「男性更年期っぽい夫が病院に行ってくれません。どうすればいいですか?」とってもありがちな問題を「性差分析」の視点から見たら意外な結論が

オトナサローネは「シェアウェルネス」というキーワードを持っています。女性にとって働きやすく暮らしやすい世の中は、男性にとっても暮らしやすいはず。男女は権利を争って敵対する概念ではなく、お互い得意なことをリードして、苦手なことを補い合う存在ですから、よいものを両性でシェアしていきたいというキーワードです。

 

私たちが女性媒体であるにもかかわらず男性更年期の啓発にも等しく力を入れるのは、男性は間違いなく私たち女性の最良のパートナーだから。でもちょっとだけ病院に行くのが苦手な人たちなので、女性が「あんた病院行きなさいよ!」とおしりをたたく必要があるからです。大事なのは個人だから、男でも女でもどっちも助けるべし。

 

「その概念は、『性差分析』に近いと思います」

 

こう語るのは女性ヘルスケア市場専門のシンクタンク「ウーマンズ」が運営するビジネスメディア『ウーマンズラボ』編集長の星ノ矢子さんです。

@YakoHosnino

 

「男女の性差に科学的に正しく着目することで、新しい視点が獲得できます。花粉症のマスクだって、花粉のガード率を上げるために男性用と女性用が存在していますよね。このようにみんなが『違い』に自覚的になることで、より個々の特徴にあったサービスが登場し、より暮らしやすい社会が到来します」

 

性差分析と言われると「???」ですが、案外とシンプルで、生物学的な性別(セックス)や社会的な性別(ジェンダー)の性差を分析し、研究開発に組み入れてより質の高い研究や技術革新を目指すという考え方。性差分析に基づいた開発志向をジェンダード・イノベーションと呼びます。

 

ウーマンズは2月20日から性差分析をテーマとする展示会「ジェンダード・イノベーションEXPO」を開催します(主催:健康博覧会、企画:ウーマンズ)。詳しいお話を聞きました。

 

性差分析とは「男女の当たり前の違い」を「ちゃんと認識する」こと

たとえば、薬は治験への参加者が男性中心であるため利き方やリスクがが男女で異なることがあること、AI開発者は男性が多いためデータやアルゴリズムにバイアスがかかりやすいことなどが挙げられます。

 

もっと身近なところでも、性差分析を取り入れた商品が登場しています。例えば、ロート製薬のシミケアブランド『メラノCC』。女性向けのブランドでしたが、2021年からは男性向けに『メラノCC Men』を展開し、髭剃りによるダメージや長年蓄積された紫外線のダメージなど男性ならではのシミ要因や肌特徴を考えた処方設計がされています。

 

むくみケアで人気の着圧ソックス『メディキュット』からも、昨年2月に男性向けの『メディキュット For MEN』が登場しました。男性も病気や不調、座りっぱなしからくるむくみをケアをしたいものの、男性向け商品がないため、今までは女性向けのメディキュットを使っていたそうです。そういった男性たちにとって、男性ならではの着圧設計がされた商品は「待ってました!」ですよね。

 

こういった性差に注目する動きはメーカーだけでなくスタートアップ企業や商社、BtoBといったあらゆるところで広がってきています。

 

福利厚生サービスを提供する『pluskampo』は、風邪など男女共通の不調だけでなく、女性特有・男性特有のそれぞれの健康問題をケアする漢方薬を提供しています。

 

2023年からジェンダード・イノベーションに取り組み始めた医療専門商社の『松吉医科器械』は、医療・看護・介護領域におけるフェムテックとメンテックの取り扱いを強化しています。

 

医療・看護・介護領域は必要性に迫られやすいことからもともと女性・男性それぞれの健康問題やケアニーズに応える製品が多いのですが、たくさんの商品を扱う医療商社が前面に出て性差を掲げた影響は、とても大きいのだそうです。

 

「フェムテック」の流れから一歩進んだ「ジェンダード・イノベーション」

ウーマンズが企画する「ジェンダード・イノベーションEXPO」はBtoBに特化したヘルスケア展示会「健康博覧会」とのタイアップイベントで、本年で2回目の開催です。22年までは「フェムテック・ゾーン」として運営していました。

 

「フェムテック元年の2020年前後から、興味を示す企業は年々増えていて、日本ではフェムテックという言葉が生理・妊娠・セクシャルウェルネスといった、いわゆるSRHR*の領域と強く結びついて根を下ろしました。フェムテックは消費者にはわかりやすいキーワードですが、本来、女性特有の健康課題はもっと幅広い。だからこそ私たちはSRHR領域にとどまらず、女性の健康課題全般を訴求できるイベントにしたかった。また、市場を拡大していくためにはBtoB企業に商機を提供して参入してもらう必要があり、フェムテック=SRHR領域の印象が強いままではいずれ規模に限界がくるとも考えました。そこで、上位概念であるジェンダード・イノベーションの提唱をスタートしました」

 

*SRHR/Sexual and Reproductive Health and Rights(性と生殖に関する健康と権利)

 

21年までは「フェムテックは弊社とは関係ないです」と、フェムテックのトレンドを遠巻きに見る企業も多かったそうですが、22年の「ジェンダード・イノベーション」以降はSRHR領域以外の女性の健康課題や、男性の健康課題への取り組みへも焦点が広がりました。よりよい製品が生まれる潮流ができた手ごたえがあるとのこと。

 

「フェムテック・ゾーンを開催した22年当時は、社内での事業化や起業を目的に情報収集に来場される若年女性の姿が目立ちました。23年はミドル以上の男性、女性、つまり事業の決定権者がぐんと増え、特に男性来場者の増加には目を見張りました」

 

事業に興味があってもフェムテックに男性が入場しては失礼かもと立ち入れなかった、でもジェンダード・イノベーションの視点ならば、SRHR領域以外の女性の健康課題や、男性の健康課題も対象になるので「入りやすい」という声も聞こえてきたそうです。

 

「中には、自分ではあのゾーンに立ち入れないからと、女性に依頼して情報収集をしてもらっていた男性もいました。そうした方々がご自身で来場しやすくなったため、出展企業からは『熱意の質が変わった』と聞きました。この、男性がアクセスしやすい名称というのも性差分析ですよね」

 

イベント名の変遷は、ひいては男性視点でフェムテックを見るという体験でもあったそう。

 

「同じ商品のパッケージでも、男性向け、女性向けでコミュニケーションを変更することでより届きやすくなる実例もあります。青にすれば男性向きという話ではなく、男性が視認したり関心を向けやすい什器設計もあり、そうした支援を行うBtoB企業もあります。そうした性差が心理面でも『ある』と気づくことがまず大事だと痛感しました」

 

その意味では、タイトルの「男性が病院に行ってくれない」問題も少しだけ回答が出そうです。

 

男性ホルモン、テストステロンが持つ働きとして男性は生まれながらに一国一城の主であり、医師という権威者に親しみを持ちにくいのだそう。性差の視点で言えば「男性では自発的に病院には行ってくれないものだ」と理解納得して、「この日時で予約を取りました、行ってくれないと私の顔がつぶれるから、頼むから行ってくれ」と、「頼まれたから仕方なく行く」ステージに変更するのが正解なのだと男性更年期のお医者様が言っていました。

 

「究極的には個々に向けたパーソナライズアイテムを提供できる世の中というのが、男女すべての健康課題を救い上げるための理想です。しかし、パーソナライズはコストも技術開発力もハードルがあまりにも高い。それは無理でも、少なくとも、『薬の効きが男女で違う、なぜなら無意識のうちに男性を基準に作っていたからだ』というようなことはなくなっていったほうがいいですよね。パーソナライズ化する手前で、まずはそうした男女の性差へ着目して商品を作り分けるというのはとても建設的な転機だと考えています」

 

「ジェンダード・イノベーションEXPO」開催概要

■イベント:第2回 ジェンダード・イノベーションEXPO 2024

■テーマ :女性特有/男性特有の健康課題を解決

■開催日 :2024年2月20日(火)~2月22日(木)

■開催場所:東京ビッグサイト(東4・5・6ホール)

■来場者数:43,000人(見込・同時開催展含む)

■主催  :健康博覧会

■企画  :ウーマンズ

後援  :厚生労働省,農林水産省,日本貿易振興機構 (ジェトロ)

■入場料:税込5,500 円(web事前登録者は無料)

▼特設サイト

https://womanslabo.com/genderedinnovation2024

■web事前登録https://www.healthcareweek.jp/2024/form.cgi?lang=jp

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