出してほしいと思っていたのです。

 

小栗旬の名演技に涙。兄弟の絆を感じられる本能寺の変

信長は森乱(市川團子)をはじめとするわずかな家臣を引き連れ、本能寺に入りました。光秀が信長に対して謀反を決意した決め手となったのは、家臣を通じて伝えられた足利義昭(尾上右近)の「もう わしを 巻き込むな」という一言でした。この言葉により、これまで張りつめていた糸が、ついにプツンと切れたのです。

 

そして、光秀はかの有名な台詞「敵は 本能寺にあり!」と落ち着きながらも、信長に憎しみを込めて、力強く述べました。

光秀(要潤) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』27話(7月12日放送)より(C)NHK

乱が「寺が取り囲まれております。[中略]白の桔梗紋。明智光秀殿」と寝ている信長に状況を伝えると、信長は「そうか」とそっけなく答えていました。

 

光秀率いる大軍に囲まれた信長は必死に戦いました。しかし、敵の激しい攻撃を受け、体は次第に弱り、本能寺周辺はもはや逃げ延びる状況ではありませんでした。死を悟った信長の目の前には、信勝の幻影、浅井長政(中島歩)の幻影、自分が無残に殺した女子どもの幻影が次々と現れました。

信澄(緒形敦) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』27話(7月12日放送)より(C)NHK

 

長政(中島歩) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』27話(7月12日放送)より(C)NHK

人は罪悪感から逃げられず、自身の中に罪の意識が少しでもあれば、その者たちの姿がふと浮かぶこともあります。また、人の恨みや執念は強いもので、その対象に伝わることもあります。信長は彼らが自分に向ける憎しみや恨みに包まれながら生きていたのです。

 

信長は自分を助けに来てくれた乱に信勝を重ねていましたが、 それは弟が自分を赦し、救い出しに来てくれるという願望の現れでもあるはずです。

 

信長は火が燃え盛る中で腰を下ろし、自ら腹を切る覚悟を静かに決めます。刀を抜いたとき、信長の前に信勝が姿を現しました。そして、信勝は「我らの一生…ろくなものではござりませんでしたな」と、信長に話しかけました。信勝の表情はおだやかで、長らくがんばって生きてきた兄をねぎらっているようにも見えました。

信勝(中沢元紀) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』27話(7月12日放送)より(C)NHK

信長がその言葉をしみじみ感じていると、「殿!殿!殿!」という小一郎と秀吉の元気な声が響いてきます。

 

信長は秀吉と小一郎の笑顔や、秀吉が自分がつくった国を照らし続けると約束してくれたことを思い出すと、“悪い人生ではなかった”という表情を浮かべました。そして、「是非もなし」と言い、静かに散っていきました。

信長(小栗旬) 大河ドラマ『豊臣兄弟!』27話(7月12日放送)より(C)NHK

『豊臣兄弟!』は兄弟の物語ですが、本能寺の変の場面も本作ならではのものでした。信長が自死する直前に城で信長の帰りを待つ市の場面が挿入されていましたが、市は信長の危機を敏感に察知し、不安の色を浮かべながらも、覚悟を決めているようでした。というのも、第2話では、市は「私が今 苦しいのは 多分 兄上が苦しいからじゃ」と秀吉に語っていたように、市は信長が苦しいときには、自身も苦しさを感じるのです。

 

また、死を覚悟した信長の目の前には、にこやかな表情の信勝の幻影が姿を現しましたが、信長が死の直前に真正面から向き合ったのは最愛の弟・信勝でした。

 

小栗旬は本能寺の変の場面において信長の苦しみも、孤独感も、悲しみも繊細に表現しつつも、信長の強さ、潔さも体現していました。小栗の迫真の演技に多くの視聴者が心を奪われました。

 

 

本記事では、第27話を振り返りながら、『豊臣兄弟!』(NHK総合ほか)で描かれた本能寺の変と兄弟の絆についてお届けしました。
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