50歳、更年期の症状は「親から遺伝した体質」で決まりますか?母のように10年も続くのでしょうか
青年期、壮年期などと同じような時期の呼び方として、女性の閉経の前後5年を更年期と呼びます。
日本人の閉経の平均は50歳のため、45~55歳は更年期にあたる人が多数。この時期に女性ホルモンの分泌が急激に減少するため、更年期障害と呼ばれる状態に至る人もいます。
乳がんのセカンドオピニオンを中心に診察する医師の新見正則先生は、丁寧に私たちの訴えに耳を傾けながら、「だいじょうぶ!更年期は絶対終わるから!」と太鼓判を押してくれる力強い味方。そんな新見先生に「医師に聞いていいのか迷うこと」をまとめて聞くシリーズです。
【Dr.新見の更年期あかるい相談室】#14
Q・体質によって出る更年期症状は決まっているのでしょうか?
新見先生、こんにちは。閉経しているかはわかりませんが、生理が3か月ほど止まっている50歳です。昨年から婦人科でホルモン補充療法を始めました。
私はもともとストレスをため込むタイプですが、この1年で不眠や抑うつが出始めました。夜ベッドに入ってから1時間以上、パート先でのやりとりや友人との会話を思い出し、あれがダメだった、この言い方もよくなかった、どうして私はこんなにダメなんだろうとクヨクヨ考えてしまいます。寝付いてもすぐ目が覚め、熟眠感もありません。
先日、朝練に出かける準備をしている娘に「ママは朝、ああ~、疲れたって言いながら起きてくるよね」と言われました。それで思い出したのですが、私の母も「ああ~、疲れた」が口ぐせでした。私が高校生の頃、今思えば更年期で倦怠感が強かったのでしょうけれど、私が部活を終えて帰宅するとベッドで寝たままということもよくありました。
私には母の体質が遺伝して、同じような症状に苦しむのでしょうか。逆に、母に出なかった症状は私にも出ないのでしょうか。母は60歳近くまで寝たり起きたりを繰り返していましたので、もし体質が関係するなら、私もあと10年近く悩むのかなと憂鬱な気分です。
(ノンさん・50歳 更年期症状の度合い/とてもつらく、耐え難いと感じることがある)
A・体質「だけ」では更年期症状は決まりません
ノンさん、こんにちは。うつうつとした気持ちを抱える更年期世代の女性は多いので、今回のご質問はたくさんの方に当てはまると思います。
さて、どんな病気であれ大きく影響を及ぼす2つの要素があります。「遺伝」と「環境」です。同じ遺伝子を持つ血縁ならば、違うところに住んでいても同じ病気になる可能性があります。いっぽうで、血がつながっていなくても同じ屋根の下で生活していれば同じ病気になることがあります。
例えば、女優のアンジェリーナ・ジョリーは遺伝子「BRCA」に変異があるとして、乳がんの予防のために乳腺を切除しましたよね。このように明らかに遺伝する病気は存在します。日本人の乳がんのうち、5〜10%はアンジーと同じ「BRCA」の遺伝です。遺伝なんて稀だと思っていたけれど、実際は普通の乳がんでも20人に1人から2人見つかります。乳がんはこうした遺伝の影響が検査できるので、心配なら医師に相談してください。
いっぽうで、アメリカに移住した日本人は、遺伝子は完全に日本人であるにも関わらずアメリカで多い肥満、糖尿などの病気にかかりやすくなることが知られています。
遺伝と聞くと「母はこうだったから私もこうなる」「姉と同じように私にもこの症状が出る」と血筋に執着する人が出てしまうのですが、どんな病気も遺伝と環境の両方が影響を及ぼしている点を思い出してください。
更年期症状に関しては「関係ない」と言っていいと思う
さて、今回のご相談は、要するにお母さんが更年期のホットフラッシュに苦しんだら娘も苦しむか、というお話ですよね。
ぼくはたくさんの更年期の症例を見てきましたが、実のところ「母も全く同じ症状でした」という人は案外いませんでした。それこそ、数えるほどしかいない。なぜかというと、昔に比べて初潮が早まり、出産の回数は減ったため、生涯を通じての生理の回数が増え、更年期症状のあり方が変わっているからでしょう。
更年期症状の診断や治療を遺伝の有無で変更することはないので、医学の観点では「関係があってもなくてもどちらでもいい」のです。だったらわざわざお母さんのせいにしなくていいよね、というのがぼくのスタンス。逆に、「自分では逆らえない遺伝のせいだ」と考えたほうが気持ちがラクならしてもいいです。
ですが、「心の体質」はひとつ屋根の下で親から子へ転移する要素がある
お母さんと症状が同じだという場合、伝わっているのは遺伝子ではなく「心の体質」ではないかとぼくは思います。「心の体質」は身体症状ととても強く結びつきます。
前述の遺伝とは別に、環境は次の世代に習性を伝えます。簡単に言うと、口うるさい親の子どもは口うるさいんです(笑)。こまごました性格の親の子どもでおおらかな人物といのはめったにいません。
ぼくはずっと、更年期症状になるべく意識を向けず無視するような、図太さを併せ持ったレジリエンス、「フェムレジ」を鍛えるべしと言っています。なぜなら、更年期症状は意識すればするほどひどくなるから。ホットフラッシュを気にするタイプの親の子どもはやっぱり気にしますが、汗を気にしない親の子は気にしない。一緒に暮らす生活環境で似るんだなと思います。
これは遺伝という形質の分野ではなく、器の中身である心の分野です。もし「私の母はホットフラッシュが酷かったから、私もきっとずっと酷いだろう」という不安意識を持っているなら、その呪縛からは解き放たれてください。ほぼ関係ありませんので、トラブルに怯えて自分で自分を余計に苦しめる必要はありません。
逆に、「ホットフラッシュはしんどいけど、新見先生もあと1年くらいで終わるから心配するなって書いてたし」と関心を減らす方向に思考を変えられると、その瞬間で症状は底を打ち、ゆっくりと軽減していくのではと思います。
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お話/新見正則医院 院長 新見正則先生
1985年 慶應義塾大学医学部卒業。98年 英国オックスフォード大学医学博士取得(Doctor of Philosophy)。2008年より帝京大学医学部博士課程指導教授。20代は外科医、30代は免疫学者、40代は漢方医として研鑽を積む。現在は乳がん患者に対するセカンドオピニオンを中心に、漢方、肥満、運動、更年期など女性の悩みに幅広く寄り添う自由診療のクリニックで診察を続ける。がん治療に於いては、明確な抗がんエビデンスを有する生薬、フアイアの普及も行う。
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