【岩井志麻子】なぜ人は年齢を重ねると「頑固になる」のか?

2020.10.20 LIFE

先日、知人に連れられて小さなライブハウスに行った。いわゆる地下アイドルに混じって、なんだかベテランぽい、つまりそこそこお歳を召した男性も出演したのだが。
奇抜なファッションやメイクで、とんがった歌をそこそこの歌唱力とパフォーマンスで見せてくれる可愛い子達より、そのすべてが普通っぽい彼が印象に残ってしまった。

 

一人だけ出演した「オッサン」

服装も含めて見た目も本当にそこらのオッサンなら、トークも歌唱力も一般人としかいいようがなかった。自分で作ったという歌も、「〽秋の次は冬~虹は七色~♪」みたいな、ここまで凡庸さを追求できるのは逆・才能かもしれないという代物。
なのに彼、三十年もやっているというのだ。連れてきてくれた知人と、すべてを見終えてライブハウスを出た後も、ひたすら彼について熱く?語り合ってしまった。

止まらない、彼についての話

「三十年、あのスタイルでやってんのかな。てか、三十年やってて全部が上手くならないって、逆にすごい。トーク、歌唱力、作詞作曲、一つくらいプロっぽくなるもんだろ」

「いやもしかしたら、あれでもデビュー時よりすべて上手くなっているのかもよ」

「だけど彼、とてもじゃないけどあれで生活できるはずないから、ちゃんと給料の出る仕事を別にやってるか、親が金持ちか、あるいは稼ぎのある奥さんがいるかだね」

「それより、三十年やっててまったく芽が出ない、というのをどう考えてんのかな」

「売れることは目的じゃなくて、続けることが目的かも

 

「彼」の話をしていたのに

「うーん、とにかく、歌うことと舞台に立つことが好き、なんだろうね、シンプルに。売れる売れないは二の次で、とにかく自分は歌手で舞台に立ってる、というのが大事

「だねー、今さらボイストレーニングなんかにも行けないよね。自分はプロの歌手って自負と自尊心があるんだろうから。いや、そもそも自分を下手と思ってないかも」

「それに、ド派手な衣装を着てみるとか、人気芸人を真似たトークで客いじりをしてみるとか、意表を突いたホラーな歌詞やエロい歌い方をしてみるとか、そういうのは彼にとって『今までの自分を否定すること』『これまでの三十年は無駄だったということ』よ」

ふと、気づいた。
彼を語りながら私達は、自分達の「今さら変えられない生き方」「なぜ年配者は頑固になるのか」をも考えてしまっていたことに。

この記事は
作家 岩井志麻子

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