浮気の予感に、自転車でホテルの駐車場を探し回ると【#婚外恋愛6】
終わりのない苦しみ
「今日はね、予感があったの」
窓の外を流れる景色を見つめながら、F子がぼそっとつぶやいた。
「昨日、アイツが『明日の午後は後輩と買い物に行くから』って別れ際にわざわざ言ったのよ。何かピンときて、あ、女だなって。仕事の後ならあそこのホテル街が近いし、私とも何度か行ったことあるから……」
声は小さくなっていく。「それで、自転車で来てみたの?」と促すと、
「うん。この自転車は見たことないから私ってバレないだろうし。1軒ずつ通りながら中の駐車場を覗いてさ。ほんと馬鹿みたい」
そして見つけてしまったのだ。見慣れた彼の車を。昨日自分が助手席に座っていた車を。
「もうさぁ」
ハンドルを握る手に力を込めながら、前を向いたまま言った。
「やめようよ、こんなこと。あなたが傷つくのを見ていられないよ。あんな男と付き合ったって、あなたの価値が下がるだけだよ」
心からの本音だった。自転車でラブホテルの駐車場を覗いてまわるなんて、どれだけ惨めなんだろうと思う。
そして、そんなことをさせる男もまた、彼女に愛される資格などない。
「うん……」
彼女の声は嗚咽に変わっていった。普段は軽口を叩いて人を笑わせてくれる彼女が、今はどうしようもなく弱くはかない女性に見えた。
目頭の奥が熱くなってくるのは、純粋な怒りを覚えるからだ。
ここまでして確かめずにはいられない彼女の衝動も、「遊ぶ女のひとり」がそんなことをしているとも知らずホテルで快楽を貪る男の滑稽さも、すべてが憤りしか感じなかった。
別れない限り、F子の苦しみは終わらないだろう。恋愛は自己責任だが、いつまでもないがしろにされるような付き合いはF子の精神を蝕んでいくことになる。今のように。
「自分を選ばせてやる」
そんな後ろ向きな情熱は、決して彼女を幸せにはしないのだ。
独身同士の恋愛なら、ほかの異性と何をしようと不倫のようにひどい責めを負うことはないかもしれない。
だがそれでも、ひとりを大切にできない人が、他人から尊重されることはない。関係を疎かにする男性はいつかこうして尻尾を出し、女性に捨てられる側にまわるのだ。
F子はこれを機会に彼とは別れたが、みずからが受け入れてしまった傷と痛みはしばらく消えないだろう。
その選択をいつかまた喜べるような出会いがあることを、願ってやまない。
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