
「日本は天国なのか地獄なのか?」モンゴル女性が打ち明ける「出産での女性のキャリア中断問題」
特定行政書士・社会学者の近藤秀将です。私は、国内外の大学等でアジア圏出身者の「日本への国際移動(移民)」研究をするとともに、池袋(東京都豊島区)を本部とする行政書士法人KIS近藤法務事務所」(以下「KIS」)を経営しています。
KISは、在留資格関連申請手続、外国人起業、外国人雇用、国際結婚・離婚手続、渉外相続等のイミグレーション法務を専門としています。そのため、KISには、多くの外国人スタッフが在籍しています。
インタビューを通じて浮かび上がる「本当に日本は特殊なのか」という疑問
さて、前回は、KISベトナム人スタッフのリンさん(24歳)にインタビューしました。
前回記事▶『「そもそも女性の社会進出という言葉がおかしい」ベトナム人女性が言い当てた「日本のしんどさ」の正体』そこから、『ベトナムには「専業主婦」は存在しない』『そもそもベトナムには「専業主婦」という発想がない』という視点を得ることができました。
いっぽう、日本では、「寿退社」という言葉があるように、女性が結婚を期に会社を退職するというのは珍しくありません。また、日本女性が、「専業主婦」になることは、ひとつの常識でもあります。
では、「専業主義がいる」日本が特別なのか? 「専業主婦がいない」ベトナムが特別なのか?
このような疑問が、私の頭に浮かびました。そこで、他のアジアの国における「主婦状況」についても調べてみようと考えました。
2回目、モンゴル出身女性に祖国での女性の社会進出をインタビューしてみたところ…
今回は、リンさんと同じKISスタッフであるモンゴル人のオユカさん(27歳)に、モンゴルでは「専業主婦が存在しているのか」について聞いてみました。
近藤 オユカさんは、「専業主婦」という言葉の意味は分かりますか?
オユカ センギョウシュフ・・・・・・ですか? よくわかりません。
近藤 専業主婦というのは、簡単に言えば「結婚後、家事のみをする女性」のことです。モンゴルでは、結婚したら仕事を辞めるという発想はありますか?
オユカ それはないですね。そんなことをしたら、モンゴルでは生活をしていくことができません。
近藤 それは、どうして?
オユカ モンゴルは、給与に対して物価が高いです。一人だけの給与では生活できないので、夫婦ともにフルタイムで働くことが、生活するために必要となっています。
近藤 なるほど、まさに「選択肢なき女性の社会進出」というわけか……。
オユカ なんですか、それ?
近藤 日本では、働いている女性が結婚すると「家庭に入る(専業主婦になる)」という一つの常識があったのだけど、これは、選択肢がある状況と言えます。つまり、このような常識があった日本は、ある程度の経済的な余裕を享受できていたということですね。実際、今も女性がパートタイム等で働くことが多いけど、それは逆に言えば、フルタイムで働かなくても良い余裕があるということになります。
オユカ そうなんですか……あまり考えたことはなかったですね。
近藤 あと、結婚後、子供が生まれた場合は、どうしますか?
オユカ モンゴルでは親もまだ若い場合が多く現役で働いているので、自分達で育てることになりますね。
近藤 では、託児所を使うことになりますか?
オユカ うーん、それは難しいです。あまりモンゴルでは、2歳未満の子供を預かってくれる託児所は多くありません。あったとしても、給与と同じぐらいの保育料がかかるので、働く意味がありません。
近藤 それなら、モンゴル女性は、出産後は「専業主婦」状態になるということですね。
オユカ はい。実際、一度出産すると、その後仕事に復帰するのは難しいです。子供が生まれる度に産休を取ることになるので、モンゴルでは、それが大きな問題となっています。
近藤 モンゴルは、給与が安く物価が高く夫婦二人で稼ぐ必要があるのに、子供を出産後には、夫一人で働く状況になるということですね?
オユカ はい。そうなりますね。
近藤 それならモンゴル現地の人達は、どうやって暮らしているのですか?
オユカ 実は、私もよくわかりませんが、借金とかして暮らしていると聞いたことがあります。
近藤 それは、厳しいですね。
自分の働き方を「選択」できる文化、できない文化
私が、このオユカさんのインタビューから得た視点は次の通りです。
モンゴルでも結婚を機に専業主婦になるという発想はないが、出産後は専業主婦状態になる。
選択肢なき女性の社会進出は、モンゴルにも当てはまるが、出産後は、選択なき専業主婦状態になるということです。
本来、モンゴルでは男性一馬力だけでは生活が成り立たない状況なのに、女性は出産すると「専業主婦」状態になり、生活が逼迫するということです。
前回話を聞いたベトナムでは、親のサポートがあり、女性は親に子育てを任せてキャリアを継続できていました。
ですが、モンゴルでは両親も現役世代であることが多く彼らのサポートは期待できません。また、乳幼児から対応している託児所もモンゴル社会では整備されていません。これらは、数が少なく、また高額になっています。
数年前「保育園落ちた日本死ね!!!」という強いタイトルをつけたブログ投稿が話題になりました。いわゆる待機児童問題ですが、日本でもモンゴルと同様の状況があります。
しかし、戦後の日本は男性一馬力を前提とする「専業主婦」の発想があったことがモンゴルとは大きく違いました。それまで、待機児童解消をはじめ子育て支援が最重要政策とならなかった理由が、ここにあるように思えます。従来、子育て支援とは最優先の経済政策ではなく、ある程度やっておけばOKの福祉政策に過ぎなかったのです。
モンゴルの場合、出産後は実質一馬力であるにも関わらず、それを前提とする社会的支援体制構築が徹底されていません。今後大きな課題となるでしょう。
いっぽうの日本ではいま、モンゴルと同様に男女二馬力での生計が必要になってきています。このように、いまや子育て支援政策は、各国の経済政策であり最重要政策であるということです。
日本以外のアジア圏では、男女二馬力で働くことがそもそも常識だった?
男女二馬力社会の到来。これは、日本以外のアジアの国々では常識であったことです。
ベトナムでは、親のサポートにより社会的支援体制構築を待たずに実現できていました。モンゴルでは、親のサポートが期待でず、また社会的支援体制構築も徹底されずに大きな社会問題となっています。
託児所が足りないだけではありません。モンゴルの法定定年は、男性60才、女性55才となっており男女平等ではありません。
日本では最高裁判例等を受け平成18年(2006)に改正された男女雇用機会均等法第6条4号により、性別によって定年に差をつけることは禁止されています。この点から考えれば、「専業主婦」という常識がある割には、日本の方が女性の社会進出条件整備が進んでいるようにも思えます。
現在は核家族が中心となった日本では、親のサポートを期待することはできません。また、前述の通りまだまだ社会的支援体制構築も経済政策ではなく福祉政策として考えられているため、優先度が低く、後手に回っています。
日本もモンゴルの状況を対岸の火事とせずに、子育て支援を男女二馬力を徹底するための経済政策として位置付ける必要があるのではないでしょうか。
選択肢なき女性の社会進出、そして意図しない男女二馬力社会の到来。そんな私たち日本人の未来がアジア各国の状況を通じて見えています。
私は、今年の冬出版予定の小説『アインがみた、碧い空。:あなたが知らないベトナム技能実習生の物語』(学而図書)において「選択肢なき女性の社会進出」をひとりのベトナム女性のキャリアを通じて描いています。もちろん日本人にも参考になることを意識しています。
ベトナム、モンゴルを見ても女性の社会進出は、ジェンダー問題ではなく純然たる経済政策で議論させるべきものであると感じました。それが私達日本人の持続的発展を可能にする唯一の方法ではないでしょうか。
ベトナム女性に関する記事▶『「そもそも女性の社会進出という言葉がおかしい」ベトナム人女性が言い当てた「日本のしんどさ」の正体』
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