昭和23年「消えた通信簿の少女」がこの国でたどった運命。翻弄されるテレビクルーが見た「意外な姿」とは

2023.03.11 LIFE

令和4年度(第77回)文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門優秀賞受賞作品が「ドキュメンタリーというよりむしろミステリだった」「結論がどうなるのか最後までわからずハラハラする」と静かに話題を集めています。

 

この作品は、22年8月14日にBS-TBSで放送された『通信簿の少女を探して ~小さな引き揚げ者 戦後77年あなたは今』。

 

迫りくる締め切りの中、淡々と真実を追いかけるテレビクルーに「そんな偶然本当にあるの?」と驚くような事実が次々と提示され、最後は嘘のような収束に向かう。リアル世界で繰り広げられていながら、あたかもミステリのように思える作品です。

 

3月17日より全国4か所の映画館を巡回する「TBSドキュメンタリー映画祭 2023」への出品も決まった本作、なぜこのような「意外な手触り」になったのでしょうか。ディレクターのTBSスパークル・匂坂緑里さんに、「ドキュメンタリーを作る」ことについて伺いました。

 

トップ画像/©BSーTBS

企画・演出 匂坂緑里さん(TBSスパークル)画像/本人提供

 

偶然手元にやってきた古い通信簿に驚くほど惹かれてしまった。この時点でもう運命が仕組まれていた

――まず、作品の概要からお話しください。6年前、匂坂さんがたまたま買った画家ゴーギャンの古書に、一枚の古い通信簿が挟まっていたのですね?

 

はい、これは作品の冒頭でも説明している通りです。本当にたまたまネット通販で買った古本に挟まっていました。

 

――通信簿は昭和23年、別府市の小学6年生の少女のもので、大変興味深い評価が書かれていた。匂沢さんはこの通信簿の持ち主の少女を探す旅を始めたが、それはただの尋ね人にとどまらず「知られざる日本の戦後史」をひも解く旅へと発展した……。本当に、驚くくらいに知らない日本史でした。

 

舞台となる別府市は戦後、引き揚げ船が入港したり、温泉を求め負傷兵が多く来ていて、人口密度日本一になったこともあったそうです。そういう戦後の話って、私たちほとんど知らないですよね。

 

最初にこの通信簿を見つけた6年前、とても気になり、番組にするための企画書を書いたのですが、無類の古書好きでもある大先輩に見せたところ「こういうものが挟まっているのはよくある話」と一蹴されてしまって(笑)。なので、いちどは提出せず引っ込めた企画です。でもずっと心に引っかかっていて、6年の間少しずつ企画書を書き直していました。

 

――6年もずっと、企画書を書き直していたのですか? いちどはお蔵入りした企画にもかかわらず?

 

この通信簿がとてもミステリアスで、私は書かれている内容にとても惹かれました。

 

――どのような点でしょうか?

 

まず、保護者欄に母の名前だけが書かれている。そして、成績は超優秀なのに「人望がない」と書かれている(笑)。私自身も小学生のとき同じように、成績は比較的よいものの人望のなさを強く感じていました。会ったこともないこの少女のことが「わかる」と思ってしまった。この少女に惹かれるという気持ちが沸いて、どうしても、どうしても会ってみたいと感じました。何か大きな「運命の力」のようなものが働いたのだと思っています。

 

ときに私たちは「どうしても抗えない何か」に「操られて」ことを成すことがある

――匂坂さんは仕事の原動力を「好奇心」とおっしゃっていました。この通信簿にも「好奇心」がくすぐられたのでしょうか。

 

ちょっとオカルトめいたことを言いますが、さきほどの「運命の力」というのはもっと大きなもので、私ごときの小さな個人の好奇心とは全然別。それが私という媒体を使って調べさせようとしていたなと思います。通信簿そのものの面白さもありました。ほかにも、例えばフェイスブックで「こんなの見つけたけどご本人に届けたいな」と書いたら普段つかない数のいいねとコメントが集まります。どうしてみんなこんなに反応するんだろうと不思議に思って、また惹かれる。なので、その後も暇を見つけては名前を検索して、電話番号が判明したら昔の刑事さんみたいに電話をかけて、何々さんいらっしゃいますかと調べていました。

 

――特別なテレビ流の調査方法があるわけではなく、意外と普通と言いますか、地道に昔の刑事さんや探偵さんみたいに調べていくんですね。

 

はい、思いつく限りのつてをたどって、電話したり、聞き込みをしたりと根気よく調べていきます。ですが、この件は、調べていくうちに明らかになっていくこと、起きる事象が「こんなことってあるの?」と驚くような偶然の連続でした。長い間ドキュメンタリーに携わっていますが、こんなことは初めてです。

 

――具体的にはどのようなことが起きたのでしょうか?

 

作品内でもその様子に触れますが、通信簿では少女と母の名前しかわかりませんから、それを頼りに別府の新聞社が発行する名簿を調べます。確かにその時期その地域にその名前の人がいたと掴み、掲載されている電話番号にかけてみますが、完全に同姓同名の別人でした。

 

映像では撮れていないのですが、念のためその方にお会いした際、見せていただいた家系図の中からはらりとハガキが1枚落ちるんです。その時点では仔細はわからず、資料として写真に撮らせていただいて帰りました。ですが、あとから実は、そのはらりと落ちたはがきの差出人が少女の父親その人だったと判明して。

 

そこで偶然はらりと落ちなければ私たちはハガキの存在に気づくこともなく、父親にもたどり着きませんから、仕組まれてるとしか思えませんでした。ミステリならばきっと犯人が仕組んだ何かです。でも、これは架空のお芝居ではありませんから、いったい誰が仕組んでいる? 恐ろしくなりました。

 

――確かに、「そんなことってあるの?」と思わず声が出てしまうようなエピソードですね。

 

まさに。これだけじゃないんです、一事が万事そんな具合の操られっぷりでした。通常ドキュメンタリーを作る場合、多くは先に一定のメッセージがあり、目指すゴールに向けて素材を紡いでいきます。その結果「伝えたいことが伝わらなかった」と思うことも過去にはありました。

 

でも、今回は私に何か意思があったというわけではなく、目の前に現れてくる事象をその通り追いかけていったらこういう結果になりました。設計図のない実録なんです。

 

放送後はかつてないくらいにいろいろな方からメールやお手紙を頂いたのですが、中に東大の先生がいらして、「本当によかった。でも、あなたはこれで何を伝えたかったんですか?」と書いてありました。丁寧に見てくださっていることに感謝しつつ、でも今回私はメッセージを込めておらず、本当にまごうことなく操られたので(笑)、返答に困ってしまいました。

 

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