生活保護も家族のことも言えなかった…追い詰められたヤングケアラーの高校生にクラスメイトがくれたもの

2026.10.27 LIFE

アンパンマンチョコ

住田さんの提案で、僕らはみなとみらいの馬車道に向かうことになりました。

晴天の空に暖かい海風。みなとみらいにしては珍しいほど人通りが少なく、空気がよく澄んでいました。緑に囲まれたきれいな街並みを歩いていると、少しずつ気分が上向いてきました。

「ところで住田さんは、なんで制服着ているの? 学校ないでしょ?」
「あ〜、今日は高校まで教科書を取りに行かなきゃいけなくて。それで久しぶりに制服着たの」
「え? 教科書ってもう受け取れるの?」
「そうだよ! 知らなかったの? 毎日先生たちがGoogle Classroomにお知らせを載せてくれてるよ」
「そっか。最近はぜんぜん見れてなくて、気づかなかった」
「ダメじゃん! 小テストとかよく配信されてるし、毎日確認しないと学校が再開してから追いつけなくなるよ?」

そうか。僕が家族のことで苦しんでいる間も、学校はちゃんと動いていたんだなと、ちょっとした感慨にふけってしまいました。

「あと、昨日か一昨日くらいにね、今年の体育祭は中止にするかもって連絡来たんだけど、知ってる?」
「え、そうなの?」
「そうだよ! ええっ? それも知らないの?」
「うん。だって体育祭って9月でしょ? なんで5月の段階で中止になるの?」
「意味わかんないよね! だからほら、彩香って体育祭実行委員でしょ? それで最近は、毎日のように先生と交渉してくれてるみたいなんだけどね、体育祭の開催は先生たちが決めるって言われちゃってるみたいで、本当にかわいそう……」
「そうなんだ……。西野さんならどうにかしてくれる気がするけど、ちょっと心配だね。あとで連絡してみるよ」
「うん……それと清野くん、さっきから思ってたんだけど、やっぱ顔色悪いよ? ご飯とか食べてる?」
「ああ、そういえば食べてなかったかも」
「あ、じゃあちょっと待って。これあげるよ」

そう言って住田さんがリュックの中から取り出したのは、アンパンマンチョコ。大きなチョコバーで、アンパンマンの顔が象られています。

「あ、ありがとう。え、あのさ、なんでアンパンマンチョコ持ってるの?」
「え? さっきコンビニでたまたま見つけて買ったの。いいよ、あげる! 元気が出ないときは、こういう可愛いものを食べたらいいの!」
「う、うん。ありがとう」

勢いよくチョコを嚙み切ろうとして歯を痛める僕を見て、住田さんは笑っていました。彼女に出会い、久しぶりに学校生活のことを思い出した僕は、少しだけ自分を取り戻すことができました。

憂鬱な毎日はそれでも続きましたが、もう少しだけ踏ん張ってみようと、気を取り直すことができました。

 

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■著者:清野孝弥(セイノ・タカヤ)
現役東大生。2003年生まれ。神奈川県横浜市出身。神奈川県立横浜翠嵐高等学校を経て、東京大学に現役合格。東京大学法学部を最優秀成績で卒業し、現在は東京大学法科大学院に在学中。ある警察官との出会いをきっかけに、「逆境に置かれている子どもたちに希望を届けたい」と考え、生活保護世帯のヤングケアラーとして育った経験を本書に記した。

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