「副業をしたほうが幸せな人、そうでもない人」労働経済学者の最新知見

2022.02.18 WORK

コロナ禍での働き方の変化も後押しして、この2年で急激に進んだ「副業・兼業」のあり方。

なぜこんなに急に進んでいるのか? 注意すべき点は何か?

労働経済学の視点から副業を研究し続けてきた東洋大学経済学部 准教授 川上淳之先生に、学術視点からの客観的な背景を伺いました。

 

研究者は必ず副業を経験する。とても身近な研究テーマだった

――川上先生は2017年『誰が副業を持っているのか?─インターネット調査を用いた副業保有の実証分析』で第18回 労働関係論文優秀賞を受賞。2021年の書籍『「副業」の研究-多様性のもたらす影響と可能性』(慶応義塾大学出版会)で注目を集めています。なぜこうした研究を始めたのでしょう?

 

もともと起業や企業の生産性の研究をしており、修士論文は「二度目の開業」というテーマでした。

 

副業の研究を始めたのは 2011 年ごろ。当時わたしは博士号を取得したばかりで、3つの研究所で働いていました。

 

それぞれの研究所の研究テーマは違っていましたが、研究者の視点で横断的に接するとつながりが見えてきました。 副業には、このようなつながりをパフォーマンスに変える効果があると考えました。

 

ただ、これら効果についての学術的な研究はほとんどなされていませんでした。自分はこう感じたけど一般的に言えることなのだろうか? それとも、研究者にしかこの相乗効果は生まれないのだろうか? これを検証しようと、2015 年くらいから本腰を入れて研究を始めました。

 

「副業をしたい人」の割合が職種ごとに異なるワケは?

――研究では、職種別に「すでに副業を持っているか」「これから持ちたいか」という意向を見ています。どのような職種で意向が強いのでしょう?

 

統計で確認すると、まず兼業農家。続いて一部の専門職。また、医者、弁護士などの士業。学校の先生も、小中高の先生は副業がないのですが、大学の先生は副業を多く持っています。会社の経営者、自営業者も多い。この人たちはすでに副業を持っている割合が高く、また新たな副業を希望していないため、すでにニーズがかなえられていると推測されます。

 

もう一つ、アーティスト、文筆業、デザイナー、編集者も多い。アート系やクリエイティブ系のものづくりですね。その仕事だけでは生活できず、自営業的な働き方をしていると考えられます。この人たちは副業を希望している割合も高いため、やりたいことをやれていない割合も高いのでしょう。

 

いま副業を持っておらず、持ちたいと思っている人が、事務職、会社の管理職です。ITとサービス業で希望率が高く、職種は製造やサービス業の場合はホワイトカラーの正社員事務職と推測されます。パートやアルバイトでの掛け持ちとは少し違う枠組みですね。

 

現在副業を持つことができていないし、希望もしていないのが、看護師、運転士、船員など。働く場所と時間がものすごく制約されていて副業を持つ余裕がないからでしょう。実際にこれらの人たちが持ちたくないわけではなく、勤務形態がフレキシブルになった場合はどうなるかわかりません。

 

ズバリ、「副業を持ったほうがいい人」はどういう状態にある?

――本業のほかに副業を持つことが「効果的」である人とは、どのような状態の人なのでしょうか。

 

「分析的な仕事」で、「スキル目的」で副業を行った場合、本業の時間あたり収入が上がっていました。もう一つ、自己評価の改善という軸で見たとき、自分のキャリアが伸び悩んでいるなと思う人は副業を持つことで改善されていました。

 

「分析的な仕事」は、仕事に求められるスキルを通じて分類されます。職業の分類では、管理的職業と専門職が分類されています。詳しくは拙著『「副業」の研究』の203ページに記述があります。

 

たとえば正規雇用で新卒入社、同じ仕事を続けてきた人ならば、これからもずっと似たような仕事を続けないとならないのかなと感じるかもしれません。このようなキャリアに対する不安や不満がある場合、「スキル目的」の動機で始める副業は不安を解消する効果がありました。動機が収入ではなく、本業でチャレンジしたいことがあるけれど制約があってできないという人に効果的なのです。

 

従って、副業はお金を稼げるかどうかということより、経験スキルとして、人と人との関係で成長やキャリア的変化があるかを意識して探すことが重要なのかと思います。

 

もちろん、お小遣いを稼げればいいと考える人ならばそれもいいと思いますが、それだけでは自分のできることの幅や能力は変わらないため非効率です。お金をもらえて、さらに成長もできるなら、両方が手に入ったほうがいい。

 

ですが、本業に支障が出てしまうと、本業でお前いらないと言われてしまうリスクがあります。こういう場合は本業に集中したほうがいいのかもしれません。

 

後編>>> 「副業を始めることですり減ってしまうのはどういう人なのか」、また「副業を始めるにあたって気を付けるべきこと」について詳しく伺います。

 

お話・東洋大学 経済学部 准教授

川上 淳之(かわかみ・あつし)先生

 

学習院大学経済学部経済学科卒業後、同大学院にて博士号を取得。独立行政法人 経済産業研究所、内閣府経済社会総合研究所などを経て、2017年より現職。労働経済学、産業組織論を専門とし、現在は副業のほか、不妊治療と働き方の関係などの研究テーマに取り組む。

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