えっ、「食べる」を丁寧に言うと「食べ○○○」?
「お昼はもう召し上がりましたか?」と聞かれて「はい。召し上がりました」なんてうっかり答えてしまうこと、ありますよね。「食べる」には「召し上がる」「いただく」という二つの敬語があります。そして誤用「食べられる」も有名。色々注意することもあり、とにかくこの「食べる」は敬語のトラブルメーカー。一度スッキリ整理してみましょう。
ルール1 「食べる」の丁寧語は「食べます」
これはOK?「当たり前だ」というあなた、どういう時に使うか言えますか?そうですね。相手がいない場合で、自分や身内のことについて、または一般的に「食べる」ことについて、書いたり話したりする時です。
- 私は毎朝、たくさんフルーツを食べます。
- 私の父は、若者のように肉を食べます。
- 大阪の友人は、お好み焼きと一緒にご飯を食べます。
ルール2 「食べる」の尊敬語は「召し上がる」
さあ、急にハードルが上がりましたね。でもこれは、小学生の学習内容ですから、みなさんおそらく把握しているはずです。目上の人が「食べる」時に、自分が使う言葉です。
簡単なようですが、普段使い慣れていないと、
- 「部長、お昼はもういただきました?」
- 「今話題のこのスイーツ、お客様は、もうお召し上がりになられましたか?」
こんな誤用をしてしまうのです。
1は尊敬語ではなく謙譲語になってしまうパターン
2は二重敬語です。
1については、自分が普段口にする機会の多いケースを2,3例、丸暗記してしまうことをお薦めします。
- 自分が何かの生徒ならばその先生
- 自分が飲食店の店員ならお客様
- 自分が色々な人と外食をする場合はその相手
これらを想定し、フレーズを作り、「口が勝手に言ってしまう」くらいになるまで何度か音読してみましょう。
- 先生、昼食はもう召し上がりましたか?
- お客様、当店の新作はもう召し上がりましたか?
- 先輩、ランチはもう召し上がりましたか?
注意
「お召し上がりになられましたか?」
「召し上がられましたか」
それと例文2「今話題のこのスイーツ、お客様は、もうお召し上がりになられましたか?」
これらは「ら」を入れたことによる誤用です。後ほど、ルール4で解説します。
私は長年国語教師をしていますが、このようなフレーズ丸覚え、そしてその音読には高い学習効果が認められます。馬鹿にせず実践してみてくださいね。
ルール3 「食べる」の謙譲語は「いただく」
これも、小学生の学習内容ですから、みなさんおそらく把握しているはずです。目上の人がいる前で、自分が「食べる」時に、自分が使う言葉です。
こちらも簡単なようですが、普段使い慣れていないと、
- 「部長、お昼はもういただきました?」
- 「今話題のこのスイーツ、お客様は、もういただかれました?」
こんな誤用をしてしまうのです。
こちらも、自分が普段口にする機会の多いケースを2,3例、丸暗記してしまうことをお薦めします。
- 自分が何かの生徒ならばその先生
- 自分が色々な人と外食をする場合はその相手
これらを想定し、フレーズを作り、「口が勝手に言ってしまう」くらいになるまで何度か音読してみましょう。
- (先生がいる前で)昼食はもういただきました。
- (先輩がいる前で)私はハンバーグランチをいただきます。
ルール4 二重敬語に注意
丁寧に言おうと思い、ついつい「られる」を足してしまうことがあります。
さきほどの例で言えば次のような文です。
- 先生、昼食はもう召し上がられましたか?
- お客様、当店の新作はもうお召し上がりになられましたか?
- 先輩、ランチはもう召し上がられました?
「召し上がる」が既に敬語なので、敬語の意味を表す「られる」を付けると「二重敬語」となるのです。でもこれ、本当によく聞く言葉ですよね。「召し上がりましたか」より「召し上がられましたか」の方が丁寧な印象があります。「お召し上がりになられましたか」なども二重敬語です。
ケースバイケースですが、あなたの上司や取引先のお客様、全員が全員「敬語なんてどうでもいいじゃないか」という環境ならば、別に構いません。ただ、いざという時、ここぞという勝負場所で、二重敬語に対し眉間に皺を寄せるような方が含まれる可能性が0ではない場合、正しい日本語を使い慣れていた方が断然お得です。
具体的な方法としては、意外に感じるかもしれませんが「ら」を使わないことです。丁寧に言おうとする場合、既に動詞が敬語になっています。
例えば「読みました?」という場合、丁寧に言おうとすると「読み」が「お読み」になりますよね。その場合は、後ろは普通で良いのです。「お読みになりました?」です。これが、「お読みになられました?」となると二重敬語です。
「食べる」の例で言えば、「食べる」が既に「召し上がる」という敬語になっていますから、「召し上がられました?」は二重敬語。そうではなく、後ろは普通に「召し上がりましたか?」で十分なのです。
つまり、「動詞を丁寧に」するか、「動詞を敬語に」したら、後半は普通の言葉でOKなのです!
例をいくつか挙げますので、こちらも音読してみてください。あまりの素直さにびっくりしますよ。
例
- そうはおっしゃられてもですね。 → そうはおっしゃってもですね。
- いつ頃、お越しになられますか? → いつ頃、お越しになりますか?
- お客様がお帰りになられます。 → お客様がお帰りになります。
- あの映画、もうご覧になられましたか? → あの映画、もうご覧になりましたか?
ルール5 「食べる」を丁寧に言うと「食べられる」
さて、実は「食べられる」は尊敬語です!「られる」が尊敬語を表す助動詞なのです。ですから
- 先輩、ランチはもう食べられました?
でも文法的にはOKなのです。しかしこの「られる」という助動詞には、他にも意味があります。「食べられる」で有名なのは「可能」ですね。
- どんなにお腹がいっぱいでもスイーツだけは食べられる。
- さっき朝食が済んだばかりですが、昼食は食べられる?
こんなふうに使いますね。また「られる」には「受け身」の意味もあります。
- 一緒の水槽に入れておいたら、小さな魚が大きな魚に食べられてしまった。
- 冷蔵庫にしまったプリンを妹に食べられてしまった。
こんなふうに使いますね。この可能や受け身の意味の「食べられる」がよく使われるので、尊敬の意味の「食べられる」は最近はあまり使われないようです。文法的には間違いではありませんし、「召し上がる」を使うような間柄ではないけれど、例文のように、ちょっと敬意を表す職場の先輩などにはちょうど良い敬語です。
オマケ「食べれる」に注意
以上、敬語にする場合は「ら」を使わないのがコツと書きました。逆に「ら」を入れなければいけないのが「食べられる」。「食べれる」はら抜き表現です。「ら抜き言葉」に関して、擁護論は色々あります。
- 「食べられる」は「R」が続いて言いにくい
- 「食べられてしまう」の意味を持つ「受け身」か「尊敬」か区別がつかない
- そもそも言葉とは変化するものだ
などが理由に挙げられています。
こちらも、基本的に環境次第だと思います。二重敬語と同じで、今後の人生で「ら抜き言葉はいただけない」という考えを持つ大切なお客様に会う可能性はまったくない場合は気にしなくても構いません。そうでない場合は、正しい方を言い慣れておけば恥ずかしい思いをする可能性がなくなります。とにかく、可能の場合は「ら」を忘れないこと。
目上の人が食べる時は「召し上がる」、目上の人に対し自分が食べることを表現する時は「いただく」、そして、それ以上の敬語表現は不要で、後半はむしろ普通の文に。いくつかパターンを想定し、普段から言い慣れておく。これが「食べる」に関する敬語表現のポイントです。
さて、そろそろランチタイム。あなたは何を召し上がりますか? 私は友人と中華料理をいただきます!
スポンサーリンク