3年前の「夫の不貞」は時効なのに、ようやくつかんだ40歳サレ妻の幸せは慰謝料の対象⁉ とっくに破綻していても「離婚前の恋愛は不倫」という現実 

筆者は行政書士、ファイナンシャルプランナーとして2万組以上の夫婦の相談にのってきました。その経験上、年単位で別居を続けている(しかも離婚しない、できない)ケースも多いのです。

 

今回、取り上げるのは別居3年目の大島聖さん(40歳)。まだ離婚しておらず、夫の戸籍に入っているけれど、全く連絡をとっておらず、ほとんど音信不通の状態。このような「半離婚」の状況で他の男性を好きになり、「好きです」と言い、付き合い始めても大丈夫なのでしょうか?彼との関係を夫に知られ、「不貞」扱いされ、慰謝料を請求されるリスクがあるのですが、聖さんはそのことを知りませんでした。具体的に見ていきましょう。

 

<家族構成と登場人物、属性(すべて仮名。年齢は現在)>

夫:新垣清人(44歳)→派遣社員(年収350万円)
妻:大島聖(40歳)→正社員(年収550万円) ☆今回の相談者
夫の交際相手:金城美弥(年収不明)LINEのアカウント名「みゃー子」
妻の交際相手:北村裕哉(年収450万円)妻の勤務先の同僚

 

なお、本人が特定されないように実例から大幅に変更しています。また夫婦の年齢や年収、夫の不倫が発覚するきっかけや別居に至る流れ、妻が同僚男性と仲良くなる経緯などは各々のケースで異なるのであくまで参考程度に考えてください。

 

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【行政書士がみた、夫婦問題と危機管理 #11 離婚編】

 

 

夫のカミングアウトで別居が確定した、その後…

聖さん夫婦に致命的な亀裂が入ったのは結婚2年目。夫はあろうことか「聖より元の彼女のほうが好きだ」と言い放ち、家を飛び出して勝手に同居を解消したのです。現在、別居3年目。もはや二人の間で何の接点もなく、お金のやり取りもなし。籍だけ入っている状態です。

ほとんど離婚したも同然の生活ですが、まだ離婚しておらず、戸籍上は夫婦のままです。そんな宙ぶらりんな状態のなか、思わぬ形で夫にあげ足をとられる事態に発展したのです。何があったのでしょうか?

 

聖さんは別居2年目に転職。もちろん、面接の際に「夫がいます」と正直に答えたので、人事部や総務部という一部の同僚はそのことを知っています。しかし、今のご時世では「結婚しているの?」と尋ねるのはセクハラまがいの行為。聖さんは結婚指輪をはめていないし、会話の節々から夫の存在を感じられないし、もちろん、スマホに夫からのLINE通知が表示されることもありません。聖さんは「私は周囲から独身だと思われていました」と言います。

 

そんななか仲良くなったのは後輩の彼(36歳)。どちらも「BE:FIRST」が好きでファンクラブに入っているという共通点がありました。とはいえ超売れっ子のライブチケットを入手するのは、ファンクラブに入っていても困難。チケット入手の確率をあげるために、聖さんが2枚、彼が2枚、それぞれ申し込んで「当選したら一緒に行こう」と約束したそう。そうすると彼のほうが当選。二人でライブに行ったことがきっかけで付き合うようになったのです。

それから夜景を見ながら手をつないだり、映画館でポップコーンを半分こしたり、水族館でショーを見てズブ濡れになって笑い合ったり…二人の姿はまるで普通のカップル。何もおかしいところはないのですが、聖さんは「ある秘密」を抱えていました。実は…戸籍上の夫がいて、まだ離婚していないので、彼との関係は「不倫」だということ。

このころになると彼は結婚を考え始め、聖さんもできれば彼の気持ちにこたえたいと思っていました。けれど、こたえたくてもこたえられない秘密がある身。「うちは両親が離婚していて、あまり結婚にいいイメージがないの」とはぐらかすしかなかったのです。彼もまさか人妻と付き合っているとは思っていないでしょう。いつか話さないといけない!そう思っていた矢先、嫌な予感が悪い方に的中します。

 

 

どの口が言う⁉ 夫から慰謝料の催促が!

3年ぶりに夫からLINEが届いたのです。「慰謝料を払ってください」という無感情な文字列と一緒に3枚の写真が添付されていました。1枚目は7月5日、二人が箱根の旅館に入るところ。2枚目は7月6日、二人がその旅館から出るところ。そして3枚目は彼の車のナンバープレートでした。これは聖さんと彼が旅館に宿泊したことを示す証拠です。筆者は「これらの写真は素人が揃えるのは難しいので、旦那さんが興信所に依頼したのではないでしょうか?」と解説しました。

 

不貞行為によって配偶者に精神的苦痛を与えた場合、その代償として慰謝料を払わなければなりませんが(民法709条)、3年も顔を合わせていない夫が苦痛を感じるかどうかは甚だ疑問です。

LINEを受信した瞬間、聖さんは夫の顔や声、そして同居生活で強いられた苦痛がフラッシュバックし、目がぐるぐると回り、そのままスマホを地面に落としてしまったそうです。聖さんが筆者の事務所へ相談しに来たのは聖さんがパニック状態に陥ったときでした。

 

しかし、筆者は「大の大人が、一泊したのに何もなかったと言うのは苦しいのではないでしょうか?」と指摘しました。聖さんは「そうですよね…」と肩を落としますが、夫に対して大きな弱みを抱えていました。「私はどんな罰を受けても構いません。とにかく彼は悪くないんです」と懺悔します。

不貞行為は二人の連帯責任です。夫は聖さんだけでなく彼に慰謝料を請求することも可能です。万が一、そうなった場合、彼に迷惑がかかるだけでなく、愛想を尽かされ、別れを切り出される恐れもあります。

筆者は「慰謝料を払わないと、怒りの矛先は彼に向くでしょう」と前置きした上で、「彼だけ守っても仕方がありません。どちらに対しても慰謝料を請求させない。そういう方向にもっていかないと」と諭しました。

 

まず最初に「一緒に住んでいたのは3年も前だよ。私はキヨちゃん(夫の呼び名)のことを思い出したことはないし、キヨちゃんだって同じじゃないの?!それなのに今さら夫婦面されても困る!」と切り出したのです。すでに婚姻関係が破綻しているのなら、「婚姻関係中は異性と交際してはいけない」というルールが適用されないのではないかという主張です。

しかし、夫は前もって下調べをしていたようで、「もう3年?いや、まだ3年だよ。3年で婚姻関係は破綻したって言える?」と反撃してきたのです。あくまで一例ですが、婚姻関係が破綻したと認定されるのは別居6年以降の場合です(東京高裁・平成14年6月26日判決)。

 

そこで「そんなことを言うんだったら、私がキヨちゃんに慰謝料を請求するよ。みゃー子(不倫相手のLINEのアカウント名)と付き合っていたとき、まだ別居していなかったよね」と追撃したのです。

しかし、夫は何食わぬ顔で「お前、いつの話をしてるんだよ?もう3年の前のことだろ。もう時効じゃないか?!」と論点をずらそうとしたのです。ところで慰謝料の時効は何年でしょうか?法律(民法724条)によると「関係を知ったときから3年」と「関係を結んだときから20年」のどちらか早い方です。

今回の場合、聖さんが夫とみゃー子の関係を知ったのは3年前です。つまり、前者の条文に該当するので、すでに時効に達しており、慰謝料を請求することは難しいです。一見すると聖さんに打つ手はなさそうですが、どうすれば良いのでしょうか?

 

聖さんが請求しているのは不貞行為の慰謝料ではなく、離婚の慰謝料です。これは不倫という一つの出来事だけでなく、結婚生活のなかで起こった出来事について発生するものです。そのため、離婚時にまとめて清算するのが原則です。

慰謝料はもともと離婚原因を作った側が支払うものですが、妻以外の女性と交際し、妻より女性を選び、家を出て行ったという事情は「離婚原因を作った」と言い切って差し支えないでしょう。離婚の慰謝料の時効は「離婚から3年」です。

このように慰謝料の対象を差し替えれば、まだ時効をむかえておらず、今でも請求することは可能です。ただし、請求できるのは夫のみ。相手の女性に請求することは難しいです。夫は「もう終わったことだろう!」と言いますが、正しくはまだ終わっていないのです。

 

そのことを踏まえた上で「せっかくなので言わせてもらうわ。いい加減、離婚してください。離婚してくれれば、今までのことは水に流しましょう、お互いにね!」と。聖さんは今まで離婚の二文字を出さなかったことを棚にあげて、今さらですが、離婚の意思を伝えたのです。

しかし、10日間待っても返事がないので、さらに追撃。「水に流すって言うのは彼女もお咎めなしという意味です」と。3年間、音沙汰がなかった夫が突然、慰謝料を請求してきたのはおそらく彼女と別れ、財布が一つになり、金銭的に厳しくなったからでしょう。まだ関係を継続しているのならともかく、すでに夫と彼女が無関係なら、この期に及んで慰謝料を請求されるのは彼女にとっていい迷惑でしかありません。

ここまで厳しく追及した結果、1週間後には聖さんのポストに夫からの郵便が届きました。そこには夫が記入した離婚届が入っていたそうです。それ以降、夫がLINEで慰謝料の三文字を使うことはありませんでした。

 

このように聖さんは夫からの慰謝料請求をかわしつつ、正式に離婚することができたのですが、あくまで付け焼刃で対処したにすぎません。長期別居中とはいえ、離婚する前に交際を始めたという意味では夫と同じ穴のむじなです。夫が離婚を拒んでため、やむなく別居しているならともかく、聖さんは離婚する努力をせず、面倒なことから逃げ回っていた印象です。

離婚する前の交際は不倫。それは婚姻関係が破綻している場合を除けば、当たり前のことです。どんな場合でも交際するのなら、先に離婚しなければならない。そのことは肝に銘じてください。

 

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