“死の先”に残されるものは、恋か、伝説か。「誰袖と意知」「うつせみと新之介」江戸が泣いた事件とともに生きる二組のカップルの行方は【NHK大河『べらぼう』第28回】
*TOP画像/意知(宮沢氷魚) 政言(矢本悠馬) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」28話(7月27日放送)より(C)NHK
吉原で生まれ育ち、江戸のメディア王に成り上がった蔦重の人生を描いた、大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」(NHK総合)の第28話が7月27日に放送されました。40代50代働く女性の目線で毎話、作品の内容や時代背景を深掘り解説していきます。
この記事の前編▶▶「苦界から逃れるには“死”しかなかった」舌を噛み、火を放ち…江戸の遊女たちが選んだ壮絶な最期とは?
社会が不安定になれば怒りの矛先を求める大衆
田沼意次(渡辺謙)の息子である意知(宮沢氷魚)は藩士・政言(矢本悠馬)に斬りつけられ、命を落としました。政言は意知を「覚えがあろう」と言いながら斬りつけていましたが、彼は意知に対するうらみが積もるように何者かによって仕向けられていたのです。結果として、政言は切腹の処罰を受け、命を落としましたが、彼もまた被害者なのかもしれません。政言といえば、老いた父に庭先で寄り添う姿が印象的ですが、そんな彼が斬りつけ事件を起こさざるおえない状況に陥ったと思うと、悲しい気持ちになります。

政言(矢本悠馬) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」28話(7月27日放送)より(C)NHK
政言は死後すぐに、「佐野大明神」と崇められる存在になりました。この時期、米は値上がりし、物乞いも増え、人びとは困窮していました。意知の死後、米価が下落したため、政言が田沼の息子を斬ったから米の値が下がったという世論が広がったのです。

丈右衛門(矢野聖人) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」28話(7月27日放送)より(C)NHK
民衆は老中やその息子を敬っている風ではあるものの、直接関わることはない存在ですし、本音を言えばどうでもよい存在でしかないでしょう。とはいえ、老中は民衆の生活を握っているのも事実です。政策に失敗し、民衆の暮らしが困窮する事態に陥れば、人びとの間に怒りが広がります。
しかし、今回の米の不作の主な要因は自然によるものであり、田沼親子の責任とばかり言えません。人間はサブライムな自然に怒りの感情をぶつけるのは容易ではないため、自然よりも批判しやすい田沼親子に怒りの矛先が向いたのです。
意次は意知の葬列で民衆に襲われます。物乞いが「田沼様~!田沼様~!」とお恵みを求めると、丈右衛門(矢野聖人)が「天罰だ!思い知れ!」と意次に石を投げ、物乞いの境遇は意次のせいだと声を上げました。

丈右衛門(矢野聖人) 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」28話(7月27日放送)より(C)NHK

意次が乗った駕籠、市中の人びと 大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」28話(7月27日放送)より(C)NHK
すると、この場にいた人たちが丈右衛門に続々と賛同します。「そうだ!地獄へ堕ちろ!」と女が声を上げ、意次が乗る駕籠に石が多方面から投げつけられます。人間とは自分が誰よりも先に声を上げることには躊躇するくせに、誰かが声を上げれば待ってましたとばかりに後に続くものです。このシーンは人間の心理をよく表していたと思います。
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