20年前に小2娘を殺された母が、刑務所で「彼らは加害者であると同時に被害者」と語った深すぎる理由

2001年6月に起きた大阪教育大学附属池田小学校児童殺傷事件で当時2年生の優希さんを失った遺族であり、悲しみに寄り添うグリーフケアボランティア「グリーフパートナー歩み」代表を務める本郷由美子さん。ですが、本郷さんはグリーフケアとは「死別のケア」だけではないと語ります。

 

「たまたま私がその経験を経てボランティアなど現在の活動を行っているということであり、グリーフケアとは『悲劇的な別れ』があった人だけのものだとは捉えないでほしいのです」と続けます。

 

とはいえ、本郷さんのご体験は記事『附属池田小学校児童殺傷事件「長机に横たわり動かない子どもの姿が見えました」かなしみとともに生きるということ』の通り、苛烈としか表現のしようのない日々でした。その日々を経てなお「大きな悲劇だけにフォーカスしないでほしい」と語る、その思いを伺いました。

 

前編記事『附属池田小事件被害者の母が「最後に68歩分歩いた娘」への慟哭を経て「日々の小さな悲しみへの寄り添い」に至るまで』に続く後編です。

 

バイアスをできる限り捨て、ただ魂をそこに置いて、同じ目線で寄り添う

押し付けず誘導せず、ただ同じ景色を眺めて伴走する。そんな本郷さんが寄り添いの折に心掛けるのはただひとつ、「バイアスを持たないこと」だそう。人は自分の経験から判断を行うため、こういうことがあったらこうなるに違いないと考えます。そうした先入観をすべて消し、ひたすら同じまなざしで見つめることが重要だといいます。

 

「自分の経験と重ねるのではなく、その人がどう感じているのかを感じ取ることは、言うのは簡単ですが実践は難しい。もし泣きたいのだと思ったら一緒に泣いてもいい、結果紙をぐちゃぐちゃにしてもいい。いざ目の前にグリーフを抱えた人がいると、その都度何を求めているのか、どうかかわったらいいかが違います。ケアはその瞬間に自然に生み出されていくのです」

 

ただし、本郷さんはあまりグループワークを行わないのだそう。なぜならば、所属することによってつらい経験をする人もいるから。どういう意味なのでしょうか?

 

「たとえば犯罪被害者という共通項ひとつ見ても、失われるものは多岐にわたります。事故の後遺症で職を失う、夫婦関係がうまくいかなくなる、経済的な環境を失う、身体の一部を失うなど、いろいろな事象が重なるのです」

 

そのほか、重症でも命だけは助かる人、助からなかった人、さまざまな条件の人たちが同じグループにいることで、「彼女ほど苦しい思いをしたわけではない私が同じように嘆いていいのか」という「サバイバーズギルト(生存者の罪悪感)」の状態に陥ることもあるといいます。助かった人をうらやんで「あの家は助かったのに」と感じ、そう感じてしまった自分に落ち込むという堂々巡りも起きるそう。

 

「人間はどこかに所属していたいのです。でも、安心できるはずの場所でも傷ついてしまい、結果グループにいても抑うつ症状を呈してしまうというケースがあります。そんなとき 湧き上がってくる気持ちを聞いてくれる場所、話が漏れずに安心していられる居場所と人が大事なのです。このようなサードプレイス的な居場所が、附属池田小事件の当時にはありませんでした。だからこそ私はあのとき苦しかったのだのだと今になればわかります」

 

なぜ刑務所での講演活動を続けるのか?「彼らは加害者であると同時に被害者だからです」

すべての悲嘆を等しく扱い、むしろ日常からは見えにくい、セーフティネットにかからない悲嘆にこそ目を向けていきたいというのが本郷さんの思い。これを特徴的に表すのが刑務所への訪問でしょう。2003年に出版した最初の書籍が06年に少年院での矯正教材に使われるようになり、その現場を見学したいと訪れたのがきっかけでした。

 

刑務所での少人数のグループワークへは自分が事件遺族であると告げずに参加し、最後に立場を明かしたのだそう。すると「やっぱりな、そうだと思った」という声のほか「なぜ被害者という立場なのにここに来るのか」という声が上がりました。

 

「少年院では、子どもたちが書いた作品を目にしました。そこにはごはんも食べさせてもらえず、殴られていたという記述がありました。それを読んだ私も深く傷ついたのです。私は親の目線で彼らを見たのですね。池田小の犯人も幼少期にこのような虐待に逢っており、その悲しみを誰もサポートしなかった。こうした怒りや悲しみのエネルギーが犯罪に向かっていくこともあるという気づきを得たのです」

 

たとえば「悪いことをしたのだから謝りなさい」と押し付けのように言われても、自分自身の心がが癒されていなければ、自身は被害者のまま。真の意味での謝罪にはらないのではないでしょうか。口先の謝罪の延長には「再犯」があることでしょう。

 

「愛がわからない、何で自分の行為が悪いのかがわからないという言葉を聞くこともありました。私が思う悲しみや善悪の水準と、この人たちが思うことは違うんだ、なぜ彼らはそう思うんだろう。悪いと思えない原因を考え、まずはそこをサポートしていくことが必要なのだなと感じました」

 

自分の悲しみ、つらさが少しでもケアされた、大事にされたと感じることではじめて他者を大事にしようという気持ちが芽生えていくのだろうと本郷さんは言います。

 

「私の願いはただひとつ、この社会が安心安全であってくれること。ですから犯罪を犯さざるを得なくなってしまった人たちが再犯しないということもとても大切な取り組みの一つです。どうせ出所しても自分は犯罪者のまま生きていかねばならないと思っている人に対して、私のように心配して寄り添ってくてた存在がいたというという記憶は、もしかして救いになるのかもしれない。そのために、小さなことだけど私ができることをできる範囲で実行していくことが大事なのではと思っているのです」

 

ただ誠実に、特別なことではなく「毎日のこと」として悲しみに向き合っていく社会に

記憶が救いになるかもしれないという点で、本郷さんは前述の「やっぱりな、そうだと思った」という言葉を揶揄の言葉ではなく「伝わった」反応であると前向きにとらえたそうです。

 

「そこにいる受刑者の皆さんは、私から見れば加害者であり、いっぽう被害者でもある、両方の立場を持つ人たちです。私の話から『この人は従来とは違う何かを持ってきたのではないか』と感じ取ったことで『やっぱりな』という言葉が出たのではないか。そのように私の言葉を受け止めて記憶に残してくれたことが嬉しく、誠実に関わったからこそ気持ちが通じたのではないかと思えました」

 

このような本郷さんの寄り添いの姿勢はまさに、大きな喪失につながる小さな喪失を補い、この世をよりよくしていく取り組みでしょう。それでは、こうした姿を学び、自分でも実践したいと感じたとき、私たちはどのようにこうした活動に参加していくことができるのでしょうか。

 

「グリーフケアを学べる場所は増えています。以前に比べたら学びやすくなっていると思います。私は、グリーフケアは、一定の配慮は必要になりますが、難しいことではなく誰でも担い手になれると思っています。例えば風邪をひいたとき、怪我をしたときに、その人を心配して手当をしますよね。その時と同じような気持ちでいいと考えています。悲しみは日常の中に溢れています。ここに気が付かけないことも一つの喪失なのではないでしょうか。社会の中にある一人一人が抱えている悲しみに寄り添いあって、みんなで支えあうことを一人一人に考えていただくことができたら、それが形になっていくと思うのです」

 

こうして必要なグリーフケアが積み重なっていけば、寄り添われなかった悲しみのエネルギーが怒りとして他者に向かう事件も減っていくでしょう。本郷さんのこのお話は、多くの人が我慢して抱えてこんでいる日常のグリーフに寄り添いあうことの重要さに改めて気づく機会になったのではと思います。

 

「みんな誰もが悲しみを抱えています。日常の中にある悲しみに気づきその声に耳をすませ さりげなく自然に寄り添い会えるやさしい社会になってほしいと願っています」

 

前編記事『附属池田小事件被害者の母が「最後に68歩分歩いた娘」への慟哭を経て「日々の小さな悲しみへの寄り添い」に至るまで』に続く後編です。

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『グリーフケアの時代に』

東京・名古屋・大阪・京都・秋田・岐阜・宮城・大分で上映決定、詳しくはHPを
https://grief-care-movie.com/

 

東京、大阪、京都での舞台挨拶が行われます。本郷さんは12月1日・2日の東京、12月3日の大阪、京都(午前)にご登壇予定。

【ヒューマントラストシネマ有楽町 舞台挨拶】
■12月1日(金)

10:00の回上映後(11:25頃予定)
登壇:中村裕(監督)/ 井手敏郎(公認心理師・日本グリーフ専門士協会代表理事)
日景健貴( 音楽 )/ 本郷由美子(グリーフパートナー歩み代表)
司会: 益田祐美子プロデューサー

■12月2日(土)

10:00の回上映後(11:25頃予定)
登壇:中村裕(監督)/ 音無美紀子(語り)
井手敏郎(公認心理師・日本グリーフ専門士協会代表理事)
日景健貴(音楽)/ 本郷由美子(グリーフパートナー歩み代表)
司会:三山宣美

ヒューマントラストシネマ有楽町:12/1(金)~ 12/14(木)限定公開
住所:東京都千代田区有楽町2-7-1 有楽町イトシア・イトシアプラザ4F  03-6259-8608

 

【シネ・リーブル梅田 舞台挨拶】
■12月3日(日)

10:00の回上映前(10:00開始予定)
登壇:廣田稔(天外者:総指揮)
鈴木とし子(天外者:共同プロデューサー)
本郷由美子(グリーフパートナー歩み代表)
司会:益田祐美子プロデューサー

シネ・リーブル梅田:12/1(金)~ 12/14(木)限定公開
住所:大阪府大阪市北区大淀中1-1-88 梅田スカイビルタワーイースト  06-6440-5930

 

【UPLINK京都 舞台挨拶】
■12月3日(日)

12:00の回上映後(13:25頃予定)
登壇 :井手敏郎(公認心理師・日本グリーフ専門士協会代表理事)
本郷由美子(グリーフパートナー歩み代表)
司会:益田祐美子プロデューサー

■12月4日(月)

12:00の回上映後(13:25頃予定)
登壇:円純庵(和文化研究家・心学者)
司会:益田祐美子プロデューサー

UPLINK京都:12/1(金)~ 12/14(木)限定公開
住所:京都府京都市烏丸姉小路下ル場之町586-2  075-600-7890

 

【注記】 舞台挨拶につき、 諸事情により変更となる場合はご容赦ください。
当日料金:一般¥1,500(前売り券利用可)/ 詳しくは各劇場ホームページをご覧願います。

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