やりがちな「〇〇食べ」はNG。腸内で短鎖脂肪酸を作って、太りにくいカラダにするためには?(後編)
腸内細菌叢は肌のコンディションやメンタルにも影響する
●全身を巡る腸内免疫
腸管や腸にはたくさんの免疫細胞がいて、全身の免疫細胞の約半数が腸管にいます。腸管は消化吸収のための器官ですが、体を守る免疫器官でもあります。腸管の中の免疫細胞は、ずっと同じところにいるわけではなく、体の中をぐるぐる回っています。血液やリンパ液に乗って全身を循環しているのです。血液やリンパ液から腸管の組織に出てきて、それがまた血液やリンパ液に戻って、別の組織に運ばれます。
このように免疫細胞は出入りを繰り返して全身を巡っているので、腸管の免疫細胞は脳や皮膚など、全身をくまなく移動します。そのため腸内環境は腸だけではなく、脳や皮膚などの全身の健康状態と密接に関わっています。
腸に免疫細胞がいるというとピンとこないかもしれませんが、腸には微生物がいますし、体外から食べ物や病気を起こす病原体までいろんなものが入ってきます。そうしたものから体を守るために免疫細胞が集まっているのです。体にいいものはそのまま通して、悪いものは排除する、いわば門番のような役割を腸の免疫細胞は担っています。
腸内環境の乱れは皮膚や脳にも影響する
腸内細胞と免疫細胞は非常に密な関係にあって、腸内環境が乱れたら免疫細胞も防御したり戦ったりするための免疫機能を発揮します。腸内環境が整っていたら、免疫もほどほどに落ち着いてきます。
免疫細胞の性質や機能と腸内の状態は非常に密に連動していて、腸内環境が乱れると免疫の機能が低下したり過剰になったりします。免疫機能が過剰になった細胞が全身を巡ると、肌荒れの原因になったり皮膚にダメージを及ぼしたりします。
脳に行けば脳の機能が低下し、メンタルに不調が現れる可能性もあります。これを脳腸相関と言いますが、腸内の免疫は、脳や皮膚など腸と離れた組織を繋げるメカニズムの一つになっています。
免疫は暴走して皮膚や脳にダメージを加えることもありますが、そのダメージを修復する役割も担っています。例えば、ダメージを負った細胞を分解して、どんどん食べて悪い細胞を排除することもあります。
脳の場合はもっと免疫と深い関わりがあり、脳は神経細胞と免疫細胞でできていると言っても過言ではありません。脳の発達や機能と密接に関わっていて、免疫に異常があると、さまざまな脳神経系の病気を発症します。
リーキーガット症候群(腸漏れ)とは?
聞きなれない言葉ですが、リーキーガット症候群は、脳機能やメンタル、皮膚など全身の健康状態に関連する理由の一つです。本来、健康的な腸管であれば、腸の中(口から腸の中までは体外と考えられています)と体内は腸管バリアによって隔てられています。
この腸管バリアが腸の中から体内へ、もしくは体内から腸の中への物質の移動をコントロールしていて、必要な栄養素は体内に入りますが、病原体が入ってくることはありません。
しかし、バリア機能が崩れた状態、リーキーガットが起こると、腸の中から体内へ、もしくは体内から腸の中へ物質の移動が制御できなくなってしまいます。本来、体内へ入ってはいけない不要な物質が体内に入ってくると、免疫が過剰に反応して炎症が起こります。
それが全身に波及すると、花粉症や肌荒れなどいろんな不調が起こる原因になります。リーキーガットだから病気になるというほど強い作用はありませんが、全身で病気が発症しやすい状態、病気が悪化しやすい状態になってしまいます。
そこにアレルギー体質などの素因があると、発症率が高まってしまうのです。リーキーガットだから病気になるのではなく病気を起こしやすい状態になると考えてください。リーキーガットにならないように腸内環境を整えて、病気を未然に防ぐことが大事です。
更年期で痩せにくい、腸活で対処するには?
更年期で代謝が落ちている人の場合、腸活をすることで代謝を上げるといいでしょう。腸管ホルモンは腸で働くのですが、血流に乗って全身を巡るので、腸活から全身の代謝を上げていくことが可能です。
食物繊維が不足しているのが現代人の特徴ですが、それはどちらかというと若い世代の話です。60代以上になると肉を食べなくなって野菜中心の食生活になりがちです。すると、タンパク質不足になってしまい、フレイルやサルコペニアなど筋力の低下を伴う病気になることもあります。
そもそも筋肉が少ないと代謝も進まないので、腸だけケアしていればいいとか野菜を食べていたらいいというのではなく、体づくりにはタンパク質の摂取や運動も大事だということを意識してください。
5年後、10年後の健康のために
ダイエットだけでなく、皮膚やメンタルのコンディションにも影響するという腸活。細見先生は、今の健康というよりは、5年後、10年後、20年後の健康のために継続することが大事だと言います。
穀類にはたくさんの食物繊維が含まれています。白米を玄米に変えたり、副菜に切り干し大根や納豆を加えたり、毎日続けられる無理のない腸活をしてみましょう。
プロフィール
細見晃司先生
2011年大阪府立大学生命環境科学部卒業、2015年に同大学院にて博士号(獣医学を専攻)を取得。2015年より国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所にて特任研究員として腸内細菌に関する研究をスタート。同研究所の主任研究員、日本学術振興会特別研究員PD、ドイツ留学などを経て、現職の大阪公立大学大学院獣医学研究科・准教授。
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