これ「フェムテック」「フェムケア」どっちが正解?展示会のパイオニアが考える「答えは…」

2023.02.05 WORK

2月8日(水)から10日(金)まで東京ビッグサイトで「健康博覧会」と併催される「ジェンダード・イノベーションEXPO」。

女性ヘルスケア市場に特化したシンクタンクカンパニー「ウーマンズ」と、世界最大B2Bイベント主催企業の日本ブランチ「インフォーマ マーケッツ ジャパン」がタッグを組んで実施する展示会ですが、今回は「フェムテック」の名を「ジェンダード・イノベーション」に変更しての開催。

なぜ敢えて、ここまでその名のメジャー化に一役買ってきた先駆者がフェムテックの名を使わず変更するのでしょう……?

前編『過熱する「フェムテック・ブーム」これでいいのか?展示会パイオニアが「その名を思い切って捨てた」深すぎる理由』に続く中編です。

 

フェムテック?フェムケア?「用語の厳密な定義を決めるより、もっとすべきことがある」

――もうひとつ、どこからどこまでがフェムテックなのかという疑問もあります。ナプキンはテックではなく「フェムケア」の分類ですよね。

阿部 メディアやその時々の文脈によって使われ方が微妙に異なりますが、一般的には、デジタルテクノロジーを搭載したものがフェムテックで、女性特有の心身のケアをするものをフェムケア、というように使い分けられています。その場合だとナプキンはフェムケアに入りますよね。フェムケアとフェムテックの両方を一括りでフェムテック、と表現するケースも見られます。特に意識したり深くは考えずにどちらかの言葉を使っている人もいますし。ですが、私たちは定義についてはもっとライトに考えてて、「あらゆる年代・ライフステージ・状況における女性特有の健康課題、健康ニーズ、健康悩みに着目した製品・サービスのことを指して日々この言葉を使ってます。

 

――なるほど、あまり定義をあれこれ言うより、むしろもっと包括的に考えようということでしょうか。

阿部 はい、「あらゆる状況」というのは、障害の有無、未病・病中・病後、怪我の有無、経済状況、環境など、課題が存在し得るすべての状況のこと。なので、テクノロジーの搭載有無でフェムテックとフェムケアを厳密に使い分ける必要はなく、前述の範囲に入るものであれば「フェムテック」と捉えて良いと考えています。

 

――なるほど、目的が達成されればOKなんだから、いろいろな手段を取っていこうよ、という感じですね?

阿部 ここを厳密に使い分けないことを批判するメディアや医療者、専門家もいますが、フェムテックの本質は、女性の健康問題を解決する商品・サービスのこと。影響力の大きいメディアや発言権の大きい医療者、専門家が言葉の定義にこだわるようなことを繰り返していると、フェムテックで起業しようとしているスタートアップや新事業に取り組もうとしている企業が尻込みしてしまう。

 

一歩間違えると「怪しい」イメージすらついてしまう。そんなリスクも考えないとならない

――市場が大きくなればなるほど誰かが苦しみから解放されるわけですから、成長が優先ということでしょうか。

阿部 成長が優先というか、市場成長によるポジティブな側面を肯定する目線も持ち合わせた上で、批判すべきことがあれば的確な批判をしてほしいって思ってます。関連法規を遵守していない製品が登場しないよう、メディアなどが企業や業界の監視役となって問題提起することはもちろん大事です。でも、中にはメディアが突く場所がズレてて、「フェムテックとフェムケアが混在している」「これはフェムテックではなくフェムケアでは?」など、重箱の隅をつつくようなことをわざわざ大きく取り上げてることもあって、「論点そこ!?」とガッカリします。こういう記事が拡散されると、世の中に「フェムテック=怪しいもの」というイメージが広がってしまう。

 

――イメージの良し悪しはかなり全体を左右しますよね、もともと未知の概念を広めていくフェイズなんですから。

阿部 このままでは、企業の開発意欲が下がり、他社の成功事例を無難に真似する=多様性が生まれなくなる。こんな事態に陥ってしまいます。これでは、いつまでたってもヘルスケア市場は成長しません。もちろん、センシングやAIなどのハイテク機能があれば便利ですが、日本はカイゼンは得意でもテクノロジーの新規開発力が弱く、そもそも、VCやCVCからの資金調達が容易ではないため、開発に限界もある。それに、テクノロジーを搭載しなくても、それ以前にまだ光が当てられていない女性特有の健康課題がたくさん残されています。

 

――それはもう、そもそも光が当たっている課題のほうが少ないくらいだなと思います。

阿部 はい。なので、テクノロジーの追求の前に、まずは、光の当てられていない健康課題を拾って商品化してほしいですね。逆にテクノロジーばかりを追ってしまうと、 本来、このフェムテックブームのゴールである「健康課題の解決」を目指す機運がなくなってしまうのではないかと懸念してます。フェムテックはテックの搭載が目的なのではなく、あくまでも課題を解決する道具なんです。

 

フェムテックは「女性全世代の全課題」を解決するもの。多様性豊かな市場こそが本来の姿

22年開催時。課題解決意識の高い来訪者が多いため説明にも力が入る。

――言われてみれば、「女性の課題を解決する」フェムテックですから、肩こりや不眠、骨粗しょう症なんかも解決してほしいです。

阿部 そうですよね。例えば不定愁訴は全年代で男性よりも女性に多いことがデータでも明らかになっていて、分かりやすいものだと、肩こりや腰痛、手足の関節の痛み、冷えなどがそう。さらに女性の不定愁訴を年代別に見ていくと、年齢によって自覚する不定愁訴の内容も変化していく。こういうのも女性ならではの健康問題。こういうところに着目したフェムテックも色々あるとありがたいですよね。ただ現状フェムテックの製品カテゴリーはまだまだ限定的です。

 

白石 国内外の様々な展示会の出展製品の傾向を見ていても感じるんですが、女性をターゲットにしている製品って、もちろん色々な理由はありますがどうしてもいろんな視点で偏りが出やすい傾向があると思います。ターゲットが若年層向けのものが多かったり、美容効果を訴求する製品が多かったり、ピンクのパッケージが多かったり。

 

――いわゆる「ダサピンク」問題につながる界隈ですね。ピンクって本当にレンジが広い色で、なかなか難しいのに。

白石 それも「女性は、綺麗になりたい・若く見られたいと思ってるから美容を訴求しよう」「女性はピンクが好き」というジェンダーバイアスが企業側にかかっていたり、「新製品は若い人に向けて作るもの」という企業のマーケティング文化から抜け出せないことなどが原因ですよね。こういう風に、企業が女性をターゲットにしようとすると、どうしても偏りがちになってしまうことが、フェムテック市場においても起きているんだと思います。

 

――ならば女性が作ればいいかというと、それでもけっこう偏るのがまた不思議で。企業風土病ですかね。

阿部 それ、企業のあるあるです。フェムテック事業を新規で立ち上げる際に女性だけでチームを作る会社が実に多いんです。確かに当事者である女性が開発に関わることは大きくプラスに働きますが、そもそも、女性はどんな健康問題を生涯のなかで抱えるのか?といったことを理解していなければ、企画・開発をするのが女性であっても、発想はやはり、分かりやすい健康問題に偏ります。生理・PMS・妊活・産後・更年期などに限定されていってしまう。

 

――私たちも思い当たると言いますか、なんとなく、こうなってきた原因が見えてきた気がします。

阿部 この状況から脱して開発企業の発想を豊かにするには、男女ともに、女性特有の健康問題を年代別・ライフコース・ライフステージ別に知ることが重要です。フェムテックの話になると、とかく、消費者側のヘルスリテラシーが問われることが多いですが、これは企業側も同じです。特に最近は、いろんな異業種がヘルスケア市場に参入しているので、女性特有の健康問題やヘルスケア領域特有のマーケティングを理解しないままにビジネスをしている企業も散見されます。市場全体の活性化のためには、消費者も企業側も、どちらも、ヘルスリテラシーを高める必要があると常々思います。

 

――多様性の確保はどうでしょうか、まったくの異業種からの参入を促進するなどのほうがいい?

阿部 異業種であってもなくても、どちらでも良いんですが、女性を対象にした健康商品を「フェムテック」と再定義してPRすることでも、フェムテック市場での多様性が生まれるきっかけになると思っています。これは企業サイドの認識の問題ではあるんですが、全国の出展企業をリサーチしている中で、女性の健康問題を解決する商品は本当にたくさんあって、そういう企業さんに出展のお誘いをすると、「うちの商品ってフェムテックなの!?」と反応する企業さんが本当に多くて。

 

――フェムテックをつくっているのに、それがフェムテックであることに気付いてない、ということですね

阿部 はい。「フェムテックって生理とかデリケートゾーンケアのことだと思ってた」という声も多いんです。フェムテックのブームを知ってはいても、言葉のイメージから、「自分の商品は関係ない」と思ってしまう。でも実は、こういう企業さんのほうが商品クオリティが高いことも多くて。例えば、当社ウーマンズが昨年5月に大阪の大丸松坂屋百貨店 大丸梅田店さんと共催した「フェムテック展」では、更年期特有の手指の痛み「へバーデン結節」を軽減する錫製リングを作る企業さんが、フェムテックとして初めての展示を行い、来場者の高い関心をさらっていました。

 

▶【後編】「フェムテック」の上位概念「ジェンダード・イノベーション」を導入することで「得たもの」とは

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