「これからも生きていけるってこと?」一家心中を覚悟した家族に訪れた転機。難関校合格と、「生活保護」が決まった日
天国と地獄
試験本番から10日後の合格発表の日。僕は、リョウスケと高校を訪れました。
校内に入ると、体育館内に設置された受付スペースで、先生たちが1人ひとりに合否通知書の入った茶色い封筒を配布していました。
バクバクと高鳴る心臓を抑えて、僕はそっと封筒を開けてみました。 結果は、「合格」。奇跡が起きた……。
「リョウスケ! リョウスケ! 受かってた! 翠嵐受かってた!」
隣にいたリョウスケに、勢いそのままに合格を報告しました。しかし、彼は封筒の中身をもの悲しそうに見つめたままでした。
「ごめん、孝弥。俺、落ちてた……」
合格発表で騒がしい校内に、一瞬の沈黙が生まれたようでした。
「え……」
「気遣わないで。ごめん、今日は先帰る」
リョウスケはその言葉だけを残して、校舎から去っていきました。後日、入試成績の開示結果を確認したところ、リョウスケと僕の点数は1点差であったことがわかりました。
つまり、僕が受験をしていなければ、彼は合格していたのかもしれません。
高揚感と罪悪感が入り混じる合格発表。校門を出ると、佐々木先生の姿が見えました。僕らの合否を気にかけて、わざわざ駆けつけてくれたようです。
「清野くん、どうやらその表情だと……」
「いや、合格していました。佐々木先生、いままでありがとうございました」
「そうですか、それはよかったですね。しかし、どうして浮かない顔をしているんですか?」
「それが、一緒に受験したリョウスケが落ちちゃって……」
「ああ脇坂くんのことですか。彼にはさっき会ったので声をかけました。残念ではありますが、清野くんが責任を感じる必要はありません。人はみな、誰かの犠牲の上に生きているのです。清野くんは受験を通じて『翠嵐』という環境を勝ち取ったんですから、不合格者の分まで、これから精一杯学んでください」
「そう、ですね」
逆転した人生の裏には、転落した人生がある。だからこそ、置かれた環境で最善を尽くさなければならない。不思議と使命感のようなものが込み上げてきました。
「それと、ご両親には結果を報告しましたか?」
「まだです」
「では早く家に帰って、報告してあげてください。きっと心配していますよ」
「わかりました。佐々木先生、これまでありがとうございました」
気持ちの整理はつきませんでしたが、吉報を待つ家族のもとへ急がなければならない。そう思った僕は、電車の中すらも走るような気持ちで、家族のもとへと急ぎました。
そして勢いよく家のドアを開けると、その音を聞いた母が玄関まで駆けつけてきてくれました。
「結果、どうだったの?」
母の目鼻は真っ赤に腫れていました。あとから聞いた話ですが、入試本番の日も、今日も、母は緊張と不安で食事は喉を通らず、リビングの机でティッシュを片手に僕の帰りを待ってくれていたようです。
「翠嵐合格してたよ!」
この言葉を聞くや否や、母は膝から崩れ落ち「よかった、本当によかった」と顔を押さえて泣き出してしまいました。部屋にいた父も、この騒ぎを聞きつけてゆっくりと、壁に寄りかかりながら玄関までやってきました。
「そうか。翠嵐、受かったのか」
そして夕方になり、妹も帰ってきました。
「お兄ちゃん、おめでとう!」
こうして家族はお祝いムード一色に包まれました。
▶「これからも、生きていけるってこと?」もう1つの“大事な報告”とは
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