もう、故郷に帰っていいですか?-42歳・栄子の場合(3)-【40女の恋愛事情・story5】

2016.10.25 LOVE

Wheat field at sunset. Beautiful sunset Nature background.

彼はこう返してきた。

 

「そっちが来れないのなら、俺が行こうか?」

 

予想もしていなかった言葉だった。

 

「どうして……?」

「どうしてって、会いたいから」

「家の人にはなんて言うの?」

「そうだな、いい空気を吸ってくるってふらっと出てくるよ」

 

彼が、この街に来る。

本当は、連れて行きたいところも、見せてあげたい景色も、たくさんある。

それに、彼は、会いたいって、言ってくれた。

胸が高鳴る。

 

やっぱり、会いたい。

会って、ただ、そばにいたい。

 

「まあ、そうしょっちゅうは行けないとは、思うけど」

 

今までの月イチのデートよりも数は減るだろうな、と彼は匂わせてくる。

そんなの、寂しい。

心の中で、素直な私が叫んでいる。

 

やっぱり東京で、もう少し、頑張ってみようか。

でも、戻ったら、同じことの繰り返し。

私は彼と月に1度、会えるだけ……。

それじゃだめだ。

離れたからこそ、だめだってことが、わかる。

 

「ごめんね、もう、戻らないと思うんだ。東京でのことも、全部、忘れたいんだ」

 

彼にはそう繰り返した。

私はやっと気づいていた。

本当は会いたい。

でも、今なら離れているし、ガマンができそうだ。

 

そして私は気づいてしまった。

私は東京から離れたいんじゃない。

 

私はこの恋から離れたがっていたのだと……。

 

 

■もう、故郷に帰っていいですか?-42歳・栄子の場合・完-【40女の恋愛事情・story5】/毎週火曜18時更新■

栄子の場合(1)はこちら

栄子の場合(2)はこちら

このシリーズの過去作品はこちら

1 2 3

スポンサーリンク

スポンサーリンク

スポンサーリンク