もう、故郷に帰っていいですか?-42歳・栄子の場合(3)-【40女の恋愛事情・story5】
彼はこう返してきた。
「そっちが来れないのなら、俺が行こうか?」
予想もしていなかった言葉だった。
「どうして……?」
「どうしてって、会いたいから」
「家の人にはなんて言うの?」
「そうだな、いい空気を吸ってくるってふらっと出てくるよ」
彼が、この街に来る。
本当は、連れて行きたいところも、見せてあげたい景色も、たくさんある。
それに、彼は、会いたいって、言ってくれた。
胸が高鳴る。
やっぱり、会いたい。
会って、ただ、そばにいたい。
「まあ、そうしょっちゅうは行けないとは、思うけど」
今までの月イチのデートよりも数は減るだろうな、と彼は匂わせてくる。
そんなの、寂しい。
心の中で、素直な私が叫んでいる。
やっぱり東京で、もう少し、頑張ってみようか。
でも、戻ったら、同じことの繰り返し。
私は彼と月に1度、会えるだけ……。
それじゃだめだ。
離れたからこそ、だめだってことが、わかる。
「ごめんね、もう、戻らないと思うんだ。東京でのことも、全部、忘れたいんだ」
彼にはそう繰り返した。
私はやっと気づいていた。
本当は会いたい。
でも、今なら離れているし、ガマンができそうだ。
そして私は気づいてしまった。
私は東京から離れたいんじゃない。
私はこの恋から離れたがっていたのだと……。
■もう、故郷に帰っていいですか?-42歳・栄子の場合・完-【40女の恋愛事情・story5】/毎週火曜18時更新■
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