女性同士が「更年期の困難」を乗り越えるために「たったひとつ」大切なことって
働く更年期世代の女性たちは、社会に対してどのようなサポートを求めていくべきなのでしょうか。また、元気に仕事を続けている皆さんはどのような工夫をして、また周囲からどのようなサポートを得て、更年期の困難を乗り越えているのでしょう。
主婦の友社は更年期世代の女性たちがより幸福な日々を送るための「アフタヌーンエイジプロジェクト」を始動します。
この連載、「働くアフタヌーンな女性たち」では、アンバサダー女性のここまでの道のりと「いま感じていること」をお聞きします。
【働くアフタヌーンな女性たち #1】後編
沖縄県子ども生活福祉部 女性力・平和推進課 課長 島津典子さん
沖縄県在住、昭和45年生まれの51歳。夫・子どもと家族4人暮らし。沖縄は今年、本土復帰50周年を迎えました。返還は昭和47年ですから、島津さんの母子手帳は『琉球政府』の発行です。「そんな節目の年に起きたウクライナの問題を、お年寄りは自分たちに重ねて心を痛めて見守り、若者たちも心配しています。沖縄の私たちはいつでも皆で世界の平和を祈っています」
*この記事のイラストレーションはウクライナ在住のイラストレーター、Dariiaによるものです。courtesy of Adobe Stock.
周囲のみなさんの更年期の状況はいかがでしょうか。同僚、先輩、お友達…
――私もいま島津さんと同じ51歳ですが出産は42歳でしたので、島津さんは1周先を走る先輩です。女性躍進の部署ですと、更年期の不調を相談する相手はたくさんいらっしゃるんでしょうか?
それが、案外みんな更年期の話はしないんですよ。コロナ以前は女性管理職が交流する会があって、管理職ならではの辛さや身体の不調のことをいろいろ先輩に相談できました。更年期は婦人科に行くことが大事ということのほか、老後の話や、年金、病気などもずいぶん教えていただきました。でも、今はそれもできなくなってしまって。
交流の席では互いに発散して助け合ってる部分がありました。私もそうですが、仕事は大変でも明るく前向きに楽しくやるのがいいよね!というのがこの職場での共通認識。みんなが通ってきた道を共有する場は大事です。
――先輩やお友だちから共有してもらった更年期のお話の中で、特に印象的なエピソードってありましたか?
更年期は人によって症状がばらばらだと思うのですが、友人の中にはメンタル的に弱っているところに下の子の育児と上の子の受験、さらに親の介護まで重なってしまい、そこに職場のストレスまでもがかかった結果、うつ病に陥ってしまった人がいました。彼女に話を聞くと、うつうつとした気持ちが続くけれど、更年期なのか、ストレスなのかが見分けられなかったそうで、きっとこの不調は職場のストレスだろうとだましだまし仕事をしていたら、もう起き上がれないうつの状態に追い込まれたと。
――あるあるですね…元気なうちに医療機関を見つけておかないと、具合が悪くなってからではもう起き上がれなくて、相談する先も見つけにくい。
そうみたいですね。そのほか、来年60歳の定年を迎える先輩は、38歳でお子さんを出産した際、仕事はあとでも頑張れるから先に育児を頑張ろうと決めたそうです。でも、子どもが育ってやっと仕事に打ち込めるようになったころに更年期でご自身が体調を崩してしまいました。更年期の頃に子どもの受験や親の介護が重なる方が多いのではないでしょうか。
――確かに。子どもについても、中受、高受、大受、いつでもどれかに誰かが直面していますね。
まったく何もないご家庭はないですよね。10数年前、当時お隣に住んでいた先輩ママさんが更年期症状に苦しんでいたんです。「あなたも10年後にくるから私でも誰にでも相談しなさい、経験者ならこういう風に対処できるって教えてあげられるから」と言われていました。気軽に先輩に相談できる場がいまほんとうに必要だなって思います。
職場ではお互いの「カバーのしあい」が重要になる。休みやすい環境も作らねばならない
――それに加えて、職場で起きる問題もそれぞれ千差万別。同僚や上司など周囲の助けも同じくらい重要だなと感じます。
本当に。結局のところ、皆でのカバーし合いが重要だなと痛感します。更年期は特に情報が大事ですから、たとえば「生理の貧困」のようにもっと話せる土壌を作っていけるといいですよね。生理もタブー視されてきた部分があり、その生理の延長線上に更年期があります。更年期は人生90年時代に通過点でありながら老後に向けた重大なターニングポイントでもあり、この時期をどう乗り越えるのかでその後の人生に影響が出るだろうと思います。
――島津さんの場合、先輩からの情報がとっても役に立っている印象です。かなり積極的に話を聞かれたんですか?
高齢出産で育児が大変だった先輩から、「人生設計の中で育休は制度の情報がいろいろあるけれど、更年期は情報が取りにくい分野なので、前もってできるだけ調べておくのが重要だよ」と教わったので、体験談は機会があれば聞いてきました。でも、語ってくれる先輩たちですら、まだ心の奥底には生理や更年期のタブー視を持っていると感じます。
みんなそれぞれ悩みはあるものの、聞かれない限りわざわざは言わないんですよね。だから、後輩たちが「情報が取りにくい」と困らないよう、私たちの世代が情報交換しやすい環境づくりをしていかねばなりません。メディアはどんどん情報発信をしてほしいです。
沖縄県庁での女性の働き方はどうでしょう?
――さきほど孫育児の話を伺いましたが、それを経ての課長級への昇進。猛烈な激務をこなしてきたのではと思います。
はい(笑)。ですが、私は直属の上司と部下に恵まれました。孫の育児のあとに企画部というエース級が集まる部署に異動したのですが、そこで東京都で1か月行う研修のメンバーに抜擢されたことが最大のターニングポイントになりました。沖縄県からは毎年4人派遣されるのですが、職場を1か月空けることになるので部署にとっては痛手です。でも、当時5人いた自分の班員を上司が支えて束ねてくれたんです。部下のみんなも暖かく「頑張ってきてください」と送り出してくれました。
――部署全体が「誰かが違うステージに進む」ことに協力的なんですね。これは一朝一夕には成せないことですが、なぜそういう組織ができていたのでしょう?
企画部は子育てパパも多く、当時すでに1か月の男性育休を取得するメンバーがいました。時期をずらして3か月取得する職員もいて、みんなで助け合うムードができていたんです。
多忙なエース級部署で休むとなると、他の部門も格段に休みやすいムードに変わります。沖縄県庁での男性育休の取得状況は、私が企画部在籍の時点(平成29年度)で5%、令和3年度は35.1%になりました。残念ながら1年というスパンの取得はまだ少数で6か月未満がほとんどですが、いっときでも妻に寄り添う経験は家族の絆を深め、あとあとの信頼関係をとても強くします。男性職員が育休を取りやすい環境を職場全体で作っていくのは大事だと思っています。
――女性登用という点でも沖縄県庁は全国的に見て上位ですが、働きやすい環境を整えてきたという実感はお持ちですか?
令和4年4月、沖縄県庁(知事部局)には課長級以上の管理職が324人いて、そのうち62人が女性です。2018年の玉城デニー知事就任以降、女性管理職は積極的に登用されていて、平成30年度の12.1%から令和4年度で19.1%と7ポイント上がりました。令和7年度に23%を目標としています。
沖縄県庁はおよそ女性職員が3割、男性が7割で、たとえば福祉部門には女性が多く、企画部には女性がまばらという偏りはどうしてもあります。しかし、最近では財政部門にも女性が配置されるようになってきました。
女性特有の不調や休暇は部署によって言い出しにくさがあるのは事実で、私も結局のところ、周囲にはわざわざ体調の話はしていないですね。私の職場には、ほかに女性の副参事、つまり課長級の管理職がもう一人いて、お互いが戦友として不調のときは暗黙の了解でカバーしあう立場です。
信頼関係の構築が「休めると言い出せる組織」を作っていく
――なるほど、逆に言うと、完全に更年期だとオープンにしなくても、お互いの気遣いである程度は組織をまわしていくことはできるんですね。
はい。ただし、口に出しても安心という、信頼関係の構築が大事だと思います。生理が重い部下が毎月2、3日は生理休暇を取得するのですが、その都度生理ですと理由を書かないとならない、月経周期を他人に伝えているようなもので恥ずかしいし後ろめたいと言っていたのが印象に残っています。こうした困りごとを抱える人に寄り添って話を聞くことはとても重要で、否定せず教えもせず、そうだよねそうだよねと傾聴することで、やっとそれまで言いづらかった本音を口にしてもらえます。この部下も長くこの恥ずかしさを抱えたまま仕事を続けていたのですが、丁寧な傾聴を重ねてやっと口にしてもらえました。
――いっぽうで、問題の解決策は見えてきても、制度の面での受け皿がないという声もいろいろなところから聞こえてきます。
そもそも生理や更年期のことは、とりわけ男性上司に対してはどうしたって言いにくいという問題があります。更年期障害も含む「女性休暇」のようなものに拡大されればいちいち理由を言わずに休めるのですが、これは私たち公務員の働き方としては国の制度にないことなので、今日明日での実現は難しいでしょう。
女性の先輩らは理由を書く必要のない有給休暇を取得してきたと言っていました。ですが、管理職の場合はそもそも体調不良での休暇はスケジュールのやりくりができず難しい。無理して働いている部分は多少なりともあり、この負荷分散は課題です。
――社会全体にも同じような課題がありそうです。行政機関の中での更年期、取り組みの現状はいかがでしょう
私の部署では、孤独・孤立で不安を抱える女性が、社会との絆・つながりを回復することができるよう「女性に対する居場所づくり」として、つながりサポート支援事業を実施しています。いまお話している「更年期の困難」についてはどうやって行政が受け止め、支援につないでいくのか、女性躍進が叫ばれる中、これからもっと着目されるのではと思います。
――ありがとうございました! 制度の整備に時間がかかる部分はメンバー同士の配慮でカバーしていくという点、私たちも一歩を踏み出していけると感じました。ぜひまたお話お聞かせください。
島津さんがいま注力している沖縄県の事業は……
■令和4年度つながりサポート支援事業
沖縄県では、新型コロナウイルス感染症などの影響により、孤独・孤立で不安を抱える女性が、社会との絆・つながりを回復することができるよう、女性同士が交流できる場、情報を共有できる場を設け、支援を必要とする女性を適切な支援機関につなぐことができるよう相談会を兼ねた居場所づくりを実施。さらに、継続的に支援が必要とされる女性について、居場所づくりと連動して訪問相談支援も実施。
【居場所づくり】沖縄本島4か所で「~繋がる~」をテーマにイベントを開催!
お問い合わせは女性を元気にする会(外部サイトへリンク)まで
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