「熱中症対策に塩タブレット」は正解なの?「抜いてはいけないもの」って?知っておきたい熱中症の盲点

気象庁3か月予報(6月20日発表)によれば、2023年の7月・8月の気温は東日本で「平年並みか高い」、西日本や沖縄・奄美では「高い」見通しです。各地で過去最高の暑さを記録する地点も出そうです。

ここで気になるのが熱中症。

「熱中症はあらゆる病気の中でも完全に予防が可能な病気です。にもかかわらず、朝元気に出ていった人が、午後にはもう取返しのつかない状態になってしまう、関係者全員に悔いの残る病気。今年は誰もが当事者になり得るという危機意識を持って、予防のための知識を得ていただきたい」

そう語るのは神奈川県済生会横浜市東部病院の谷口英喜先生。今年知っておきたいことを教えていただきます。

 

2023年の熱中症リスクが「否応なしに上がってしまう」これだけの理由

熱中症時は救急車を待つ間も全力で体温を下げる。①日陰や涼しい室内に移動②厚い衣服は脱がせる。胸や腹に水をかけ、あおいで身体を冷やす③意識があれば経口補水液など水分をとらせる④首の後ろ、わきの下、鼠径部を氷で冷却。足の裏やほほ、手のひらも有効。

「22年5月1日~6月18日の緊急搬送人員は5247人でしたが、23年の同日比較はすでに6895人に。ますます熱中症リスクは高まっていると言えるでしょう」

 

と谷口先生。背景には暑さだけではなく、人的な要因も考えられるそう。

 

「コロナ前と比べて脂肪が増えた影響で、身体に水分を蓄えてくれる筋肉の量が低下した人が増えました。脱水症状になりやすい状態にあるのです」

 

熱中症は暑さ・蒸し暑さの「暑熱環境」が引き金になります。大汗をかいて水分不足に陥ることで「脱水症」(軽い熱中症)が起き、やがて体温コントロール不良で「高体温症」になった状態が重い熱中症。

 

「私たちの体は汗での放熱、皮膚からの放熱によって体温が上がりすぎないよう常にコントロールしています。重要なのが水分。体内の水分が不足すると汗をかけず、皮膚への体温の移動も妨げられて体温が上がってしまいます。熱中症の初期症状、脱水症では脳・消化器・筋肉の3つに同時に影響が出ますが、これらはいずれも水分が豊富な部位。全身の水分が等しく失われる中で、これらの部位のダメージが先に現れてくるのです」

 

たとえば二日酔いのときには頭痛・食欲不振・身体の痛みが出ますが、これがまさに脳・消化器・筋肉に影響の出た脱水症状なのだそう。これが蒸し暑さによって起きれば熱中症です。

 

「私が携わってきた救急救命には現場で動けなくなったレベルの患者さんが搬送されてきますが、残念ながら今日の進歩した医学をもってしても、命は助けられても高体温でダメージを受けた神経系はもう元には戻せません。体温が上がってからでは手遅れなので、暑さ、特に蒸し暑さを予防し、脱水症にならないようコントロールします」

 

熱中症になる理由、「暑さ」そのものよりも影響があるのは…意外にも!

さて、「気温」「湿度」「輻射熱」の3つのうち、熱中症にもっとも影響があるのはどれだと思いますか? 答えは「湿度」。なので、実はいちばん暑い8月よりも、梅雨から梅雨明けの6月7月がもっともリスクが高いのだそう。

 

「朝の天気予報でその日が蒸し暑い日になるとわかると、私たち医師は気を引き締めます。つまり、一番重要なのは毎朝の天気予報の確認。『暑さ指数』をよく見て、それに応じた行動をとってください。2番目に重要なのが脱水症の予防ですが、ただ水分補給をとるよりもっと大事なことがあります」

 

意外かもしれませんが、「朝ごはんをきちんと食べること」がとても重要なのだそう。

 

「60kgの人を例にすると、身体には1日に2500mlの水分が入ってきて、同じく2500mlが出ていきます。入ってくる水分の多くは食事から。そのため、熱中症対策には『いかに食事から水分を摂るか』が重要です。朝ごはんを欠食する子どもが増えていますが、1食抜くと水分摂取量は最大で500ml減ってしまいます。そのまま午前中に暑い中での体育などをしようものならば熱中症リスクはぐんと増大。朝ごはんを抜くことは危険だと理解してください」

 

では、どのような対策が必要なのでしょう。まず、水分が多く含まれる夏野菜は熱中症対策に最適。また、果物も栄養素豊富なうえに水分も多く含み、しかも頻繁に食べやすいため意識してテーブルに並べておきたいところ。

 

「規則正しい食生活と水分補給、この両立が大切です。水分は一気にたくさん飲むのではなく、1日8回コップ1杯ずつを目安にこまめに分けてとってください。その間におやつとして果物を挟んでもらうと確実です。たとえばサラダとスープのついたカレー1食で水分は約800mlとることができるので、カレーは夏向きの食事。このように水分の多いものを意識して食べることが熱中症対策につながります」

 

「塩飴・塩タブレットを持たせたからうちの子は大丈夫」は危険な認識!使い方を間違えないで

そのほか意識するといい食べ物は何なのでしょう。

 

「まず、暑熱順化といって身体が熱に慣れるのを助けてくれる効果があるビタミンC。また、疲労物質を除去し代謝を促進してくれるビタミンB群。野菜ならトマト、ブロッコリー、ほうれんそう、きゅうりなど。果物ならすいか、グレープフルーツ、バナナ、キウイ、いちごなどです。旬のものを中心にじょうずに取り入れてください」

 

逆に、「熱中症対策をしているつもり」なのに実は逆効果という、対策の盲点はありますか?

 

「よく『塩飴、塩タブレットを持たせたから大丈夫』という方がいます。これは逆に危ない。それらだけを摂っても、全身にいきわたるまで時間がかかるうえ、体内の塩分濃度が高くなってしまうので逆に脱水が進みます。塩は必ずたくさんの水分といっしょにとることが重要です」

 

そのほかにも気を付けるべき「思い込み」が。

 

「『冷たい飲み物を持たせたから大丈夫』というのも危ない。水分は量を多くとることが重要なので、好きな温度の水を時間をかけてたくさん飲んでいくほうがいい。冷たい水を飲んで体温を下げるとしたら4~5リットルも必要になるのでまず自力では飲めず、現実的ではありません」

 

カフェイン飲料がNGというのもウソ。カフェインでトイレが近くなる人は脱水につながるので避けるべきですが、日常的にカフェインを摂取している人はある程度の耐性があるので問題なく、飲みやすい形の水分を摂ることを優先してOK。ただし、すでに熱中症になっている場合は飲ませてはいけません。

 

「『スポーツドリンクを持たせたから大丈夫』もウソ、危険です。糖分をとるとおなかいっぱいになって食欲が低下しますが、前述の通り食事が食べられなくなったら大きなマイナス。正解はお茶か水を持たせること。また、運動量がとても多く1時間以上に渡り大量の汗をかく場合は経口補水液を使います」

 

覚えておいて!熱中症を防ぐため、重要なことは4つ

おさらいです! これらはぜひ、離れて暮らすご両親や、周囲の子どもを育てるご家庭、スポーツやガーデニング、屋外作業を行うお友達にもシェアして。

 

1・朝ごはんは抜かない。1日に必要な水分の半分は食事からとられているため

2・水分はコップ1杯ずつ1日8回、一気飲みはしないでこまめに飲む

3・大量に汗をかくときは塩分と水分両方を補う

4・ミネラルと糖の補給も行う

 

これを知っておけば今年は大丈夫!

 

 

ミキサー不要!ポリ袋で作る「塩キウイのラッシー」を朝ごはんにプラスして

朝ごはんにプラスしやすいフルーツのひとつがキウイフルーツ。ビタミンC・ビタミンB6のほか、カリウム・マグネシウム・鉄・銅などの各種栄養素とミネラルを豊富に含みます。栄養素と水分、塩分を一気にチャージできるラッシーを、なんとポリ袋で作れるレシピが登場。ご活用ください。

 

■材料 2人分

キウイ ゼスプリサンゴールド 2個

プレーンヨーグルト 200ml

牛乳 100ml

はちみつ 大さじ2

塩 ひとつまみ

氷 適量

 

■作り方

皮を剥いたキウイを厚手のポリ袋に入れてもみつぶす。袋の下端を斜めに1cmほど切り、コップ2つにキウイを絞り出す。ヨーグルトに牛乳、はちみつ、塩を加えてまぜ溶かし、氷を加えたコップに注ぎ入れる。

 

■熱中症のお話/神奈川県済生会横浜市東部病院 谷口英喜先生

1991年福島県立医科大学医学部卒。神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授を経て、済生会横浜市東部病院患者支援センター長兼栄養部部長に就任。神奈川県立がんセンター麻酔科にて非常勤医師も勤める。東京医療保健大学大学院医療保健学研究科客員教授。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急学会専門医、日本静脈経腸栄養学会認定医・指導医、日本外科代謝栄養学会・教育指導医。教えて!「かくれ脱水」委員会の副委員長を務める。学位論文は経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究。著書に『すぐに役立つ 経口補水療法ハンドブック』、『イラストでやさしく解説!「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本』(日本医療企画)、『はじめてとりくむ水・電解質の管理 基礎編・応用編』などがある。2023年6月27日に「いのちを守る水分補給」を一般の方向けに出版。

 

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