「8歳9歳でも初潮がくるのがザラな時代」に親が知っておくべき「生理の新常識」は?私たちの頃との初潮期の違いを医師が解説(前)

明るいお人柄と、軽快な語りからあふれるポジティブなオーラに、「お話するだけで元気を分けていただける」とファンも多数の産婦人科医・小川真里子先生。このたび福島県立医科大学 ふくしま子ども・女性医療支援センターでの診察をスタートされました。

 

更年期のトラブルに精通する小川先生は、かねて「思春期外来」をご担当だったことも。そこで、40代50代女性が直面する「娘の世代の月経・初潮」について、最新知識を教えていただきました。

いまは8歳9歳でも「初潮がくる」のがザラな時代です

――「全国初潮調査」(大阪大学大学院人間科学研究科・比較発達心理学研究室)によると、1961年に13歳2.6か月だった平均初潮年齢は2011年調査で12歳2.3か月へと前倒しになりました。既潮率は小学校4年生6.7%、5年生25.4%、6年生58.3%。小学生の間に過半数が初潮を迎える時代です。

そうですね、私たちが子どものころとはだいぶ月経(生理)の様相は違います。いまは8歳、9歳で初潮を迎える人はザラで、6年生ともなれば周囲の友人のほとんどが初潮を迎えている感覚です。婦人科にも1ケタ年齢の女児が月経関連の悩みで来院します。

 

初潮期は、閉経時期のホルモンの乱れの逆をいくと例えることができます。そのため、来潮から2、3年ほどは月経周期も体調も安定せず、この時期にすでに月経困難症やPMSを経験する子どももいます。

 

月経困難症やPMSでの来院の中心は中高校生ですが、最近では小児科との連携で「小児科を受診したけれど婦人科の分野ではないか」と紹介されてくる患者さんも増えました。中には月経困難症を抱え込んでしまい、月経のたびに学校を休んでしまう子、そのまま不登校になってしまう子もいるんですね。

 

――初潮期のホルモントラブルは、生理痛がつらいという身体の痛みにとどまらず、生活が成り立たないような困難にも直結するのですね。

初潮期に多く見られるトラブルに「起立性調節障害」という、自律神経の働きが悪くなり、起立時に身体や脳への血流が低下する病気があります。朝から全身倦怠感がある、朝ごはんが食べられない、頭痛、立っていると気分が悪くなる、立ちくらみがひどいなどの症状が起きます。

 

症状は午前中に強く、午後からは体調が回復することが多いのですが、月経関連のトラブルを下敷きにしてこの病気に突入するケースも散見されます。つまり、これらの病気は複合的にからみあっている印象があるのです。

 

そもそも、学校に通っていると病院は受診しづらいため治療のないまま症状を悪化させてしまい、結果的に月経トラブルをきっかけにして学校に行けなくなる子は珍しくありません。昔ならわがまま、気合いが足りないなど精神論で片付けられがちだった不登校も、現在ではさまざまな要因が関連していると捉えられており、その一つにホルモン由来の原因もじゅうぶん想定されるのです。

 

もともと「思春期」というくらいで、ホルモンが動き始めるとメンタルの不調をきたしやすくなります。女の子だけでなく、男の子もキレやすくなります。月経が止まったりすれば産婦人科を受診するでしょうが、その手前では小児科か精神科の診察を受けているケースもあり、なかなか全貌が掴みにくいのです。

 

治療の方針も大きく変わった。過去の常識をアップデートして

――初潮期トラブルの原因に関する解像度が、我々の時代より格段に上がっているのですね。となると、月経痛の治療方法も大きく変化しているのでしょうか?

昨今の月経困難症の治療では、痛みや辛さを我慢をせず、漢方薬や痛み止めを適切に使います。なのですが、せっかく医療につながっても、まだまだお母さんが「痛み止めは飲んじゃダメ」と止めてしまうことが多いのです。

 

「クセになって効かなくなるから」「量が増えていってしまうから」と鎮痛剤を躊躇する場合、その認識は改めてほしいと思います。というのも、痛み止めはその仕組み上、痛みが強くなってから飲んでもよく効きません。痛くなる前のかなり初期に飲むのがベストなので、処方された痛み止めは痛み始める前にためらわず飲ませてください。

 

――鎮痛剤はカロナールなど安全性の高いものを使うのでしょうか?

いえ、初潮が来ている子ならば大人と同じ鎮痛剤、たとえばロキソニンなどで大丈夫です。まずは産婦人科を受診してください。

 

昨今では低用量ピル(LEP)の処方も増えました。他に、子宮内膜を薄く保って月経そのものをほぼ止めたまま維持する黄体ホルモン製剤の処方も増えており、血栓症のリスクを高める卵胞ホルモンが入っていない点を評価する医師もいます。このほか、漢方が体質にあって調子がよくなる人もいます。

 

親世代はピルに忌避感があるかもしれませんが、Z世代の若者はオンラインピルを積極的に活用していたりします。産婦人科医が関与せず処方するケースがある点には少々戸惑いを感じなくもないですが、しかしピルを飲み始めると生理痛そのものが軽くなりますし、生理がいつくるかわかるようになるのはとてもラクです。

 

――黄体ホルモンはあまり耳慣れないかもしれません。

薬剤名でいうとジエノゲストです。黄体ホルモンを飲み始めてしばらくすると月経そのものが止まりますので、排卵をゆるやかにストップさせることができます。ただし、よく誤解されますが、こうして排卵を止めることで将来の「卵の温存」にはなりません。原子卵胞の数はとても多いので、排卵しないから貯めておけるというわけでもないのです。

 

――排卵を止めてしまっても体には問題ないのですか?

排卵自体は妊娠するために起きており、月経とは妊娠の準備をしたうえで妊娠しなかったから起きていることです。つまり、妊娠したくないときは月経を休んでよいのです。月経がこないからといって体内になにかが溜まってしまうこともありません。

 

低用量ピル(LEP)は卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモンの合剤が一般的です。含まれているホルモン量が同じ一相性、だんだんホルモン量が増える三相性の2種類があり、基本は21日服用7日休薬。この28日周期を維持して、7日の休薬の間に月経がくるというサイクルです。薬剤名で言うと、ルナベル、フリウェル、ヤーズ、ヤーズフレックス、ジェミニーナなど。ヤーズフレックスは28日の周期投与のほか、最長120日の連続服用が、ジェミーナも77日の連続服用が可能です。

 

 

つづき>>>身体をいたわるため、子どもでも低用量ピルを「当たり前に利用する」時代です!私たちの頃との違いを医師が解説

 

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