副業を持つことで「すり減ってしまう」人とは?労働経済学者の最新知見

2022.02.18 WORK

前編では「なぜみんなは副業を始めるのか」動機をひもといていただきました。

労働経済学の視点から副業を研究し続けてきた東洋大学経済学部 准教授 川上淳之先生に、学術視点からの客観的な背景を伺います。後編です。

 

副業を持つことで「すり減ってしまう」のはこういう人

――川上先生は副業に対する満足度と効果を統計的に測定しています。どういう人ならば「副業で人生の満足度を上げられる」のか、いっぽう「すり減ってしまう人」は誰なのか教えてください。

 

ひとつ言えるのは、「こういう副業をやってみたら本業に生かせるんじゃないかな」と思って飛び込む場合は人生の満足度を上げる効果があるんじゃないかなということ。いっぽうで、給与だけが目的の場合は自分自身のスキル上昇やキャリアの満足感に結びついていかず、満足度が低いという傾向があります。

 

あくまでも仮説ですが、自分の仕事に裁量の幅があり、副業で得た経験が本業の仕事に生かせる人は満足度が上がるでしょう。いっぽう、マニュアルを遵守する仕事ならばマニュアルからはみ出ることができないですし、提案を受け入れない会社ならば人脈や経験を直接生かすことができません。経験を生かせそうかどうかが一つの判断材料になるのではないかと思います。

 

ここで言えることは、あくまでデータを用いた分析で平均的な差異を見ているだけで、当然ながらここからはみ出る人もいるということ。たとえば、本業としてコンビニ A で働いている人が副業でコンビニ B で働いた場合、B で得た業務知識を A に生かすことができるかもしれません。でも、こうしたケースは統計には表れないため、わたしの研究では評価がしにくいのです。

 

収入が必要だから副業しないとならない状況は不幸であるいっぽう、副業を持ちたいなと思ったときに実際に持つことができるなら、副業を持てたという事実に幸福感が上がります。ですが、収入のための副業は、結局仕事の量が増えて2つの仕事を行き来するだけになり、あまり望ましい状態ではありませんでした。

 

果たして40代50代になった自分が「望ましいキャリア」で働く筋道をその副業で形成できるのか。開業のための修行としての副業などもあると思いますが、副業を持たないで本業に集中する筋道も検討する必要があるでしょう。キャリアカウンセラーや上司などいろいろな立場の人に相談して、自分が身に着けるべきことは何かを考えるのがいいのだろうと思います。

 

副業を始めるなら「本業の周囲とよく相談をする」のが大切

――もし副業を持つことにした場合、本業の会社に対して払うべき注意や配慮はありますか?

 

半数より多い会社では副業を認めるようになったとはいえ、現状では副業に優しい会社ばかりではありません。大切なのは本業の会社としっかりコミュニケーションをとること。こういうことをやろうと思っているんです、こういう経験をすればキャリア形成を本業と共有することができると思うんですという点をしっかりと伝えることで、会社も副業を評価しやすくなります。

 

現在禁止されている会社でも、副業解禁を提案し相談することはできます。過去にそういった事例がないのか聞いてみてください。決して独断で始めないことです。トラブルはできるだけ避けてください。副業を認める社風ではなくても、相談し、その重要性を説明することで会社の考えが変わることもあります。結果的に副業の重要性に気づいてもらえることもあります。

 

もし副業を始める場合も、いま働いている職場の周囲の人たちへの配慮は重要です。育児休暇や時短勤務も、制度が始まったころはどう人員調整をするか、同僚の納得を得るかという話がよく言われて、やがて社員の意識が変わることで軋轢も軽減されていきました。

 

副業を認める会社は増加傾向にあっても、すべてが認めているわけではありません。勤め先の会社が副業を認めてくれない場合は、コミュニケーションを取りながら進めていくのが大切です。副業は他の働き方改革である長時間労働の是正、テレワーク促進と補完関係が高いため、これらが進んでいるほど副業を持ちやすくなる、認める意義が高いという説明も必要でしょう。

 

部下の副業希望に対しては「社内での調整」も提示していい

――もし自分の部下が副業をしたいと相談してきた場合、どう捉えるべきでしょうか?

 

一つ言えることは、まだ若い、会社に入って日が浅い方が夏休み前に副業したいと相談しにくる場合、まだちょっとその時期じゃないかなと(笑)。

 

副業はある程度経験を積んで、効率的にお金を稼げるスキルを身に着けてから行うほうが、結果的によいスキルが身に付きます。従って、「いまの仕事を本業だと思ってくれているなら、スキルをきちんと身に着けてからに」というアドバイスができると思います。

 

他の部署で働いてみたいという希望がある場合。たとえば経理や広告、デザインをやってみたいという場合、その人がやる気を出せるのだなと思うならば、会社の中で調整できることもあるのかもしれません。たとえばプロジェクトだけ参加するなどの形で会社内での別就業があり得るのならば、社内キャリア形成を手伝ってあげることできると思います。

 

副業とは「やらなければ乗り遅れる」ものではない

――副業をしないと社会から取り残されていくのではという焦りが生まれています。

 

副業ブームなので、やらなければならない、やらなきゃと思っている人もいると思います。でも、果たして副業が本当に必要なのでしょうか? 家族との時間が取れなくなるのではないか。余暇時間がなくなるのでは。いろいろな視点から総合的に判断をして、副業を持つということを自問してから、きちんと届け出を出して始めてください。

 

副業は無理にやらないとならないものではありません。しかし、誰かの雇用が生まれることがあるので、ビジネスの枠組みを考えて雇用を増やしていくことをマクロレベルで考えた場合、社会的に重要なことだと思います。

 

前編>>>「副業をしたほうが幸せな人、そうでもない人」労働経済学者の最新知見

 

お話・東洋大学 経済学部 准教授

川上 淳之(かわかみ・あつし)先生

 

学習院大学経済学部経済学科卒業後、同大学院にて博士号を取得。独立行政法人 経済産業研究所、内閣府経済社会総合研究所などを経て、2017年より現職。労働経済学、産業組織論を専門とし、現在は副業のほか、不妊治療と働き方の関係などの研究テーマに取り組む。

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