妻が意識不明から回復し、車椅子生活に。「助かってよかった」だけでは終われない…事故後に突きつけられた現実とは
幸せかどうかを決めるのは、自分の心
事故から1年がたったころ、妻は車椅子での生活を始めました。まだ自力で歩くことができず、その状態がいつまで続くのかわかりませんでした。
病院の廊下や街中で誰かとすれ違うとき、ふと、周囲の視線を感じることがありました。そのたびに、妻は居心地が悪そうに顔を伏せました。
同情の視線にさらされることが、どれほど人を傷つけるものか。横で見守ることしかできない私は、胸を締めつけられるばかりでした。
何不自由なく体を動かせることが、どれほど恵まれたことなのか。あらためて思い知らされました。
妻は健康を失いました。身体の機能も、大きく損なわれました。私たちは、事故が起きるその日まで、当たり前に続くと思っていた日常を失いました。
朝、家族で言葉を交わすこと。仕事を終えたあと、変わらない灯りがあること。休みの日に、次はどこへ行こうかと話せること。疑うこともなかった日々は、もう元には戻りませんでした。
「不自由を経験したからこそ、当たり前の幸せに気づけるようになった」
そんな言葉を耳にすることがあります。不自由はつらいものですが、その体験を経ることで、ささやかな出来事を「幸せ」として受け取れるようになり、毎日が豊かに感じられることがあります。
たしかにその通りです。ですが、当時の私は、そう簡単には割り切れませんでした。過酷な現実を無理に肯定しようとしているだけではないか。そう思わずにはいられなかったのです。
あの事故さえなければ、私たち家族は心からの笑顔を交わしていたはずです。
あたたかな未来を奪われてしまった現実を前にして、「今が幸せだ」と言い切ることに、夫として、親として、どうしても心が追いつかないことがありました。
不自由になったことを「これで良かった」とは、どうしても思えなかったのです。
埋めようのない心の穴を抱えたまま、私たちはどうやって明日を迎えればいいのか。どうすれば、この現実と向き合っていけるのか。考え抜いた先に、ひとつの答えにたどり着きました。
車椅子を押す私たちが、同情されるのではなく、誰の目にも素敵に映るような家族になろう。もしかしたら、この先も妻は車椅子のままかもしれない。あるいは、さらに厳しい状態になる可能性だってある。
けれど、どんな状態であっても、私たち家族のあり方は、自分たち次第ではないか。どんな状況にあっても、自分自身がどう生きるか。どう関わるか。その姿が家族のあり方そのものになる。
ならば、前を向いて堂々と生きていこう。「車椅子だからかわいそう」ではなく、「あの家族はカッコいい」と思われるような生き方をしよう。
体の動きに制約はあっても、心まで縛られる必要はありません。元の生活に戻ることだけを幸せと考えるのではなく、与えられた条件の中で、どう生きるかを選び続けること。その先に、自分たちの幸せがあると気づいたのです。
悲しみの受け止め方で人生は変わっていく
あの事故で、私たちは多くのものを失いました。一方で、私は大切な視点を持つことができました。
どれほど深い悲しみに直面しても、人はこれからの生き方を選び直すことができる。私は一連の出来事を通じて、そのことを学びました。
悲しみは、消えるものではありません。けれど、その悲しみをどう受け止めるかで、その後の人生の色あいは、少しずつ変わっていくものです。
私は事故という悲劇、そしてその後の歳月の中で、自分なりの「悲しみとの向き合い方」を見つけることができました。
人生には、避けることのできない別れや喪失があります。その現実を、人はどう受け止めていけばいいのか。私は、その問いを抱えながら生きてきました。
別れを避けることはできなくても、その悲しみとともに、もう一度前を向くことはできるのです。
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■著者:井上 裕之(いのうえ・ひろゆき)
いのうえ歯科医院理事長、医学博士、経営学博士。東京歯科大学大学院修了後、世界レベルの技術を学ぶためニューヨーク大学、ペンシルベニア大学、イエテボリ大学で研鑽を積み、医療法人社団いのうえ歯科医院を開業。自身の医院で理事長を務めながら島根大学医学部臨床教授、東京医科歯科大学、インディアナ大学客員講師など国内外9大学の役職を歴任。その技術は国内外から評価され、とくに最新医療、スピード治療の技術はメディアに取り上げられ、注目を集める。世界初のジョセフ・マーフィー・トラスト(潜在意識の権威)公認グランドマスター。本業の傍ら、世界的な能力開発プログラム、経営プログラムを学んだ末に、独自の成功哲学「ライフコンパス」をつくり上げ、「価値ある生き方」を伝える著者として全国各地で講演を行っている。著書は90冊を超え、累計140万部を突破。実話から生まれたデビュー作『自分で奇跡を起こす方法』(フォレスト出版)はテレビ番組で紹介され、大きな反響を呼んだ。『本物の気づかい』『一流の人間力』(ともにディスカヴァー)、『不敗の人生をつくる言葉』(致知出版社)、『選ばれる人の100の習慣』(日経BP)など著書多数。
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