「とにかく速く乾かしたくて」髪が秒で乾くドライヤー、作った人のホンネって?【開発秘話聞いちゃお!#1】
こんにちは、オトナサローネ編集部井一です。皆様が日頃手にとる商品は、「あなたの手に取られるために誰かが意図を持って作った」何かです。
さまざまな分野で「ものづくり」に携わる人たちのうち、開発や企画、デザインなど「作った側」の人々に、「なんでコレ作ったの?」とオタクが感涙しながらしつこくお聞きするシリーズです。
今回は5月半ばに突如として「とにかく乾くのが速い」とバズったシャープのドライヤーのお話。一度見たら忘れられない、特徴的な打ち出の小槌型のドライヤーです。
「欲しい」「気になる」と広がる反響に、本家のシャープ公式も応答。
速乾性を褒められたプラズマクラスターのドライヤーですが、もともと美容師さんがドライヤー2台持ちで髪をすばやく乾かすテクをパクりました。なのでドライヤーから2つの風が出ます。>前RT pic.twitter.com/U00PxdM1or
— SHARP シャープ株式会社 (@SHARP_JP) May 17, 2021
なんでこんな形になったの? そもそも、なんで2台持ち…? いろいろ膨らむ疑問を企画担当者に聞きました。
美容師の2台持ち、見たことありますか?ポイントは風量ではなく……
--形といい風といい、どこから話を聞いていいかわからないくらいに疑問の多いドライヤーです。
はい(笑)。このドレープフロードライヤーの最大の特徴は「2つの風が出る」ところです。美容師さんが片手に2つドライヤーを持つ姿にヒントを得たもので、2017年頃には原案がありました。2019年に初代のWX1が発売、この5月に速乾力をアップした2代めのWX2が登場したところです。
--私はその2つ持つサロンさんを未体験なのですが、美容師さんが左右に立って乾かすのとは違う…?
片手で2台持って乾かすんです。毛量の多い方でも素早く乾くので、プロ向けにドライヤーを2台つなげて片手で持つための専用リングも売られているくらいです。
--本当ですね、画像を検索したら片手で2台持っている美容師さんがいらっしゃいますね。乾かす時間が短いほうが髪も傷みにくそうです。
そうなんです。ドライヤーは2015年前後に急激に高級化が進みました。その頃、インバウンド効果もあって、髪を素早く乾かすだけでなく、乾かしたあとの手触り、ツヤをアップし、髪そのものを美しく仕上げたいというニーズが急増したんです。
--もともとシャープにはイオン機能ドライヤーがありましたよね?
はい、2011年からプラズマクラスターイオン搭載のドライヤーを販売していました。プラズマクラスターには髪の毛をサラサラにしたり潤いを与えたりする効果がありますが、それとは別に、より速く乾かすためにはどんな風の出し方をすればいいかを追求して、「2つの風」に至ったのです。
この「打ち出の小槌スタイル」にたどり着くまでの紆余曲折とは?
--素人考えの質問ですが、1つの風を2つに分けると、その分風量が落ちませんか?1つの風口の左右にスリットがあり、左右両方から風が出る仕組みです。
そもそもサロンのドライヤーの風量はそんなに強くないんです。ということは、美容師さんの2台持ちは風量ではなく、同じところから2カ所に風を当てるのがポイントなのでは?と。
--美容院のドライヤーって、弱めなのになぜか乾きます。あれは風の当て方だということですね?
はい、研究の結果、スポット状に当てた2つの風で髪がドレープ状になびき、風が当たる面が増えることで速乾性がアップすることがわかりました。ですが、2つの風を1本にするということは、まずはその分だけ大きなドライヤーを完成させないとなりません。
--2つ分のドライヤーを1台にするということですよね。ハードルが急に上がりました。
最初はただ吹出口を大きくしてみました。でも、速く乾くことにはつながりませんでした。そのあとも延々、数えきれないくらいやり直しました。恐らく、吹出形状の検討試作は30回以上、3Dプリンターをフル稼働で、もうずっとウチがプリンターを使ってる(笑)。風路検討もこれとは別に試作しています、数えられない……。インスタにも開発段階の試作をUPしていますが、開発チームからの最初の提案は、ティッシュ箱のような四角でした。
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--びっくりするほど今とはぜんぜん違う形状です。ここから小槌にたどりつくまでは長そうですね。
本当に(ため息)。このあと、ノズルの長い形状で2つの吹出口を作ったり、ノズルの長さを調整してみたり、モーターとヒーターを並べて設置しているのを、一つに重ねてまとめたり、モーターの種類を変えてみたり、モーターを2個使ってみたり……。
--どこがいちばん大変だったかを伺いたいのですが……全部大変だったんですよね?
はい、どの調整も大変でしたが、一番しんどかったのはやはり左右の吹出口の位置関係でしたね……。
--本当に大変だったのだと思いますが、具体的にはどういう点で……?
2つの風が近いと髪にあたるときには1つの風になってしまうし、離れすぎると頭の外側に風が流れてしまって速く乾かないんです。従来型のノズルの長いドライヤーの先端を2つにして試作しても、風も弱く、ドレープを作る風ができませんでした。が、ノズルが短い方が、風を効率よく出せ、短い方が、腕も楽で使い心地もよいことがわかりました。
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--だいぶ「小槌型」に近づきました。この2つのノズルが左右のスリットに進化していくのですか?
さすがにこの形だと、商品デザインとしても、ドライヤーとしても難しいですよね。ここからプロダクトデザインに落とし込む試行錯誤が始まるのですが、あるときデザイン・技術・企画で打合せをしていた際、この丸みを帯びたシンメトリーの初期スケッチがふいにできました。その時は、「めっちゃ新しいやん!」と、みんなで興奮したのを覚えています。
--そして完成に至るのですね。実際に使ってみると、あまり風は強くないのに不思議とスッと乾くので驚きます。
そう、勢いはあるけれど強くはない、包み込むような優しい風ですよね。また、頭の近くで使えるので風が当たる範囲も広いんです。5月に登場した2代目、WX2では風の届く範囲が広くなり、速乾性が従来機比で約10%アップしました。
「熱くなりにくい」モードで髪の傷みを圧倒的低減。アプリで温度設定もできる
--センシングドライという、「髪が熱くならないよう温度を調整する」モードにも驚きました。子どもやペットに使うときにも安心です。
これもWX1からの好評機能です。早く乾かすだけならデフォルトのスピーディドライモードが早いのですが、センシングドライモードは髪の熱ダメージを徹底的に抑える温度を保ちます。髪のケラチンは55℃以上で変性すると言われているので、髪表面を測温し、55℃以上にならないよう制御しています。
--素晴らしい機能です。が、ボタンで切り替えないとこのモードにならないのならば個人的にもったいないなと。
ご安心ください(笑)。ドレープフローシリーズはBluetooth®を搭載して、スマホの美髪アプリ、ボーテアップ(beautéApp)から本体のモードを自分で設定できます。WX2ではモードの順番も設定できるので、スイッチを入れたときのデフォルトをセンシングドライモードに設定できます。実はこのアプリが結構すごくて……。オリジナルの温度設定もできるんです。
--アプリで本体側の設定変更ができるということですか? それは前代未聞ですね。
私もドライヤーでは聞いたことがありません。ドライヤーって、今日は素早く乾かしたい、暑い日は冷たい風にしたいなど、季節ごとに使いたいモードが変わりますよね。また、ドライヤーを持っている数年の間に髪の長さや家族構成も変わります。こうした生活の変化にも対応できるようにしています。
温度制御でヘアカラーの退色も抑制できる。優しい風を体験して
--浮かんだ疑問にすべて先手で対策が打たれていて驚きます。ちなみに、この1年、コロナ禍でニーズの変化はありましたか?
ヘアカラーに対するニーズが変わりました。コロナ禍の3月以降、美容室ではヘアカラーが減ったかなと思いきや、在宅勤務で自宅にいる分だけトレンド性のあるヘアカラーを試す人が増えているようです。もともとプラズマクラスターイオンには髪の毛の痛み低減のほか、カラーの退色抑制効果があるとわかっていたので、WX2では改めて測定しなおし、センシングドライモードがヘアカラーの退色抑制にもなることを実証しました。
--ドライヤーで乾かせば乾かすほど、ヘアカラーの退色が起きにくくなり、かつ髪も傷みにくいということですね。
センシングドライはホットに比べれば乾燥の時間がかかるものの、もともと速乾性に優れたドレープフローの風ですから、体感ではそれほど遅くなりません。むしろ、このやさしい風と穏やかな温度を体験すると病みつきになります。
--私たちの調査では、旅行先のホテルで備え付けのドレープフロードライヤーを使って速乾性に驚き、その場で購入したという声も見かけました。
そのとおり、体感してみてわかる部分があると思います。この革命的なドライヤー体験をぜひ多くの人にお届けしたいです。
プラズマクラスタードレープフロードライヤー IB-WX2(ピンク系/ホワイト系) オープン価格(編集部調べ 量販店での実勢価格3万6300円)/シャープ
【開発秘話聞いちゃお!#1】
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