
フジテレビ事件の「なにが本当に問題だったのか」即答できない会社組織が「いま抱えているこれだけのリスク」。「仕方ないよね」的な社会認識のマズさとは
「フジテレビ事件には何層もの問題が潜んでいます。『会社としての対応のまずさ』もひとつ挙がるでしょう。タレントからの性暴力が判明した際、最悪にまずかったのは、実は『何もしなかったこと』でした」。
こう語るのは日本女子大学名誉教授の大沢真知子先生。労働経済学、中でも女性キャリア研究のパイオニアで、現在は性暴力被害の研究を進めています。
「同社は『聞くことで被害者を傷つけると思いアプローチできなかった』と説明しました。が、仮にそうであっても加害者には聞けたはずです。でも、何も聞いていないし、何の対応もしていない。主体的に事実を解明しようとしないことが問題であると気づかないまま、記者会見を開いてしまいました」
いかがでしょうか。ご自身の会社で同じことが「起きない!」と自信を持って言える人も、また似たことが起きた場合に間違わず正しく対処できると確信を持って言える人も、どちらもごく少数なのではないでしょうか。労働問題に詳しい伊達有希子弁護士を交えて、働く女性のメディアであるオトナサローネ編集部がお話を伺います。
フジテレビ問題、「本当にヤバかったことは何か」を自分事にできない人が本質的に抱える「これからの時代のリスク」
「フジテレビ問題はこれからの性暴力やハラスメント問題の企業対応を考える際にとても重要です。会見に様々な意見の人が入り込んだ結果、『真実を明らかにしたい』という声を制御できず、結果的に被害者を守れなくなってしまいました。二次加害三次加害が起きた状況は、上層部が何をすべきか理解できていないから生まれたと言えます」
結果、業を煮やした株主の意向を受けて会社も第三者委員会を組織し、会社の対応に問題があると判断したことでスポンサー離れが起きました。性暴力が起きる企業体質そのものにも増して、このようなトラブルが起きた際の会社の対応の仕方が問題になり得ることが公になりました。
「他人事ではなく、どこも抱える問題です。加害があったこと自体は事実と考えているのですから、まずそれに対してすべきことがあったはずです。ですが、私たち研究者も正解をまだ確信持って口にできない部分があります。なぜなら、日本の社会がかけている眼鏡そのものがまだまだゆがんでいて、その事実を認識しようとしている最中だから。より正しいアプローチを社会が確認する必要があるのです」
そう大沢先生は続けます。確かに、ここまで顕著な性暴力でなくても、「ハラスメントなのかどうか、何をすればいいのか判断に迷う」事案はいろいろな環境で数多く起きているのではないでしょうか。
「たとえば、上司から裸の女の人の写真がメールで送られてくる。上司のコイバナを聞かされる、上司の個人的な悩みを聞かされる、自宅でくつろいでいたら上司から電話がかかってきてプライベートの話を聞かされる……」
ええ、コイバナや悩み相談もハラスメント……?
「ここは程度によるので難しいところです。上司の側は仕事の一部の雑談だと思っていますが、これをセクハラだと相談されたとき、同僚や上司、人事担当者はどう捉えてどう対応したらいいのか。いまこの話は『年下の女性』と思ってお聞きになったでしょうが、女性上司に男性部下や、どちらも同性、また部下が年上の場合もあり得ます。『かわいいから娘のような感覚で』というのを言い訳に、夫婦生活の話を延々する、エレベーターで突然抱き着く、宴会のあとにマスクの上からキスするなどという話もありました」
「性暴力」すらどこからどこまでなのか、認識に各自大きな相違があります。NHKが2022年に実施した「NHK“性暴力”実態調査アンケート」には予想をはるかに上回る3万8383件もの回答が寄せられ関係者に衝撃を与えましたが、この調査の自由記述分析を行った大沢先生は「軽い言葉で済ませてはならない人権侵害だと感じた」と言います。
「お客さんのところで身体を触られたことを上司に相談したら『そのくらい耐えろ、前任者ももっとひどいことをされても耐えてがんばったんだ』と言われるのが典型例ですが、要するに何をするとハラスメントだというような話まで次元がたどり着かないのです。いま日本で働くほとんどの人のマインドセッティングが古すぎて。この土壌が最終的に性暴力を容認するのです」
たとえば、女の子なら自分の家庭内の悩みを聞いてくれるものだと思い込んだ男性上司からやがて一緒にご飯を食べようと誘われ、断るとこんどは緊急で仕事の話があるけれど会社では話しにくいから喫茶店にきてほしいと言われ、行ってみるとホテルのいいレストランを予約してあるからいっしょに食べようと話が変わり、しぶしぶ同席するとそのあとに上階のホテルの部屋がとられている……。
「こんな話が令和になってもまだたくさん存在しています。世間でハラスメントを語る際に『女性をからかってはいけない』『触ってはいけない』と言われますが、そのような単純な話ではなく、とりわけ女性に対する上司の見方や男性の見方があまりにも前近代的で馴れ馴れしく、勝手に私的な領域を踏みにじって人権を蹂躙することが常態化しているというのが残念ながら実情です」
女対女で起きるハラスメントもある。組み合わせの思い込みも持ってはならない
ハラスメントや性暴力の被害者は女性という構図が典型ですが、同時に「成功した女性ほど被害者女性に厳しい」という例もあるそうです。
「出世した女性はそうしたトラブルを乗り越えてきているので『そんなこと我慢しなさい』と斬って捨てることもあり、女性対女性の構図にもなりがちです。これらの根本原因は、職場というものが男性の価値観で成り立っているため。ここを見直さない限り、日本の職場はどれだけ表面上うまくいっていようと、海外投資家から見れば男性目線だけで運営されていて被害者に目が向かない組織のままです。被害者によかれと思って言ったこと、やったことが、被害者を逆に追い詰める構図になるままなのです」
つまり、従来通り「男が女を加害する、だから男を教育しよう」という構図だけで捉え続ける限り、こうしたリスクは永遠になくならない、と大沢先生は指摘します。
「男性だけでなく女性も、性加害やハラスメントを容認している土壌が危険です。決して女性が主体的に容認するわけではなくても、『仕方ないよね』と追随することは容認であり、この土壌がある限りは加害はなくなりません。また、会社も『相談窓口を設置したし措置義務も果たした、何かあったら専門家を探せばいいか』と軽く考えているケースもまだまだ非常に多い。どうでしょう、これらの複合例がたまたまフジテレビだったのだ、とは感じませんか」
ここまでの記事ではフジテレビ事件の背景を解説していただきました。つづく記事では「どうすればよかったのか」すべきことについてお話いただきます。
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