ただひたすら、バレるのが怖い。連絡できない葛藤と束縛【不倫の精算#14後編】

2021.01.26 LOVE

不倫を選ぶ女性たちの背景には何があるのか、またこれからどうするのか、垣間見えた胸の内。前編からの続きです

<<<この話の前編

【不倫の精算#14後編】

これまでの記事はこちら

「仕事」と「恋心」の葛藤

不倫がはじまってからは、彼は特に無茶な要求をするでもなく契約を盾に何かを強いることもなく、ふたりの都合が合うときにホテルで数時間過ごす日々だという。

 

 

行為が終わったあと、彼は当然のようにLINEのIDを尋ねてきたが、彼女は「顧客と個人的な連絡先を交換するのは規則違反だから」と理由を作って断っていた。

「寝ておいて今さらって思うだろうけど、さすがにLINEは……。

あっちの奥さんにもし見られたらと思うとそれが怖くて、連絡は電話だけにしたの」

 

 

それでよかった、と口に出かけるのを止めて、

「でも、彼のほうは納得したの?」

と尋ねると、

「“わかった”って、納得したフリはしていたけど。私が奥さんや会社にばれるのを恐れて交換したくないんだってことにはすぐ気がついたと思う」

と、A子は肩をすくめて答えた。

 

LINEだけでなく、メールやSMSなど痕跡の残るものはいっさい教えていないそうだ。

「販売員と顧客」から「不倫相手」となった彼との関係は、A子にとって決して楽しいものではなかった。

連絡の手段を電話に限定したことで、かえっていつでも着信に応じなければいけなくなり、

「どんな用事かわからないでしょ。もし案件のことならすぐ答えないといけないし、朝メイクしている最中にかかってきたから慌てて出てみたら会う約束の話だったりして、たまにイライラするの」

とA子はため息をついた。

 

 

恋心は確かにある。

抱かれていると出会った頃に彼に向けていた情熱を思い出す。

でも、どこまでも「仕事の枠」から抜け出すことのできない相手なのだと実感する瞬間も、また多い。

誘われれば断れない、会えば行為に溺れてしまうのはこの葛藤を忘れるためなのだと、A子の沈んだ口ぶりから伝わった。

 

「けじめ」をつける覚悟

こうなったのは自分のせい。

そんな罪悪感を、この半年でA子から強く感じるようになっていた。

あからさまに望んだことではなかったけれど、いざ不倫関係になると、その窮屈さに誰より疲れてしまったのがA子だった。

 

 

「普通の恋人同士なら、離れている間もLINEで話すとか、心がつながっているのを感じることができるでしょ?

でも、彼とはダメなのよ。

甘えたいときでもすぐに会えないし連絡もできない、全然幸せじゃない」

 

 

何度かそんな話をしたが、関係を終わらせたいと思えば案件の問題が出てくる。そもそも自分がプランを勧めていた相手なら、つながりを順調に保つのもまたA子の仕事だった。

「本当のことは言えないじゃない、まさか不倫関係になってイヤだから担当を変えてほしいなんて。誰にも相談できないわよ……」

まさに公私混同よね、と自嘲するように笑うA子だったが、自分でこの状態を選んだという事実にさらに苦しんでいた。

 

 

それを終わらせるために考えたのが

「次の契約更新で担当を変わる」

という案だった。今日、私と待ち合わせたのは、それをどうやって会社に通すかの話を聞いてほしかったからという。

「けじめをつけなきゃ」

最近出ることが多くなったこの言葉は、A子の後悔を含んでどんどん重みを増していくようだった。

 

 

最初は一方的に向ける淡い情熱だった。

だが、それを相手に見抜かれると逃げられない状況を作られ、流されるというケースは多く見る。

それでも、選んだのは自分という後悔は、苦しくとも正しい道に戻る正常な心のあり方だと思いたい。

 

(end)

 

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