【不倫の清算5】「仮面妻」の孤独。40代女性がハマるニセの愛

2018.01.02 LOVE

罪悪感がないことへの違和感

 

E子は、手にしたコーヒーの湯気を見つめながら

「もう10年もオトコと寝てないから、怖いなぁ」

と言った。

年下の彼とは、現在はふたりでランチに行く関係で留まっている。E子が「社長夫人」だと知ってからも、彼はまったく態度を変えなかった。

「今日のお昼も会うんだけどね、あそこの料亭で食べたいって言うから予約してるの。お金? まさか、もちろん割り勘よ」

彼の話になると、E子の顔は明るさを取り戻す。それは、忘れていた「オンナとしての自分」が蘇ったような力強さを感じさせる。

朝の短い逢瀬を繰り返すうちに親しくなり、連絡先を交換して個人的な時間を持つようになってから、「もっと仲良くなりたい」とE子は彼に言われていた。それが何を意味するか、E子自身も理解しているが、それでも彼と会うのをやめようとは思わない。

彼はE子に「大人っぽい女性が好みなんです」と語った。好きになる女性はいつも自分より年上。朝、ファーストフード店で無心にご飯を食べるE子の姿に惹かれた、と正直に話したそうだ。

一方的に手を出してくるような雰囲気はなく、どこまでも「ひとりの女性」として扱ってくれる彼に、E子の心は大きく傾いていた。

「一線」を超えるのも時間の問題だよね、と言うと

「わかってる。でも怖いよね、がっかりされたらどうしようって……」

頷きながらため息をつくE子だが、違和感は別にあった。

E子の中に、夫への罪悪感が見当たらないのだ。

肉体関係を持つことは、すでにE子にとって了解済みになっている。彼女が心配しているのは、ベッドを共にすれば本当に不倫関係となり、社会的に不利な状況になることではなく、「彼が自分との行為に満足してくれるかどうか」だけだった。

そこに、夫を裏切ることのためらいは見えない。

仮面夫婦であることの悩みはずっと聞いていたが、今のE子からそのときの翳りは消えていた。だが、新しい「悩み」が大きな間違いへの一歩になることを、E子自身気がついてはいない。

 

 

仮面夫婦からほかの男性との不倫関係に走る話はよく聞くが、その過程で一番ないがしろにされるのは夫である。

だが、彼女たちからすれば、これまでさんざん自分たちがないがしろにされてきたのであって、「不倫に走ったのは夫のせい」と思っていることもまた、事実として横たわっている。

この齟齬が埋まらない限り幸せな結婚生活を取り戻すことはできないが、そこには長い道のりと、避けられない痛みが待っていると言わざるをえない。

 

 

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