PMDD?更年期でかかった婦人科に「精神疾患です」と言わてしまった【Dr.新見の更年期あかるい相談室】#13
青年期、壮年期などと同じような時期の呼び方として、女性の閉経の前後5年を更年期と呼びます。
日本人の閉経の平均は50歳のため、45~55歳は更年期にあたる人が多数。この時期に女性ホルモンの分泌が急激に減少するため、更年期障害と呼ばれる状態に至る人もいます。
乳がんのセカンドオピニオンを中心に診察する医師の新見正則先生は、丁寧に私たちの訴えに耳を傾けながら、「だいじょうぶ!更年期は絶対終わるから!」と太鼓判を押してくれる力強い味方。そんな新見先生に「医師に聞いていいのか迷うこと」をまとめて聞くシリーズです。
【Dr.新見の更年期あかるい相談室】#13
Q・婦人科で「あなたは精神疾患ですよ」と言われてしまった
先生、こんにちは。私は38歳で3人目を出産しました。そして産後に体調が戻らないまま、 40歳の頃に突如として不安に襲われて不眠になってしまいました。
それがきっかけで食べても吐くを繰り返し、頭痛も動悸もひどく、日常生活も営めないほどとなって内科を受診し、 軽めの安定剤と導眠剤をもらい、1週間仕事を休みました。
この内科で「少し早めの更年期では?」と婦人科の受診を勧められました。 「そうか!この辛さは更年期だったのか!」と少し明るい気持ちで婦人科に行ったのですが、そこで「違うんじゃないですか?あなたは精神疾患ですよ、精神科に行きなさい」 と言われてしまいました。
ホルモンの検査などはないのかと聞きましたが 「あるけれど、あなたはまだ若いし更年期ではないでしょう。精神疾患ですからホルモンの検査をしても意味がないです」 と断られてしまいました。
若年性更年期障害も診てくれるとウェブサイトにも書いてあったのに、「ま、一応お薬出しましょう」とくれた薬は産後ヒステリーの漢方。産後2年以上たっているのに産後ヒステリー?? 医師に相手にしてもらえなかった悔しさと、この辛さをわかってもらえない悲しさで病院を出て泣きました。
このことを内科の医師に伝えたところ、「それはひどいね。それじゃあこれまで通り少し弱い安定剤で様子を見ていこう。精神疾患なんかじゃないよ。恥ずかしがることはないよ」と言われました。
逆に婦人科で相手にしてもらえなかった事が活力となり「これは病気じゃない!更年期障害だ!」と前向きに捉えられるようになりました。
でも、先生、本当は更年期障害じゃないということもあるのでしょうか。
(ミサさん・46歳 更年期症状の度合い/とてもつらく、耐え難いと感じることがある)
A・婦人科・精神科のたらいまわしは、実はとってもよく起きているんです
ミサさん、こんにちは。実はミサさんのような人はあまり表に出てこないだけでよくいます。
ぼくはミサさんを直接診察していないため、ごめんなさいね、ミサさんの症状が何であるかの診断はできません。ですが、なぜ婦人科の医師がその対応をしたのか、理由を想像してお話することができます。キーワードは月経前不快気分障害、PMDDです。
PMDDとは、PMSの精神的症状/身体的症状のうち、「抑うつ気分」「不安・緊張」「情緒不安定」「怒り・イライラ」の4つの精神症状が強い場合をいう、いわば超重症のPMSです。診断基準は以下の通りです。
■月経前不快気分障害(PMDD)の診断基準 (DSM-5)
A | ほとんどの月経周期において、月経開始前最終週に少なくとも5つの症状が認められ、月経開始数日以内に軽快し始め、月経修了後の週には最小限になるか消失する。 |
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B | 以下の症状のうち、1つまたはそれ以上が存在する。 (1)著しい感情の不安定性(例:気分変動;突然悲しくなる、または涙もろくなる、または拒絶に対する敏感さの亢進) (2)著しいいらだたしさ、怒り、または対人関係の摩擦の増加 (3)著しい抑うつ気分、絶望感、または自己批判的思考 (4)著しい不安、緊張、および/または“高ぶっている”とか“いらだっている”という感覚 |
C | さらに、以下の症状のうち1つ(またはそれ以上)が存在し、上記基準Bの症状と合わせると、症状は5つ以上になる。 (1)通常の活動(例:仕事、学校、友人、趣味)における興味の減退 (2)集中困難の自覚 (3)倦怠感、易疲労性、または気力の著しい欠如 (4)食欲の著しい変化、過食、または特定の食物への渇望 (5)過眠または不眠 (6)圧倒される、または制御不能という感じ (7)他の身体症状、例えば、乳房の圧痛または膨脹、関節痛または筋肉痛、“膨らんでいる”感覚、体重増加 |
D | 症状は、臨床的に意味のある苦痛をもたらしたり、仕事、学校、通常の社会活動または他者との関係を妨げたりする(例:社会活動の回避;仕事、学校、または家庭における生産性や能率の低下)。 |
E | この障害は、他の障害、例えばうつ病、パニック症、持続性抑うつ障害(気分変調症)、またはパーソナリティ障害の単なる症状の増悪ではない(これらの障害はいずれも併存する可能性はあるが)。 |
F | 基準Aは、2回以上の症状周期にわたり、前方視的に行われる毎日の評価により確認される(注:診断は、この確認に先立ち、暫定的に下されてもよい)。 |
注:基準A~Cの症状は、先行する1年間のほとんどの月経周期で満たされていなければならない。
出典:産婦人科診療ガイドライン(婦人科外来編)2017 NHIの記事
PMDDを診察してくれる婦人科が少ない理由は、やっぱり制度の問題
内科は生殖器を診られないため婦人科に送り、婦人科はメンタルを治療できないので精神科に送るというのは典型的なパターンです。さらに、患者さんの側も精神科には抵抗があるので行きたくない。ですからPMDDは最終的に婦人科で精神科に近い医師が診ています。ぼくが主宰する「漢方.jp」のサポートドクターでもある、京都大学医学部附属病院産科婦人科の江川美保先生がPMDD診療の第一人者です。
さて、この連載の中でも何度かお話していますが、保険診療の婦人科はカウンセリングを行っても保険点数がつかないため、じっくりと話を聞いているとクリニックが倒産してしまうという問題を抱えています。このため、じっくりとお話を聞くことが治療そのものであるPMSやPMDDは残念ながら嫌がられるんです。これがミサさんが婦人科で酷い対応を受けてしまった理由ではないかと思います。
婦人科の医師はのっけからPMDDだろうと思い込んだんですね。ただ、クリニックとしては、倒産しないためにこれらを診ないという選択肢もまたやむを得ない部分があります。結果的に、上記の江川先生もなかばボランティアとして診察しています。研究機関の側面を持つ大学病院だからこそできる診療でもあります。
ちなみに、ぼくは心の不調を抱える、PMDDであろう患者さんも歓迎しています。なぜかというとぼくは自由診療で、なおかつフアイアという抗がんエビデンスを持つ唯一の生薬をお出ししているから。フアイアは何にでもよく、身体を底上げしてくれる万能選手。これが普及できるのならばOKだからです。
PMDDの可能性があるなら、精神科に介入してもらったほうがいいことも
PMDDの患者さんは難民化して漂流しています。あまり知識のない精神科に行ってしまうと、逆にあなたは更年期だから婦人科に行ってと言われかねないんです。ですが、ぼくから見ると精神科の先生が介入してあげたほうがもっとラクになるんじゃないのという人がたくさんいます。
なぜなら、婦人科は向精神薬を出せないため、向精神薬を投与して効けばこの病気だったと診断する「薬に診断させる」方法が使えない。もしかして婦人科の疾患がひきがねの精神疾患かもしれないし、ルールアウトのために精神科にいってくれという流れはじゅうぶんにあり得ます。ただし、医師はこうした場合の説明を慎重にしないとなりません。配慮のない医師にあたってしまったのは残念なことでした。
これががんの場合、医師は手遅れだったら「なんでもっと早くこなかった」と怒ります。死ぬからね。でも、精神科は手遅れで命を取られるということは基本的にはないので医師も怒りません。あまり構えすぎず、精神科も3つほど行ってみるといいんじゃないかなと思います。
PMDD・PMSでの精神科・心療内科受診がもっと気軽になるように
でもね、精神科の場合、治療がほぼコミュニケーションで成り立っているため、合う合わないがものすごく強い。なので3つ4つ行ってみるといいです。精神科に行く前に「更年期障害のひどいやつなんですが、見てもらえますか?」と電話してください。大丈夫ですよ、何人も見えてますよと言われたらその病院は当たりの可能性が高い。
そもそも月経に関連する気分障害の患者さんって、みんな表立って言わないだけで、思ったよりたくさんいるんですよ。精神科の投薬を受けることでぐんとラクになる人だってもっともっといます。だから、今回の医師の言い方が最悪に悪かったこととはまた別に、もっと気軽に精神科を受診できる世の中になるといいなと思います。
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お話/新見正則医院 院長 新見正則先生
1985年 慶應義塾大学医学部卒業。98年 英国オックスフォード大学医学博士取得(Doctor of Philosophy)。2008年より帝京大学医学部博士課程指導教授。20代は外科医、30代は免疫学者、40代は漢方医として研鑽を積む。現在は乳がん患者に対するセカンドオピニオンを中心に、漢方、肥満、運動、更年期など女性の悩みに幅広く寄り添う自由診療のクリニックで診察を続ける。がん治療に於いては、明確な抗がんエビデンスを有する生薬、フアイアの普及も行う。
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