「引きこもり歴15年」でも芥川賞作家になれた、田中慎弥が教える「人生仕切り直し」の糸口とは?

2025.06.25 WORK

自分にとって価値ある「なにか」を手繰り寄せること。武器となるのは「ささやかな思い」

その道に職業でかかわるには、こういった段階を経ればいい、必要な能力はこういうものだ、この資格を取っておかなくてはならないと、明確に示されていればいいのですが、そのようにはっきり数値化されているとは限りません。

 

自分で推しはかりながら進むしかないことも多いわけで、逆に言えば、道筋をみずから描くことができさえすれば、道はきっと拓(ひら)けてくるはずです。

 

わたしの場合、死んでも作家になりたいとまでは思っていなかったけれど、「なれたらいいなという気持ちはずっとどこかにありました。

 

強靭な意志が一本しっかり通っていたと胸を張れるほどではないにしろ、どうあってもなれないと、ハナから決めつけるようなことはありませんでした。

 

わたしは、じっくり、ねちっこく、あきらめずに過ごしていたことになります。普通に考えれば、作家なんて間口の狭い、特殊な職業ですから、どう考えてもわたしには無理だ、という結論になります。

 

学歴があるわけでもなし、ゆえに専門的な勉強をしたわけでもなし、ならば小説の大きなテーマとなるような特殊な経験や出自があるのかといえば、戦争体験はもちろんありませんし、人種、宗教上の差別を経験したわけでもありません。

 

まあ、官僚や大企業の社員になることだってほぼ無理なわけですが、ある程度の読書体験はこなしているという自負、傍目(はため)からすれば自負というにはあまりに心許(こころもと)ない自負なのでしょうが、それでもわたしにとって価値ある「なにか」をつかむきっかけにはなりえたくらいの自負はありました。

 

それを足がかりに「無理かな、どうだろう、無理かな」と思いながらも、なんだかんだ小説を書き続けていたわけですね。

 

どんな小さな「なにか」でもいい。それを見出して、いったん手繰り寄せれば、あなたはあきらめずに努力を続けることができる。

 

サッカー観戦を通して、喜びや落胆を味わった。あの感動の場に少しでも近づきたい。そんなささやかな思いが、あなたの大きな武器になります。

 

 

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■著者 田中慎弥(たなか・しんや)
1972年、山口県生まれ。2005年に「冷たい水の羊」で新潮新人賞を受賞し、作家デビュー。08年、「蛹」で川端康成文学賞、『切れた鎖』で三島由紀夫賞を受賞。12年、『共喰い』で芥川龍之介賞を受賞。19年、『ひよこ太陽』で泉鏡花文学賞を受賞。『燃える家』『宰相A』『流れる島と海の怪物』『死神』など著書多数。

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