「プレゼントの山」に麻痺し精神束縛に気づけない【不倫の精算2】
依存からの脱出
彼女が明らかにおかしくなっていることに気がついた友人たちは、何度も説得した。
不倫なんて間違っていること。そんな理由で自分を優先させようとするなんて異常なこと。愛ではなくお金で縛ろうとしていること。
B子は、最初は「そんなことないよ」と否定していたが、心のどこかであぁやっぱり、と思っていた。自分はただの着せ替え人形であって、彼好みの女性に仕立てられているだけ。お金をかけてくれるのは、愛しているからじゃなくて自分の好きなように扱いたいだけ。
飽きるまで楽しむだけの存在でしかない。だから不倫。
離婚で参っていた彼女に最初から「施し」を与えることで信用を得て、自分の言いなりにさせたかっただけ。
家計が楽になるから、という下心があったことを、B子は否定しない。その甘えが彼の目論見でもあっただろう。
お金で縛り、罪悪感をB子に植え付けることで、自分から離れていけないように仕向けてきたのだ。
だが、それに気がついても、B子は彼と別れることができずにいた。
すり込まれた依存は、彼への恐怖も一緒に育てていた。彼の気に入らないことをすると毒矢のような鋭い痛みが飛んでくる。それが怖い。
黙って言うことをきいていれば、大事にしてもらえる。彼に対してまったく愛情がないわけではなかった。落ちこんでいたB子に「大丈夫だよ」と笑顔を向けてくれた彼の姿が、いつまでも尾を引いていた。
「何時に会うの?」
と尋ねると、B子は時計を見ながら「あと2時間後くらい。まだ勤務だから」と答えて隣の紙袋を覗き込んだ。
中に入っているのは、彼からもらったコートだ。
「はー、怖い……」
ぼそりとつぶやいて、彼女はテーブルに肘をつくと頭を抱えた。今日これから、彼に返すつもりなのだ。
高すぎてもらえない、と固辞したけれど無理やり押し付けられたものだった。散々迷ったが、
「これを着るとまた抜け出せなくなる」
と腹を決めたB子は怒りをぶつけられるのを覚悟で持ってきていた。
彼からもらったもので身を固めている彼女のそんな言動は、大きな矛盾も感じた。
だが、すべてはB子が決断して決めることなのだ。
不倫というより、「愛人」のような扱いを受けるB子。
そこに自由はなく、彼女の意思は尊重されず、黙って従うことだけが暗黙の了解になっている。
だが、彼女自身が抜け出そうと思えばそれは不可能ではない。
その一歩を自分で選べることに気がつくのは、時間の問題かもしれない。
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