今年の熱中症「いつもと調子が違うな?」と思ったらまず疑ったほうがいい。もはや災害級の状況
消防庁によれば、今年の7月3日~7月9日の全国の熱中症による救急搬送人員は3,964人。発生場所別では住居が最も多く、続いて道路、公衆屋外(競技場、屋外駐車場、野外コンサート会場、駅等)、仕事場(道路工事現場、工場、作業所等)の順です。
「住居での発生は、暑さを感じにくく、エアコンをつけることをためらうお年寄りが中心です。重症例はそのほか、日中の道路工事現場など、つきっきりでの看病がしにくい労働の現場で発生します。案外とスポーツやレジャーは人の目があるので発見も早い。このように、熱中症はイメージと実態がかなり違います」
数ある疾患の中で熱中症だけはほぼ予防ができるため、重症例となり身体にダメージが残った場合は「防げなかった」という悔いも残るものだと語るのは神奈川県済生会横浜市東部病院の谷口英喜先生。その予防について詳しく教えていただきました。
前編記事『今年の熱中症「夜寝ている間」「プールで」「時差発症」もあり得る。「しっかり寝て、朝ごはんを食べることです」』に続く後編です。
具体的に、熱中症とは何なのか?「普段と違う異常があったらかなり可能性が高い」
先にケースの側からお話を伺いましたが、熱中症とは具体的に何なのでしょうか。
「『熱』に『中』ると書くとおり、暑さにあたる病気です。気温と湿度の影響で体温が上がり、体内の水分や塩分のバランスが崩れたり、体温の調節機能が働かくなるなどして、さらなる体温の上昇が起きた結果、めまい、しびれ、集中力の低下や頭痛などさまざまな症状が現れます」
前兆として疲れ、疲労感があり、数時間たつと脱水が進行して熱中症に。わかりやすい初期症状は『疲れ』『食欲低下』の2つなのだそうです。
「食欲がないからと食事を飛ばすと食事からの水分量500mL 相当が摂取できなくなり、このダメージがそのまま進行します。また、夜眠れなかったダメージがそのまま蓄積して昼間の熱中症を引き起こしやすくなることもあります」
特に今年の7月は、頭痛や痛みが出たら「もしかして」と思ったほうがいいそう。
「お酒も飲んでいないのに二日酔いみたいな症状が出たら警戒してください。頭痛、吐き気、食欲不振のほか、身体に力が入らない、関節が痛いなど、いつもと何か違うなと思った場合、過去24時間に『暑かった』記憶があるなら今年は熱中症を疑って。おかしいと思ったらまずは水分補給を積極的に行います」
経口補水液が手元にあるなら利用してください。それでもよくならない、食欲が出てこない、普段と違うという違和感が治らない場合、病院に行くほどでもないなと感じたら半日はお休みをとり、家の中で安静にします。
「熱中症の治療に準じて、身体を冷やし、身体に熱を発生させないように休みます。リモートワークが可能ならば半日は身体を動かさない仕事に切り替えてください。それで症状が取れるならばやはり熱中症だった可能性がありますので、次回同じような行動は繰り返さないように原因を振り返って予防してください」
子どもは「いつもと違ったら熱中症の可能性のほうから疑うくらいでいい」
前述の通り、今年は多くの人が熱中症を経験する可能性が高いため、子どもも同様に「いつもと違うのならば熱中症かもしれない」と捉える必要が。
「子どもは学校生活や登下校の中で暑い場所での活動もあり、帰ってきてから熱中症になることが結構多いものです。昼を食べ残していないか、水筒の中身が残っていないか等が異常のサインです。普段よりおとなしいのは学校で先生に怒られてショックを受けたせいかと思っていたら、実は熱中症だったということもある。食欲はわかりやすいサインなので、この7月は普段より食欲が落ちたら熱中症を疑うくらいの慎重さでちょうどいいでしょう」
今日の具合の悪さは今日見つけて対処しないと、気づかないまま明日も無理をさせてしまうともう戻ってこなくなる可能性も考えられるため、毎日の会話にも注意を払い、いつもと違う様子がないかを確認することが重要ですと谷口先生。
「食欲がないなら学校や習い事を休ませるくらいの警戒をしていい。子どもは大人ほどには体力の予備能力がないのでダメージは大きい。体温コントロールがまだ未熟なのですぐ汗をかけないうえ、汗をかきだしたら脱水症になるまで止まらなくなる可能性もあります。そもそも大人より地面に近いところで生活しているので暑いのです」
熱中症では食欲が落ちるほか、意外なことに、食中毒のように腹痛や下痢を訴えることがあるそうです。
「臨床の現場ではこの時期、食欲低下と下痢腹痛を訴える場合は感染性胃腸炎と熱中症を同列に考えて問診をするくらいです。お腹をこわしたのはアイスばっかり食べるせいよなどと軽く見ず、もしかして今日は暑いところにいたのかな?と話を聞いてみてください」
この夏はUVパーカーと日傘は必携。エアコンも遠慮せず使って生命を守ってほしい
「熱中症対策には、直射日光をよけることがまず大切。頭ではなく首を隠すことが大事です。また、水分補給も同様に大切。汗をかいてそのままべたっとつくような服より、吸湿速乾で汗をどんどん蒸発させる服を着ます。涼しいからといって上半身裸というのは逆に危険で、速乾性の長袖長ズボンなどを活用して直射日光を肌に当てないこと。今年はUVパーカーと日傘が必須アイテムです。日傘は紫外線ではなく赤外線をカットするものを選び、衣類は黒より白を選んで」
よく、暑さでぼーっとしてしまいと言いますが、ぼーっとしてしまう状態はもう熱中症に片足をつっこんだも同然だそう。
「ペットボトルのキャップが開けられるか、中身をごくんと飲めるかが重症になっていないかの目安です。熱中症の初期症状は脱水症で、脱水が重症になると身体に力が入らなくなるうえ、飲む力も落ちます。その少し手前では意識に関する症状が主体。集中力が低下していつまでも作業が終わらなかったり、意識の混濁して意味の通らないことを口走ったら注意です」
熱中症の状態に至っていたら、とにかく身体を直接冷やすこと、風を送ること。うちわで扇ぎ、汗を蒸発させ体温を下げます。首や脇、鼠径部など動脈を氷で冷やすのも効果的。
「エアコンでキンキンに冷えた部屋に運び込むのも大切です。冷たい空気を肺まで吸い込むことで、テニスコート1面分あると言われる肺胞に一気に冷たい空気を送り、効率よく体温を下げられるのです。冷たい空気での深呼吸を繰り返すとかなり体温が下がりますから、倒れてしまった人の救急搬送を待つ間は車内や保健室を冷やして運ぶとよいのです」
今週から7月いっぱいにかけて熱中症のピークを迎えると予期する谷口先生。「熱中症は思いのほか食生活が大きく影響します。1日3食きちんと食べて、食事からの水分摂取を途切れさせないようにしてください。睡眠をたっぷりとって、疲れを持ち越さないように」と最後のアドバイスをくれました。
つづき▶今年の熱中症「夜寝ている間」「プールで」「時差発症」もあり得る。「しっかり寝て、朝ごはんを食べることです」
■熱中症のお話/神奈川県済生会横浜市東部病院 谷口英喜先生
1991年福島県立医科大学医学部卒。神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部栄養学科教授を経て、済生会横浜市東部病院患者支援センター長兼栄養部部長に就任。神奈川県立がんセンター麻酔科にて非常勤医師も勤める。東京医療保健大学大学院医療保健学研究科客員教授。日本麻酔学会指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急学会専門医、日本静脈経腸栄養学会認定医・指導医、日本外科代謝栄養学会・教育指導医。教えて!「かくれ脱水」委員会の副委員長を務める。学位論文は経口補水療法を応用した術前体液管理に関する研究。著書に『すぐに役立つ 経口補水療法ハンドブック』、『イラストでやさしく解説!「脱水症」と「経口補水液」のすべてがわかる本』(日本医療企画)、『はじめてとりくむ水・電解質の管理 基礎編・応用編』などがある。2023年6月27日に「いのちを守る水分補給」を一般の方向けに出版。
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