戦慄…常に「顧客にとって本当にいいもの」以外を勧められてしまう?「パンプス」が背負う事情とは
「パンプスを買って失敗した」という経験をお持ちの方は一人や二人ではないと思います。店員さんともたくさん話をして、色々な靴を試着し、コレだ!と思って買っても、いざ履くと足に合わない。
なぜなのでしょうか? それは、売る側、買う側の色々な事柄が複雑に絡み合ったため。この残念な結末は決して偶然ではないのです。
前半記事『パンプス買う人「痛くないようにワンサイズ大きく」は絶対NG。 あなたがいつも靴選びを失敗する原因をプロが解説』では正しい靴の選び方をお伝えしました。後編では、なぜ「間違った靴が売られてしまうのか」その背景を探ります。
売る側はどれだけ親身でも必ずノルマに追われていると思っていい
まず、靴を売る側の事情を考えてみましょう。
靴屋さんはお店や会社を維持するために、数を売ることと、返品されないことの2つを意識し、経営しています。もちろんそれだけではなく、お客様に満足してもらう、快適に過ごせる靴を提供する事も考えていますが、やはり「売上」を意識すると顧客満足度の優先度が低くなることも少なくはありません。まずは、「売る事」「返品」という事情について考えてみます。
さて、質問です。靴屋さんは1つの靴に対して、サイズや幅の違う靴をどのくらい用意すると思いますか?
長さを20cm〜27cmまで5mm刻みで用意する場合、それだけでも15種類のサイズ違いの靴を用意しなければいけません。
さらに、足の幅も様々なので、極細、細、中、広、極広と各サイズで5種類用意しましょう。さきほどの長さの15種類に5種類の幅をかけ算すると、1つのデザインで75種類のパンプスの在庫が必要です。
サイズによって売れる数は違います。在庫切れをおこさないために、靴屋さんは大きいサイズ中心にパンプスを用意する傾向があります。なぜなら、パンプスが小さいときつく感じ、敬遠されがちですが、大きいサイズなら足は入り、売ることができるからです。幅のラインナップも全てを用意するのが難しく広か極広だけになることも少なくありません。
実のところ、人の足は左右の長さや幅が全く同じということはほとんどないのですが、売る側・作る側の事情や、消費者も安さを優先することから、この仕組みはなかなか変えられません。
次に、もう一つのファクター「返品」について考えてみましょう。
返品を出さないためには何を勧める? 答えは簡単「ユルいオーバーサイズの靴」
靴がたくさん売れても、それが返品されてしまっては意味がありません。そのため、返品を防ぐのに緩いパンプスを勧めることがあります。なぜ緩いパンプスを勧めるのでしょうか。
例えば、消費者の方から「小指が当たる」という申し出があった時、店員さんは大きいサイズを持ってくることがほとんどです。
本当は、なぜ当たるように感じているのか、足の形と、靴の形の違いを確認して対応を考えるのが正解なのですが、店員さんも新人やアルバイトだったりすることもあり、その靴が本当に足に合っているかどうかわからず、ワンサイズ大きい靴を持ってくるのです。
また、大きめサイズをお勧めしておくと緩いパンプスの方が痛くなるまでの時間が稼げるということがあります。緩いと歩き疲れしやすかったり、靴の中で足が動いて靴擦れが起きたりしますが、休息タイムが入れば緩い分だけ靴を脱いだのと同じ状態になるので、足のダメージが回復して痛みが和らぎやすい。つまり、足に合う靴を選ぶのが難しいときには、大きめの靴の方が、消費者が期待した状態を維持しやすいのです。
「ユルいほうがいい」という思い込みを捨て、靴は「育てて」履いて!
靴屋だけが悪いとは言えない状況があります。知識のない、パンプスを履かない店員さんが対応していても、あなたが正しいパンプス選びをできれば、問題は起きないのです。知識が身につけばネットや無人店でも自信を持ってパンプスを選ぶきっかけになると思います。
株式会社crossDs japan 代表取締役 諏訪部 梓
プロフィール:
1984年生まれ。ガンダムが好きで、ロボットを作りたいとロボット造りが学べる国立沼津高専に入学、NHKのロボコンに参戦。2002年大会ではチームリーダーを務め、地区大会優勝、全国大会ベスト4の成績を修める。国立長岡技術科学大学の経営情報工学科に進学、ITと経営について学び、2007年からITコンサルタントとして小売業を中心に10年以上、顧客の経営革新や最新IT技術を使った取り組みに携わる。ITコンサルの時に3Dプリンタの特許が切れ、手軽に3Dプリンタが使えるようになり、3Dプリンタを使ったもの作りにチャレンジしようと考えオーダパンプスにたどりつく。
個人専用に木型(靴型)を3D計測データを使い、3Dプリンタで製作するオーダーメイド3Dシューズの提供サービスAYAME|菖蒲を2020年2月にスタート。同世代の靴作りの仲間や靴職人60年以上の大ベテランを率いている。オーダーパンプスを修理付きのサブスクという新しい利用の仕方で消費者に提供中。パンプス以外に紐靴、スニーカー、ブーツなども3D製作している。男性ではあるが、日頃から製品研究のためにパンプスを履いて仕事をしている。工房にはパンプスを求める男性客の来店も増えてきている。
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