結局「次亜塩素酸水」ってコロナに効くの?医師が解説
こんにちは。「予防医療」のスペシャリストで、医師の桐村里紗です。
新型コロナウイルスは、多くのインフォデミックを巻き起こします。
早とちりやデマ、報道機関による誤った情報発信など、様々な原因がありますが、実際に判断がつきづらいので何を信頼して良いのかわからず、生活者は振り回されてしまいますね。
次亜塩素酸水はコロナに効くと結論
コロナに「効く」「効かない」で騒動になっていた「次亜塩素酸水」について、公式にお役所から結論が出ました。
経済産業省の要請を受けて、コロナに効きそうな消毒方法を検証してきた機関「NITE(ナイト):製品評価技術基盤機構」が、6月25日に公式に「一定以上の濃度の次亜塩素酸水は、新型コロナウイルスに有効」と発表しました。
これを受けて、6月26日に経産省・厚労省・消費者庁が合同で、「新型コロナウイルスの消毒・除菌方法」を公表しています。
詳しくは、経済産業省プレスリリースへ
「効かない」とは言ってない!勘違い報道が多発
「なんだ、効かないって言ったじゃん!」と思われるかも知れませんが、実は、NITEも「効かない」とは一言も言っていないのです。
事の発端は、5月29日のNITEの中間発表です。
ここでは、「現時点において、『次亜塩素酸水』の新型コロナウイルスへの有効性は確認されていない」と公表したのです。
パッと読むと「効かない」と言っているように読める為、一部報道機関が誤解してセンセーショナルに「効果なし!」と報道してしまったことが混乱の原因です。
NITEの文脈を噛み砕きますと、「現時点で、まだ検証中です。有効性について、はっきりした条件などを示すことができない為、最終結論はお待ち下さいね」という意味です。
その後、医師らも登場して「効かない」という見解を述べたりして、ますます混迷を極めました。
あまりにも誤解が多いために、NITEのホームページにおいても6月4日に公式に「いやいや、そういうわけじゃない。一定の有効データは出てるけど、条件などがわからないからまだ最終結論が出せないだけ、早まりなさんな(桐村の超意訳)」と、エックスキューズしていたのです。
今回、結論が出て、適正に製造していたメーカーは、さぞかしほっとしていることでしょう。
元々、次亜塩素酸水を使用していた一部病院や歯科医院でも、大変に迷惑していたようです。
実際に、どんな次亜塩素酸水が有効と結論づけられたのでしょう。
新型コロナへの次亜塩素酸水の使用法や条件
「次亜塩素酸水」を使って モノのウイルス対策をする場合の注意事項」において、有効と結論づけられているのは、以下のものです。
・有効塩素濃度35ppm以上のもの
・拭き掃除に使用する場合は、有効塩分濃度80ppm以上のもの
そして、それを踏まえてモノに使用する場合の注意事項は、
- 汚れをあらかじめ除去すること
(手垢、油脂などの有機物を拭き取っておく) - 十分な量の次亜塩素酸水で表面をひたひたに濡らす
(アルコールのように吹きかけるだけではダメ) - 20秒以上時間をおき、きれいな布やペーパーで拭き取ること
発表では、空間噴霧については、「消毒剤の空間噴霧ではなく、換気が有効」とされています。
購入や保管の際のポイントは?
安全で有効な製品を選ぶ必要があります。
その際に確認したいのは、
製品に
- 使用方法
- 有効成分(有効塩素濃度)
- 酸性度(pH)
- 使用期限
の表示があることです。これを確認して、有効とされたものを選びましょう。
また、保管保管方法も大切です。
紫外線で次亜塩素酸が分解されるため、遮光性の容器に入れて、冷暗所で保管しましょう。
手肌に使っても安全?
手指や皮膚の消毒で利用することについて、NITEが「安全面から控えるように」と公表したというのは、誤報です。
NITEでは、公式ホームページでも公式にこれを否定しており、今回、モノを対象とした評価しか行なっていない為、
『皮膚での利用の是非について何らかの見解を示した事実はございません。「次亜塩素酸水」の利用に当たっては、メーカー等の提供する情報等をよく吟味し、ご判断をいただければと存じます』と回答しています。
次亜塩素酸水は、有機物と反応すると水に変化する為、基本的には安全に使用できますが、ダメージを与えるものもあります。
手指は皮膚に使用する際、塩素濃度が100ppmを超える場合。また、pHが低すぎる場合に、皮膚にダメージを与える可能性がある為、塩素濃度が高過ぎないもので、弱酸性か微酸性のものを選ぶ方が安全です。
基本的には表示を確認して、条件を満たすものを選ぶようにしましょう。
安全性は?粗悪品を選ばないために
今回、NITEは安全性についての確認は現状行っていないとのことですが、製法によってpHの違いがあり、強酸性タイプ(pH2台)よりも、弱酸性・微酸性タイプの(pH5~6台)方が、より人体に安全で、モノを腐食させづらいため、使いやすいという特徴があります。
アルコール製品と同じく、効果のない粗悪品や高濃度過ぎてリスクがあるものも出回っています。
しっかりと表示を確認して選ぶことです。
次亜塩素酸ナトリウムとは別物
よくある勘違いで、キッチンや水回りの除菌・消毒に使う「混ぜるな危険!」マークでお馴染みの塩素系漂白剤「次亜塩素酸ナトリウム」と、今回の議論の対象である「次亜塩素酸水」の混同があります。
次亜塩素酸ナトリウムは、希釈して使用することで、細菌やウイルスに対する消毒効果が認められていますが、希釈しても次亜塩素酸水にはなりません。
次亜塩素酸ナトリウムは、pHが高い強アルカリ性のため、原液だけでなく希釈液が手に付着することでも、皮膚にダメージがあります。
また、酸性のものと混ぜると塩素ガスが発生して皮膚や気道を刺激して火傷を引き起こします。
極めて危険な液体であるため、必ず注意喚起を守って使いましょう。
厚生労働省は、新型コロナウイルス対策として、手肌には使わず、必ず、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が0.05%になるように薄めた上で、モノの消毒に使い、その後水拭きすることを勧めています。
早まらず落ち着いて結論を待つ
新型コロナウイルスに対する報道は加熱しており、ネット上にも様々な情報が錯綜しています。
これについて、精査することは難しいですが、結論が出ていない事柄に関しては、判断ができません。
現状で、できる対策を粛々と行いながら、慌てず騒がず、公式の結論を待ってから判断し、行動することが、情報に振り回されないコツかと思います。
文/内科医・認定産業医 桐村里紗
tenrai代表取締役医師。1980年岡山県生まれ。2004年愛媛大学医学部医学科卒。内科医・認定産業医。治療よりも予防を重視し、「ヘルスケアは、カルチャーへ」というコンセプトを掲げ、新しい時代のヘルスケアを様々なメディアで発信している。フジテレビ「ホンマでっか!?TV」「とくダネ!」他メディア出演多数。著書『日本人はなぜ臭いと言われるのか 体臭と口臭の科学』(光文社新書)他。
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