もしかして更年期は「45歳スタート」ではない?閉経平均年齢を「50.54歳から52.1歳に」認識変更すべきこれだけの理由

オトナサローネで7年続く読者インタビュー「100人の更年期」はこのような書き出しで始まります。

 

閉経の前後各5年を一般に更年期と呼びます。日本人の閉経の平均年齢は50歳なので、45-55歳は更年期に当たる人が多く、体の不調に苦しみ「更年期障害」の状態に至る人もいます。

 

この「平均年齢」とは、日本産科婦人科学会・編『産科婦人科用語集・用語解説集』(2019年)に掲載の閉経平均年齢「50.54歳」を編集部判断により「50歳」と記載したものです。

 

現在、国内の更年期記事の何割かは同様に「50.54歳」の前提に立ち、「45-55歳は更年期に当たることが多い」として扱っています。しかし、この傾向に疑問を呈するのが川崎医科大学婦人科特任教授の太田博明先生です。

 

1970年代から女性医学分野に携わり、今なお現場で目を配る太田先生は、「より新しい研究での平均値は52.1歳です。閉経平均年齢はこの30年の間に変化しているのではないでしょうか」と指摘します。

 

これは朗報! 40代になると早々に、「あと数年、45歳くらいで調子が悪くなるのかな」と更年期を意識し始めますよね。でも、もし「47歳あたりかも」と心構えを後ろに送れるならば、そうでなくても人生で最も多忙な40代前半を、もう少し心穏やかに過ごせるかもしれません! 太田先生に詳しくお話を伺いました。

 

そもそも、平均閉経年齢はどのように算出されたの? その歴史をひもとくと

――はじめに概要を編集部から。「Japan Nurse Health Study」(JNHS)*1は2001年から現在までに1万7000人が参加した大規模なコホート研究(特定集団の経過を追う観察研究)で、25歳以上の女性看護職を対象に生活習慣や疾患など女性の健康を研究しています。

はい、私が今回お話しするのは、2012年に徳島大学の安井敏之先生がこのJNHSでの調査をもとに手がけた論文*2で、早発卵巣不全、早期閉経の因子を解析した内容です。

 

この研究内で「閉経平均年齢52.1歳」が見いだされたのですが、現状それほど広く言及されていない点をお話ししたいのです。

 

――この研究はどのような背景を持つのでしょうか。

 

たとえば米国で先行するナース・ヘルス研究(Nurses’ Health Study)は価値ある研究として多数の論文に引用されています。各国でこうした大規模なスタディが実施されており、私はこの日本のナースヘルス研究も同様に普遍性のある価値あるデータと捉えています。

 

いっぽうで、看護職という特殊な集団の例を一般化してよいものだろうかと慎重な意見もあります。また、この研究では血液中のFSHやE2など閉経を判定するときに参考にされるホルモンの値は測定していないため、正確性に欠けるという批判もあります。

 

――私は更年期の診断の際、血液検査を受けていません。また、そのご指摘は「職業によって閉経年齢が変わる可能性もある」ということでしょうか?

さまざまな職業の中でも、看護職は夜勤のケースがあり、職責に応じてストレスも高い。さらに高度な医学知識も持つという点で確かに特殊な集団かもしれません。だからといって日々の暮らしにまで一般化できない特殊性が生まれるかというと、その可能性は極めて低いのではと考えます。このことは女性医師にも当てはまると思います。

 

また、現在我が国で閉経は「40歳以降に12カ月以上の無月経を確認することにより判定する」「子宮摘出後などのように月経により判断できない場合はFSH値40mIU/mLかつエストラジオール値20pg/mLをもって閉経と判断する」と定義されています。

 

つまり、閉経を判定する際に必ずしも血液検査は必要とされません。ですので、ホルモン値の測定がなくても、閉経そのものはデータとして信頼できると思います。

 

2つの数字はどうして生まれたのか? 背景は「時期の違い」ではないか

――とすると、閉経平均年齢は52.1歳が正しく、50.54歳は間違いなのでしょうか。

いいえ、どちらも正しいのです。では、なぜ数値が異なるか? これが今回のポイントです。私は、調査の時期の違いが大きく影響を与えているのではないかと思います。

 

50.54歳は1995年の自治医大・玉田太朗先生の研究*3を参照しているものです。52.1歳の安井研究は2012年にまとめたものですから、この20年近い間に閉経年齢が遅くなったと考えるのが妥当でしょう。18年間で1.56歳ですから、10年間でおよそ0.87歳後退すると仮定できます。

 

――なるほど。たとえば、私たちに比べて子どもの世代は永久歯の生え始めも、初潮も早まっていると感じます。もしかして、これは気のせいではないということでしょうか。さらには、閉経までもが年単位で変わるものなのですか?

 

安井研究では、自然閉経時の年齢中央値は52.1歳で、1950~59年に生まれた女性および1960~69年に生まれた女性の閉経年齢の中央値は、1950年以前に生まれた女性よりも有意に遅かった、とあります。

 

簡単に言うと「あとに生まれた人ほどどんどん閉経が遅くなる」ことはほぼ疑いないでしょう。

 

私は1970年に医学部を卒業していますが、当時の医学部産婦人科の授業では松本研究から閉経は49.8歳と教わりました。そこから玉田研究までの25年で0.74歳の後ろ倒し、さらに安井研究までの18年でさらに1.56歳の後ろ倒しというのはさほど矛盾がないように感じます。もし安井先生が小数点以下2桁まで出してくださればもっと精密に検討できますので、お目にかかる機会をつくってお話を伺うつもりでいます。

 

「月経のある期間」が少しずつ長くなっていく影響とは? 悪いことばかりではない

――現在更年期の世代が初潮を迎える直前、1982年の平均初潮年齢は12.65歳でしたが、2011年には12.23歳へと早まっています*4。明治初頭は14~15歳でした*5。いっぽうで、閉経も遅くなる。人生の中で月経のある期間が長くなっていくということでしょうか?

初潮はその後、12.20歳程度からは早まっていないようですが、どちらにせよ日本人の月経期間が長くなっていくことは疑いないでしょう。このことはリスクを伴います。たとえば、月経に関連する子宮内膜症、またPMSやPMDDなど月経に関連する困難症状に見舞われる人が増える可能性があり、ハンデが一つプラスされるという考え方ができます。

 

――なぜこうなったのでしょう。ひと昔前にいわれた環境ホルモンのようなものの影響もあるのでしょうか。

 

それよりも、過去より栄養が充足され、感染症も少ないことが大きな理由でしょう。成長発達を阻害されることなく健全に思春期を迎えることができるため、初潮は早まります。また、閉経前後の時期も過去に比べ医療の発達で健康に過ごせるため、閉経そのものも遅くなっていきます。

 

さらに、晩婚化、少子化で出産年齢も遅い。遅く出産する人は閉経も遅くなることが知られますが、更年期に近づいてから出産するため、排卵が止まる時期も後ろに倒れます。その分卵巣の疲弊が抑えられます。

 

――高齢出産は多方面にリスクがあると知られますが、卵巣には悪いことばかりではない?

頻繁に排卵すればその分だけ卵巣寿命は落ちてしまいます。卵巣は左右に1つずつありますが、片側だけ卵巣を摘出した方は閉経が早い。左右で交互に排卵する場合は1周期休めるのに、毎回排卵する分だけ卵巣の疲弊度が高いからです。休ませる機会があることは卵巣にとってはよいことと言えるでしょう。

 

こうした体の働きは要素が複雑に絡み合います。社会環境の変化などの要素が人体の生物学的な機能にさまざまな影響を与えていることは間違いないでしょう。

 

逆に言えば、女性ホルモンの分泌期間が後ろ倒しになることで、その恩恵にあずかる期間が伸びています。私は産婦人科領域から骨粗鬆症のリスクを長年にわたって啓蒙してきました。骨密度は女性ホルモンの影響を非常に大きく受けるため、閉経前後で骨量そのものが最大20%減少します。(太田先生の骨粗しょう症の記事はこちら

 

期間が伸びた分だけ、しっかりと骨粗鬆症、高脂血症など更年期後に好発の疾患の予防をスタートする時間が生まれます。前向きに捉えて、どうぞこの時間を生かして人生100年時代を健康に生き抜く戦略を立ててください。

 

後編記事>>>「閉経は遅いほうがいいな」と考える人が「今すぐやめるべき」ことって?実は「痩せていないほうがいい」

 

お話/婦人科医・医学博士 太田博明先生

撮影/山岸 伸

 

1970年慶應義塾大学医学部卒業。80年米国ラ・ホーヤ癌研究所訪問研究員、95年慶應義塾大学産婦人科助教授、2000年東京女子医科大学産婦人科および母子総合医療センター主任教授。その後国際医療福祉大学臨床医学研究センター教授、山王メディカルセンター・女性医療センター長を経て、19年より藤田医科大学病院国際医療センター客員病院教授、21年より現職の川崎医科大学産婦人科学2 特任教授、川崎医科大学総合医療センター産婦人科特任部長を務める。日本骨粗鬆症学会元理事長、日本骨代謝学会および日本女性医学学会元理事・監事を務め、日本抗加齢医学会では元理事、現職の監事を務める。国内の女性医学のパイオニアとして今なお第一線での研究と啓蒙を続ける。1996年日本更年期医学会(現日本女性医学会)第1回学会賞受賞、2015年日本骨粗鬆症学会学会賞受賞(産婦人科医で初受賞)、2020年日本骨代謝学会学会賞受賞(産婦人科医で初受賞)。著書多数、最新刊は『若返りの医学 ―何歳からでもできる長寿法』(さくら舎)。2023年4月より日本更年期と加齢のヘルスケア学会理事長。

 

引用文献

[1]   日本ナースヘルス研究(公式サイト) 

[2] Toshiyuki Yasui, Kunihiko Hayashi, Hideki Mizunuma, Toshiro Kubota, Takeshi Aso,Yasuhiro Matsumura, Jung-Su Leef, Shosuke Suzuki :Factors associated with premature ovarian failure, early menopause and earlier onset of menopause in Japanese women,Maturitas, 72, 249–255, 2012

[3] 玉田太朗,岩崎寛和:本邦女性の閉経年齢,日本産科婦人学会雜誌,47 (9), 947-952, 1995

[4] 日野林俊彦,清水真由子,大西賢治,金澤忠博,赤井誠生,南徹弘:発達加速現象に関する研究・その27,日本心理学会第77回大会, 1035, 2013

[5] 守山正樹,柏崎浩,鈴木継美:日本における初潮年齢の推移,民族衛生, 46(1), 22-32, 1980

 

 

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