「今はまだ離婚できない」月収9万円、娘は小学生。モラハラ夫から離れたい妻に立ちふさがる現実
説明しても責められる。黙っていても責められる。そんなやり取りを重ねるうちに、Eさんは「何が正しいか」よりも、「どうすれば夫を怒らせずに済むか」を考えるようになっていました。けれど、Eさんが夫との生活を12年間続けてきた理由は、それだけではありません。夫には優しい日もあり、外では「穏やかでいいご主人」と思われていました。そして、Eさん自身にも、収入や住まい、娘の生活への不安があります。
「離婚したい」そう思っても、すぐには動けない。本編では、そんなEさんが抱えてきた迷いと、現実についてお届けします。
<<前編:「娘のマフラー用」と書いた毛糸まで全部捨てられ、小学生の娘の前で嘲笑される結婚生活。それでも12年も我慢した私の本心は
12年間、なぜ離れなかったのか
Eさんの結婚生活は、最初から今のようなものだったわけではありません。結婚した頃、夫が文句を言うのは、「味が薄い」「シャツがない」という程度でした。
Eさんも、「次は濃いめにするね」「ここにあるよ」と、軽い気持ちで答えていました。
ところが娘が生まれると、「母親なんだから」「家にいるのに、なんでできないんだ」と責められることが増えていきました。たとえば朝、夫が着ていきたいシャツを見つけられないと、「まず謝れ」と言われます。そんなやり取りを繰り返すうちに、Eさんはシャツがどこにあるのかを確かめるより先に、謝るようになっていました。
本来なら、「シャツがどこにあるのか」を一緒に確認すれば済む話です。でも夫は、Eさんに謝罪を求めました。毎日のこうしたやり取りの中で、Eさんは自分の事情を説明することよりも、「どうすれば夫を怒らせずに済むか」を先に考えるようになっていったのです。
返事の仕方がよくない。
時間の使い方が悪い。
そう責められるたびに、Eさんは夫の怒りを早く収める方法を考えるようになりました。ただ、夫はいつも不機嫌だったわけではありません。本当に優しい日もあったのです。娘の学校の話を穏やかに聞いたり、休日には家族三人で楽しく出かけたりすることもありました。だからこそEさんは、
「私が言い返さなければ、こうして穏やかに暮らせるのかもしれない」
と思い、夫の暴言や怒鳴り声にも耐えようとしていました。
穏やかな時間が戻ると、つらかった出来事を振り返るよりも、「どうすれば、この穏やかな状態を続けられるだろう」と考えたくなるものです。Eさんも、夫が怒ったときの態度そのものを問題にするより、自分の話し方や、話を切り出すタイミングを変えようとしてきました。
責められた日は、「また言い方を間違えた」と思う。そして、「次こそうまく話せば、わかってくれるかもしれない」と考える。その繰り返しの中で、夫が怒らないようにするためには、自分がもっと努力しなければならないと思うようになっていたのです。
夫は外では穏やかで、周囲からは、「優しそうなご主人ね」と言われていました。Eさんは誰かに相談しようとしても、「あんなに優しいご主人が?」と言われるのではないかと思い、言葉をのみ込みました。
家の中で起きていることを、本当に信じてもらえるのだろうか。そんな不安も、相談をためらう理由のひとつになっていました。さらに、夫と離れて生活することを考えれば、現実的な不安もありました。Eさんのパート収入は、月に9万円ほどです。その収入だけで娘と暮らす部屋を借り、家賃や生活費を払い続ける見通しは立ちません。
娘の帰宅時間に合わせて仕事を終え、学校ではPTAの役員も任されています。働く時間を増やそうとしても、その間、娘を誰に頼めばいいのか、あてもありませんでした。
「物を捨てないで」そう言っただけで、あれほど責められる。では、「離婚したい」と伝えたら、夫はどれほど怒るだろう。そう考えると、話し合いを始めることさえ怖くなりました。
たとえ、「これはモラハラなのかもしれない」と気づいたとしても、住まいや収入、子どもの生活への不安が消えるわけではありません。Eさんは夫との関係に苦しみながらも、翌日になれば仕事へ行き、娘の生活を守り、毎日を続けていかなければならなかったのです。
「脳内の夫」に支配されるようになって…
娘にも、少しずつ変化が現れていました。夫の機嫌が悪い日は早く自分の部屋に入り、学校の話も、夫がいないときにだけするようになっていたのです。その姿を見るたびに、Eさんは「もう嫌だ、離婚したい」と思いました。
一方で、「娘から父親を奪ってしまっていいのだろうか」という迷いもあります。娘が家の中で緊張していることはわかっている。それでも、父親と別れて暮らすほうが本当にいいのか、すぐに決めることはできませんでした。
Eさん自身の生活にも、夫の影響は深く入り込んでいました。普段持ち歩くバッグに、毛糸や大切な物を隠すようになったのです。手芸店で欲しい布を見つけても、真っ先に浮かぶのは夫の顔でした。「また無駄だと言われるかもしれない」そう思うと、買うのをためらってしまいます。夫がその場にいなくても、何を持つのか、何を楽しむのかを、夫の反応に合わせて決めるようになっていたのです。
夫は「捨てないで」と言った物を捨てる。「やめてほしい」と伝えても聞き入れない。抗議すれば責められ、Eさんが謝るまで終わらない。そんなやり取りが繰り返されるうちに、Eさんは自分の希望を口にすることも、好きな物を持つことさえも難しくなっていきました。
ここに、「この関係がモラハラである理由」があります。夫婦の間でも、物をどう片づけるかについて意見が違うことはあるでしょう。
「これは使うから残しておきたい」そう伝え、もし相手が勝手に捨ててしまったのであれば謝る。そして、次からどうするかを二人で話し合う。それができるのであれば、まだ話し合う余地があります。ところがEさんの家では、夫の判断に反対すること自体が、責められる理由になっていました。
Eさんがどれだけ言い方を工夫しても、夫が妻の意見を聞こうとしなければ、話し合いにはなりません。Eさんは今、月に一度、パート代からお金を出して、手芸店の編み物教室に通っています。教室に頼み、編みかけのマフラーと毛糸を置かせてもらうことにしました。そこなら、夫に捨てられる心配はありません。次に教室へ行ったときにも、安心して続きを編むことができます。
本来、自分の家に自分の物を置くために、夫を説得したり、お願いしたりする必要はありません。自分の家なのですから、大切な物を安心して置いておける場所があるのは、当たり前のことです。
もし、責められることが怖くて何も言えなくなっているのなら、誰かに相談してみてください。家で起きていることや、今感じている生活への不安を言葉にするだけでも、自分の置かれている状況が整理されることがあります。
そして、「勝手に物を捨てるなんて、おかしいよ」と誰かに言ってもらうことで、
「やっぱり私が悪いわけではないんだ」
と思えるきっかけになることもあります。
Eさんが望んでいるのは、とてもささやかなことです。家でも好きな物を隠さずに置き、大好きな編み物を楽しめる暮らし。でも、今の夫との生活の中では、それさえ難しいと感じています。夫の身勝手な言動や、一度怒り始めるとなかなか収まらない姿を見続けるうちに、Eさんの夫への愛情は、もうほとんど残っていません。
「いつか夫と離婚して、自由になりたい」
そう思っています。
でも、
「今はまだ、そのときではない」
とも考えています。
Eさんは今、娘とのこれからの生活を考えながら、少しずつ離婚に向けた準備を始めています。
■取材・文/麻野祐香
モラハラ/HSP専門カウンセラー。モラハラで悩む方の心を守ることを使命とし、カウンセリングとTikTokライブでモラハラとHSPで悩む方のサポートを続けている。モラハラと夫は別れるべきと勧められることが多い中、離婚をしたくても事情があって別れられない人々の為に、モラハラ夫からの自分の心の守り方を発信。
https://www.be-nect.com/general-8
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