社会は「更年期女性」に冷たすぎるのでは?働く49歳が味わった栄光と挫折

閉経の前後5年を一般に、更年期と呼びます。日本人の閉経の平均年齢は50歳なので、45~55歳の世代は更年期に当たる人が多いもの。身体の不調に苦しみ「更年期障害」の状態に至る人もいます。

私ってもう更年期なの? みんなはどうなの?

オトナサローネは同世代の女性100人がいまどのような更年期を迎えているのか、そのあり方を取材しています。(ご本人の年齢や各種の数値は取材時点のものです)

【100人の更年期#48】

 

プロフィール

Aさん 49才、都内在住。コンタクトレンズ会社勤務。本社勤務を経て、現在は複数店舗に掛け持ちで勤務、後進の育成に当たっている。20代で結婚、30歳の時に離婚し、子どもはなし。

 

生理が突然止まった?不安なのに「更年期ですよ」で片付けられる

更年期症状そのものよりも、「その状態に寄り添ってくれる医療と出会えなかったのがつらかった」と訴える人が一定割合います。どの科にかかっても「もう更年期だからね」で済まされ、前向きな治療計画を示してもらえなかったという声です。

 

今回登場するAさんもそのうちの一人。45歳になった頃、突然生理が止まるところからお話はスタートします。

 

「それまで割ときちんと毎月きていたので、驚いて婦人科に駆け込みました、でも、医師からは『更年期の始まりでしょう』と片付けられてしまいました」

 

ちょうど同じ頃、めまいと激しい動悸が始まりました。

 

「めまいが起きると、そのあと動悸がセットで襲ってきます。なったことある人ならわかると思うんですが、動悸は心臓がゴロンと横に転がる感じで、本当に気持ち悪いんです」

 

めまいの背後には大きな病気が隠れていることもという記事を読み、心配になって大きな病院を受診しました。ですが、特に問題はなし。ここでも「更年期の症状では?」と一蹴されました。

 

耳鼻科にも、脳の病院にも行ってみたけれど、どこへ行っても問題なしと言われます。

 

「めまいや動悸も辛いんですけど、この、どの病院に行っても解決しないのが本当にストレスでした。なんで誰も私を助けてくれないの??って」

 

輪をかけて辛かったのが通勤です。動機が始まった頃は騙し騙し出社していましたが、ついに出勤中の電車の中で立っていられないようなめまいを起こし、何度も途中駅で降りてベンチに座って休むように。やがて、そのままタクシーで帰り、そのまま仕事を休む日が増えました。

 

このAさんのお話は、このあと「女性の働き方と更年期障害」という問題を象徴するような急展開を迎えます。

 

私はこんなに頑張っているのに、女だというだけで……

それまで本社勤務、同世代の中では早く出世していたAさん。女性が少ない職場なので「先頭に立たなくちゃ」という意識が強く、自分で会社を背負っている感覚もあったそうです。

 

「私は1971年生まれ。第2次ベビーブームで人数多いから、受験でも進学でも就職でも、なんとなくいつも競争している感がこの歳になっても抜けないんです。この世代、こういう人結構多いですよね?」

 

なのに、生理不順とめまいと動悸で身体がどんどんしんどくなります。その上、同世代の男性たちがAさんを飛び越えて出世し始めました。

 

「私の方が働いているし仕事もできるのに……ものすごく焦燥感を覚えました。たまたま会社の業績悪化もあり、ボーナスもカットされたりして、体調不良とともに精神的にも追い込まれてしまったんです」

 

職場の男性への嫉妬と怒り、言葉にしようのない黒い感情でモヤモヤしっぱなしになっていったとAさんは振り返ります。

 

「私は30歳で離婚して、ずっとひとりぼっち。同僚の男性たちは家族もいて、マンションを購入したり、安定した満足気な人生を送っているように見えちゃうんです。なんで私ばっかり損な役割を、女だというだけで努力しても報われない。そもそもこんな私の怒りに誰も気づきもしないと、いっそう黒い感情が膨れ上がるんです」

 

気分が上下する不安定さは、周囲から見てもわかるようになってしまいました。仕事も休みがちな状態を見兼ね、上司がある日、Aさんに社内の産業医の受診を勧めます。

 

「勧められたときは、こんなに頑張っている私を病気扱い?どういうこと??と怒りしか湧きませんでした。が、数日たって冷静になってみると、やっぱり自分でもこの状態はマズいって思って。いえ、最初からどこかでマズいって思ってたんでしょうね。心療内科医との面談の末、いちど休職することに決めました」

 

解雇ではなく、仕事を休めるのも、会社が自分を認めてくれているからだなと、逆に思えるようになりました。ただひたすら自分だけの時間を過ごせる日々は貴重でもありました。

 

ですが、いちど傾いた天秤はなかなか元の均衡には戻りませんでした。

 

これが私への仕打ちなの…?戦力外通告の異動に打ちのめされる

ゆっくり休んだところ、めまいや激しい動悸は治ってきました。生理不順は続いていたものの、結局は休職から5ヶ月後に仕事に復帰しました。

 

「ところが、復職してすぐ、急に配置換えをされてしまったんです。私はそれまで本社勤務だったのに、突然『埼玉の店舗で人が足りないから行ってくれ』と店舗勤務になって」

 

その後、3ヶ月後には今度は城西エリアの店舗勤務になり、慣れる間もなくまた異動。いまは城東エリアの店舗に配属されています。

 

「これって明らかに戦力外通知ですよね。行かされるのは、本社から遠い都外ばかりで」

 

本社勤務の時には起きる時間、家を出る時間、帰る時間がほぼ決まっていたのに、店舗によってはショッピングセンターに入っていたりオフィスビルに入っていたりで、出勤時間も違います。

 

「それぞれの店舗に合わせたマニュアルがあって、それを身につけなくてはならないんです。毎日のリズムを作るのに本当に苦労して、やっと慣れた頃に次の店舗に異動させられて、またゼロから同じことの繰り返しで」

 

都心と離れた職場に向かう下りの電車の中では、都落ちをしていく気分にもなり、特に朝はしんどかったそう。

 

「そんな中、とどめをさした人事があって……後輩の男性が私の上司になりました。彼に仕事のいろはを教えたのは私だし、後輩がくじけそうになっていた時に助けたのも私。なのに、噂話で、私を本社から遠ざけて色々指示を出していたのがその後輩だということがわかってしまったんです」

 

もうこれが一番ショックで、とAさんは声を震わせます。誰も信じられない、そもそもこんなことを許した会社の判断も許せない。そう不満が募りました。

 

その頃、また生理が止まってしまいました。最後の生理は4ヶ月前です。仕事でショックなことがあると更年期の症状が出るみたい、と気付き始めました。

 

おひとりさまは、しんどくても仕事を踏ん張って認めさせるしかない

裏切りへの怒り、組織への不満、さまざまなショックを経た今は、とにかく圧倒的な結果を出すことでしか他人を動かせない、ひいては自分を評価させることもできないと思い知りました。「どれだけ不調でも、とにかく休まず仕事で成果を出してみせる」と歯を食いしばって仕事をしています。

 

同年代の友人には「もう少し気持ちに余裕を持てば?」と言われます。ですが、それは家族がいて将来に希望が持てる人たちの言葉だとAさんは感じます。

 

「私、趣味もあまりなくて、仕事ばかりで生きてきたんです。それなのに仕事なんて適当でいいのよと言われると、私の存在を全否定されている気がしてしまう。親友からは、その、仕事しかない!という執着も更年期の症状じゃないかと言われました」

 

でも、今は何が何でも本社へ復帰してみせるという執念があまりにも強くなり、逆に不調を抑え込めるようになったといいます。

 

「ここまでくると、自分で自分を信じられるか、肯定できるかどうかの勝負なんだなと思います。出世って、テストの点みたいに明確に努力が序列になりますよね。仕事で成果を出して、同年代の男性たちに負けてないと自分で思えたら、きっと自分で自分を認められて、そしたら更年期の症状も治るんじゃないかなって。いま私はそれに賭けています」

 

更年期の入り口では「寄り添ってくれる医療と出会えなかったのがつらい」という悩みを持ったAさん。閉経を迎えようとする今までの話の背景に、「そもそも医療どころか、社会自体が私たちの更年期に寄り添ってくれていないのではないか?」、そんな日本固有の問題が透けて見えるのではないでしょうか。

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