更年期世代が「気を付けたほうがいい」睡眠の特徴とは?「眠れていない」と感じる人に共通する部分があって

ウエアラブルデバイスによる生体データ計測がいよいよ日常の常識の一部になってきました。「そろそろ何かスマートウォッチほしいな」と検討中の人も多いのではないでしょうか。1日も早く買って計測を始めたほうがいいです。ただし、何を買うかは慎重に考えたほうがいい。

 

間違いのない選択肢のひとつがApple Watch Series 11をはじめとするApple Watchでしょう。Appleが7月に開催した睡眠にまつわる専門レクチャー「Apple Watch Sleep Experience」から、睡眠とメンタルヘルス領域で研究を続ける早稲田大学スポーツ科学学術院 西多昌規教授に「よりよい睡眠」について伺います。

 

「なぜ私たちは眠るのか」その明確な理由は実はあまりよくわかっていない

 

睡眠にはどんな意味があるのか。実は明確な答えはまだわかっていません。単なる休息やリカバリーのためだけであれば、進化の過程で不要になっていてもおかしくないはずだ、という考え方があります。進化論的に見ても、睡眠にはこじつけようと思えばいくらでも説明はできるのですが、寝ている間は単に休んでいるのではなく、もっと積極的な活動が行われていると考えられています。

 

人は寝ないとどうなるのか? かつてアメリカのテレビ番組で断眠実験が行われたことがあります。高校生男子が11日間、眠らずに過ごすとどうなるかを検証しました。

 

最初のうちは、いわゆる寝不足のときによく見られる症状が出る程度でしたが、実験が進むにつれて妄想のような症状が出て、やがて幻覚が見えるようになり、だんだん目が見えにくくなるといった症状も出てきます。11日目には、きわめて危険な、極度の記憶障害の状態になってしまいました。そのまま回復しないと重大な後遺症が残る可能性がありましたが、被験者は15時間爆睡した後に後遺症なく元の状態に戻りました。彼については、後年、不眠に悩まされたというエピソードもあります

 

たとえば成長ホルモンは、深い睡眠中にもっとも多く分泌されます。人間の体の中には、寝ている間にしか起こらない活動があるということです。また、後ほどお話しする「脳のクリーンアップ理論」もその一つで、脳の老廃物は寝ている間に掃除されると考えられています。

 

睡眠は、もし本当に不要なものであれば、進化の過程でなくなっているはずのものです。それがなくならず存在し続けているということは、地球に昼と夜のサイクルがあることに合わせて生物が作り出した、重要な生命活動だと考えられています。

 

更年期世代が感じる「睡眠の質の低下」は残念ながら気のせいではなく「本当に落ちている」

世代によって睡眠は変化します。赤ちゃんは、レム睡眠の割合が全体の3〜5割程度と非常に高くなっています。スポーツやビジネスの分野では、睡眠時間をなるべく短縮して深い睡眠だけを濃縮したい、という発想を持つ方がいますが、現時点ではそのような方法は確立されていません。年を取ると、だんだん深い睡眠がなくなっていき、高齢になると大幅に減少します。睡眠時無呼吸などがない健康な高齢者でも、深い睡眠が占める割合は2割から2割5分程度に固定され、朝方は浅い睡眠がほとんどになってしまいます。

 

最近注目されているのが、睡眠中に脳の老廃物が処理される「脳のクリーンアップ理論」です。誰しも認知症にはなりたくないと思いますが、アミロイドβ、タウなどのたんぱく質などが脳に蓄積すると、それがアルツハイマー病の原因物質の一つになると考えられています。アミロイドβは実は40~50代からすでに蓄積が始まっています。70代になってから対策を始めても手遅れだと言われます。

 

これを排出するのがグリンパティック・システムと呼ばれる仕組みで、グリア細胞などが作る老廃物を睡眠中に脳脊髄液を通じて排出すると考えられています。この排出は深いノンレム睡眠の間に活発になる可能性が示されています。

 

更年期世代はどうしても睡眠の質が低下します。ある程度は自然な加齢であり、やむを得ないのですが、かといって、これらの話からわかるとおり、そのまま放置していいことでもありません。

 

私は一般診療では漢方薬を処方することがあります。抑肝散、抑肝散加陳皮半夏、酸棗仁湯などを頓服的に使います。これらは毎日毎日継続的に服用するというよりも、頓服として服用し、何度か試して効かなければ効かない可能性があります。こうした漢方薬を市販品の中から試してみるのもいいでしょう。

 

睡眠が不足することで「上がってしまう病気リスク」って?実はほとんどの生活習慣病が上がる

活動的な方はどうしても睡眠を削って活動に充てたいでしょう。ただ、長期的な睡眠不足、数ヶ月から数年単位の睡眠不足は、さまざまな病気との関連が指摘されます。

 

高血圧はその代表例で、睡眠不足でない人と比べてリスクが高まるというデータがあります。ほかにも、高血圧、脳卒中などの高いリスクとの関連が報告されています。血中脂質については遺伝や食事との関連のほうが強そうだと考えられています。

 

睡眠不足そのものよりも、喫煙などの方がより有害な因子であることも多いです。精神疾患についても、たとえば非常に労働環境の厳しい職場で何ヶ月も睡眠不足のまま働き続けると、どこかで心身に無理が来るということが言われています。ここまではっきりとした因果関係が証明されているわけではありませんが、交通事故など、パフォーマンス低下に関わる事故は、長時間の睡眠不足がある人の方が、そうでない人に比べて多い傾向があります。

 

夜間、心身にさまざまな不調が出ることがあり、皆さんは「日中のパフォーマンスが落ちる」というような感覚で気づかれることが多いと思います。眠気が出る、頭痛が出る、というのがよくあるパターンです。教科書的な定義よりも、実際にはもっと多くの方が該当すると考えられています。

 

睡眠時無呼吸も課題です。日本では男性3~7%、女性2~5%がり患していますが、実際はもっと数が多く、日本には2200万人いるとされます。CPAPが必要となる患者さんは非常に多い一方、実際に治療を受けている人は一部にとどまっています。

 

睡眠は主観と客観が不一致になりやすいことが知られます。自分の睡眠は悪いと思っていた人が、実は睡眠時無呼吸症だと発覚するケースがあります。脳卒中、過度の眠気、うっ血性心不全など、多くのリスクが併存します。

 

私も40代半ばの頃、ウェアラブルデバイスをつけていて「なんだか睡眠の質が悪いな」と感じたところ、実は睡眠時無呼吸症候群だと発覚しました。自分でも驚くほどの重症度でした。夜間に呼吸が20~30秒止まって、酸素飽和度が80%以下に低下していたのです。当時は大学病院勤務のストレスで睡眠の質が悪いのだと思い込んでいたので、原因があったことに早めに気づけて良かったと思っています。睡眠時無呼吸症候群は、あらゆる病気のリスクを高めます。毎晩、気道が締め付けられるようにして血中酸素濃度が低下するため、高血圧、脳卒中、心不全など、さまざまな病気につながっていきます。

 

高血圧は日中の眠気にも関係します。40代半ばくらいから、特に首まわりのがっしりした体型の方や、女性であれば閉経後の方などにリスクが出てくることがあります。

 

つづき>>>「深くぐっすり眠れる人」だけが認知症リスク低下、というわけでもないらしい?「よい睡眠」のために重要なこととは

スポンサーリンク

スポンサーリンク

スポンサーリンク