本当は怖い「男性更年期」、男性ホルモンの低下は死を招く可能性すらある。発見するには?

「男性更年期」には具体的にどのような症状がみられるのでしょう。また、診断と治療はどう進み、私たち女性はどのように関わり支えるべきなのでしょうか。男性更年期治療の第一人者である、順天堂大学大学院の堀江重郎教授に伺いました。

前編『「男性更年期」始まりのサインが「ベルトの穴」ってどういう意味?かかりやすい人の特徴と対策』に続く後編です。

 

男性ホルモンは「獲物を家に持って帰ってくる」ホルモン。褒めてもらえないと出なくなってしまう

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――なるほど、おかしいと感じたらどうすればよいのかが少しわかってきました。さて、話が戻りますが、そもそもどうして男性も更年期になるのでしょう?

女性の更年期障害も出る人、出ない人がいますが、更年期を迎えること自体は100%決まっています。同じ霊長類でも、ゴリラやチンパンジーは閉経すると死んでしまいますが、人類は進化した結果、生殖が終わってからの人生も遺伝子的に保障されているのです。

 

いっぽう、男性の生殖機能はもともと寿命いっぱいまで維持されます。従って、男性更年期は遺伝子で決められた原因ではなく、環境によって起きます。症状こそ似ていても、遺伝子で決まっている女性のエストロゲン低下とは少し意味が違うのです。

 

そもそもテストステロンは外に出かけて獲物を獲って家に持って帰ってくるホルモンです。どこに獲物がいるかの認知力と、得物を仕留める筋力のホルモンなのです。なので、獲物を獲れなくなった人、また、せっかく獲物を獲ったけれど周りが認めてくれない人に男性更年期が起きるのです。

 

――男性更年期になりやすい人がいるのでしょうか?

都会に多い傾向があり、ストレスがかかる人に多いです。地方で競争少な目に暮らし、仕事が終わったらさっさと帰宅して晩酌して夫婦生活を楽しんでぐっすり寝てるという人はなりません。

 

ぼくが診察した中に、39歳の若さで強い男性更年期に陥った人がいました。検査すると、テストステロンは確かに低いのですが、聞いてみれば朝7時半に出社、仕事は22時までサービス残業。朝5時半に起きて、土日は疲れて寝ています。奥さんも39歳、妊活しているけど性欲がないのでおかしいと来院しました。当たり前ですよ、そんな倒れるような生活をしていて性欲があったらお化けです。

 

――どのような症状が出てきたら男性更年期のサインなのでしょう?

わかりやすいのは、いろいろなことをおっくうがり始めること。もう一つ、体重が増えてベルトの穴が変化していることです。去年より2㎏増えた場合、男性ホルモンが減っていると見ていいです。食べすぎて太ったと言い訳するかもしれませんが、2㎏太ったらサインです。

 

また、夜中のトイレと、笑わないという点もサインです。テストステロンはリラックスしたときに分泌が促されるため、男性更年期になると笑顔が減ります。

 

――うつ病と共通する症状があるように感じますが、どう見分ければいいのでしょう。

うつ病には2つのタイプがあります。まず、環境に関係なくうつになる「大うつ病」。仕事が好調だろうとどういう状態でもなります。もう一つは、パワハラを受けた、会社が倒産したなど、環境に起因して元気がなくなる「適応障害」。これらをひっくるめて「うつ病」と言っています。

 

うつになりやすい人は男性ホルモンが低い傾向にあるため、男性更年期とうつ病はオーバーラップする部分もあります。うつ病の2つのタイプのうち、後者の適応障害ではテストステロンの低下が起きています。多くの場合、大うつ病の人はやせますが、男性更年期の人は痩せません。ここが見分けるポイントです。

 

男性更年期は治療しないと「ずっとそのまま」、元気のない状態が続いてしまう

――にわかに注目された観のある男性更年期ですが、医学的には前々からあった病気なのでしょうか?

東洋医学の世界では5000年前から存在しています。東洋医学の言葉で「腎虚」。腎は体のエネルギー、それがむなしくなってしまうのです。東洋医学では女性は7の倍数、男性は8の倍数の年に体調の変化を迎えると考えます。男性は42歳ごろから調子が悪くなりますが、かつては40歳で隠居していましたから、獲物を獲ってこなくなると2年でテストステロンの減少が始まるんですね。

 

このように歴史的に下地のある分野なので、ぼくらも最初は漢方薬を処方します。エネルギーを補うための補中益気湯がスタンダードです。イライラする人には柴胡加竜骨牡蛎湯、最初はこの2つのどちらかでスタートしています。男性も漢方薬を問題なく受け入れていますよ。

 

――漢方薬が思うほど効かない場合はホルモン補充に進むのでしょうか?

進め方は人によりけりです。男性更年期の治療方針はテストステロンの低さと、症状の強さで決まります。ホルモンがかなり低い場合はホルモンを足すほうが早いのですが、保険適用の男性ホルモン薬は注射薬1種類しかありません。注射薬は痛いうえ、ホルモン値がバーンと上がったり下がったりするので、あまり使い勝手がよくないと感じています。

 

男性医学はまだまだ遅れているため、自費診療を選べばアメリカで行われているような治療も受けられます。例えば、日本以外のほとんどの国では使いやすい塗り薬がよく普及しています。

 

――女性の場合、治療をしなくてもいずれ更年期症状は収まると言われます。男性更年期の場合はどうなのでしょうか?

女性の更年期症状は閉経後5年ほどで終わりますが、男性更年期は待っていても治りません。80歳になっても男性更年期の人がいるんです。女性のみなさん、いま男性更年期のご主人を放っておくと、80歳までそのまま同じ状態ですよ。すぐ治療につなげてください。

 

全員が通過する女性の更年期とは大きく違い、男性の場合は更年期を迎えないこともあります。でも、出た場合は周囲が何かしら様子がおかしいなと気が付きます。そういえば笑わないね、怒りっぽくなったね、という具合です。

 

――我慢してだましだまし日々を過ごすうちに、いつの間にかホルモン低下に身体が慣れる…という女性の感覚はまったく通じない…?

我慢以前なんです。テストステロンが低くなると病気にかかりやすくなり、死んでしまいます。細胞の染色体の末端には細胞の寿命を決めると考えられている「テロメア」があり、加齢とともに短くなっていくのですが、テストステロンにはこれを短くしない力があります。その守りがなくなるため、病気にかかるんです。

 

女性は生理周期に合わせてホルモン量が変動しますが、男性は褒めてもらうことでホルモン量が戻ります。誰でもいいから褒めてもらい、自信を持つことが大切。自分が必要とされる、評価される、感謝されるという実感が必要なのです。自分で獲物をゲットしたという感覚を持てばホルモン量は戻ります。

 

――ということは、自分で獲物ゲットの感覚を高く維持していくことで、男性更年期リスクを下げ続けている人もいるのでしょうか?

男性の中でも、性欲が強い人、浮気癖がある人は、もしテストステロンが高ければ男性更年期からは遠い可能性があります。また、会社組織の中での強さだけでなく、例えば会社ではうだつが上がらないオジサンだけれども少年野球でコーチをしているなど、どこかでよいポジションが取れている人も更年期になりにくい。ゴルフが上手い人はテストステロンが高いし、行きつけの居酒屋を持っていてみんなが歓迎してくれる人も大丈夫です。

 

パートナーのゴルフ代、飲み代に顔をしかめる方も多いでしょうが、医師から見ればそれで男性更年期リスクが下がるなら安いものです。なぜ男性は夜の街だスナックだゴルフだとお金のかかるところに行くかというと、それでエネルギーを補充してるんですね。

 

いっぽうで、人と交わらない男性でもテストステロンが高いことがあります。例えば、カメラマンは社交的ではなくてもテストステロンが高い。フリーランスの仕事をしている人は総じて高い傾向にあります。組織に属さない人は、組織に頼らない時点で高い傾向があるんです。そもそもテストステロンが高い人は組織になじみません。

 

泌尿器科または専門外来へ。男性ホルモン補充の注射は半年程度で効果が出る人が多い

――初歩的な質問ですが、身近に男性外来、メンズヘルス外来など専門の外来がない場合はどうすればいいでしょうか?

男性更年期を診察するのは泌尿器科です。が、どこでも診てくれるわけではないので、男性更年期、男性外来などで近隣の泌尿器科を検索してください。内科で診ている場合もあります。事前に電話して、男性更年期の疑いがありますが受診できますかと聞いておけば確実です。「日本メンズヘルス医学会」のメンズヘルス外来一覧も活用してください(こちらから)。

 

受診を迷う場合、ネットで「HPテスティング」という簡易的なテストステロンチェックを入手してください。唾液を送るとテストステロン値を検査してもらえます。男性外来を受診してもテストステロンは問題ないですと言われてしまう人もいるため、事前に把握しておくのもいいでしょう。女性のホルモン補充療法がホルモン値と関係なく症状で実施してよいように、男性も数値とは関係なく実施できるようにガイドラインが変わってきています。

 

――テストステロン注射はどのような判断でスタートしますか? 注射ですから、すぐ効くんでしょうか?

テストステロンがかなり低く、更年期症状も強く出ている人はテストステロン補充の注射に進みます。保険では月に2回まで注射でき、3割負担の場合は再診料含めておよそ1回1000~2000円の間でしょう。自費の場合は多くは1~2万円というところです。注射を打ってすぐ回復する人もいますし、そうでない人もいます。テストステロン数値を上げれば元に戻るというものでもないんです。

 

数値が上がった場合、ストレスに対する抵抗値も併せて上がりますが、身体が動くようになったらその間に日常の環境を変える必要があります。例えば、ネズミを使った実験で、針でちくちく刺すと最初は痛がって暴れるのですが、やがて動かなくなることが知られています。これがまさに抑うつの状態です。このような環境を変え、負のループから抜け出す余裕を生み出すのがテストステロン注射です。

 

多くの場合1年ほど治療しますが、だいたいの人は半年以内によくなります。ちなみにまで、女性にもテストステロンは出ていて、更年期世代は大抵テストステロンが弱まっています。女性の更年期障害に対しても男性ホルモンを少し足すと元気が出ることがあります。

 

コロナ禍はより男性更年期のリスクが上がっている。周囲が受診につなげてあげて

――女性の場合、閉経を迎えればもう生殖する必要がありません。男性の場合、生涯に渡って生殖が必要なんですか?

それは哲学者に聞いてくたさい(笑)。男性外来を受診する患者さんのうち、3割から半分が注射に進むべき症状です。誤解されがちなのですが、泌尿器科は性機能や性病の科というわけではありません。男性更年期の症状にはEDも含まれますし、実際EDの人も来院しますが、大抵の場合EDの人はEDとして来院するんです。そして、俺EDですと言って来院する人はテストステロンは低くないんですね。生殖機能と男性更年期は同じ軸で考えなくてもいいと思います。

 

多くの患者さんは50歳から60歳の間です。最近は内科などでも男性外来に行けばと言われるので、それで来院するケースも多いです。

 

――ありがとうございます。最後に、コロナ禍が長く続いていますが、男性更年期にどのような影響を及ぼしていますか?

コロナ禍以降、確実に患者数は増えてます。なぜかというと、コロナでリモートワークばっかりしているとテストステロンが出なくなってしまうからです。やっぱり男性は外に出て、獲物を獲って帰ってくるのが大事なんです。

 

男性の40代、50代、60代は社会生活の実りの時期なのに、男性更年期に陥ると実らなくなってしまいます。人生のハーフタイムで定年を迎え、前半戦が終わってこれから後半戦を迎える大切な時期。ご家族で健康を見直してください。

 

現在は男性更年期リスクが社会的に高い状態なのだということを認識して、ご家族やご友人に異変がある場合はさりげなく受診を促してみてください。

 

▶【この記事の前編】「男性更年期」始まりのサインは「ベルトの穴」、それってどういう意味?こんな夫がかかりやすい

お話/堀江 重郎先生

順天堂大学医学部・大学院医学研究科 教授
1985年東京大学医学部医学科卒業、1993年医学博士。テキサス大学、東京大学、国立がんセンター、帝京大学等を経て、2012年順天堂大学大学院医学系研究科泌尿器外科学教授。男性ホルモンの低下に起因する様々な疾患の診断と治療を行う日本初の男性外来「メンズヘルス外来」を立ち上げるなど、日本の泌尿器科医療をリードする第一人者。これまで泌尿器科学に加えて、救急医学、腎臓学、男性医学を学び、日米で医師免許を取得。泌尿器科の手術は、がんの手術にはじまり、腎移植、外傷後の尿道再建、腹腔鏡手術、内視鏡手術など、海外を含む9つの病院で幅広く研鑽を積む。前立腺がんの外科手術にロボット支援手術「ダ・ヴィンチ」を導入し、機能を温存した外科手術の実践と普及に力を入れると同時に、アンチエイジングと男性医学、腎臓学の研究も行っている。

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