年下男子に突然「一緒に暮らしましょうか!」と言われたら…【年下小説・あなわた#8】
【小説・あなたのはじめては、わたしのひさしぶり vol.8】
これまでの話
■第1話
■第2話
■第3話
■第4話
■第5話
■第6話
■第7話
かわいいのは……
高坂くんと行った犬カフェは、素敵なところだった。
入るなり、10匹以上の小型犬に、私たちは囲まれた。
チワワやプードル、それからマルチーズ。
人懐っこく抱っこをせがむ犬もいれば、恥ずかしそうに遠くから見つめてくる犬もいて、性格がそれぞれ違って、どの子も本当に愛おしい。
「おいで!」
高坂くんは近づいてきたプードルを膝の上に乗せて、かまっている。
会社では見たことがない、笑顔の彼。
犬の頭を撫で、何やら話しかけている、優しそうな彼の顔を、私はぼうっと見つめていた。
「犬と遊ばないんですか?」
不思議そうに、私のほうを見た彼の顔は、穏やかで、幸せそうだった。
こんなほんわかした顔が、できる人だったんだ。
「ドリンク、頼まないと」
「ああ、そうですね。じゃあ僕はアイスコーヒーで」
彼はそう言ってまた、プードルに顔を落とした。
彼と私の実家で飼っているのと同じ、茶色の毛だったので、親近感が湧いているのだろう。
連れて帰りたい
しばらくして私たちは、ここがどういうカフェなのか、わかってきた。
ここにいる可愛い犬たちは、どの子も、里親を探しているのだという。
何らかの事情で保護された犬たちだったのだ。
飼い主さんの引越しや病気で飼えなくなってしまった犬や、ブリーダーさんが廃業するということで、行き場がなくなってしまった犬。
この子たちは、新しい家を探している。
そう知った時に、胸が熱くなった。
犬が好きなので、なんとかしてあげたい、そんな気持ちでいっぱいになる。
高坂くんも、同じだったらしい。
「連れて帰ってあげたいな……」
そうつぶやいて、プードルの頭を撫でている。
だけど、彼も私も、ペット禁止のところに住んでいるのだ。
「ごめんな……」
彼は申し訳なさそうに、プードルをぎゅっと抱き締めた。
今日の高坂くんは、よく喋る。
といっても私にではなく、プードル相手にだけれど。
いっしょに……
カフェには2時間近く、いたと思う。
その間、高坂くんとはたくさんのことを話した。
ほとんどが、犬がらみの話だったけれど、芸の教えかたなど、色々なことを知っているので楽しかった。
「実は、犬に関わる仕事をしたいと思ったことがあるんです。獣医や、トリマーや、盲導犬訓練士とか」
「すごく向いてる気がする! どうしてならなかったの」
「好きだったからこそ、無理だなって思ったんです。だって、犬たちの死や別れを経験しなくちゃならないですよね。つらくてやっていけそうもなくて」
彼は目を伏せ、しばらく考えた後で、顔を上げた。
「引っ越したいですね! ペットOKのところに!」
「そうね」
私も頷いた。
「……いっしょに暮らしましょうか!」
唐突に、彼は切り出してきた。
「……えっ!?」
「一軒家借りるとか、いいと思いませんか?」
犬のことになると気持ちが一気に盛り上がるらしい。
「ほら、シェアハウスって言うんでしたっけ。犬好きな何人かで一戸建て借りて、犬の里親になれたらいいと思いませんか?」
そういうことか、と私は笑った。
同棲しようと言われたのかと、思った。
そして、この日を境に、私と高坂くんの間には、不思議な暖かさが流れるようになっていった。
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■第2話
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■第7話
■第8話
(つづく・第9話は17/7/11火曜日 20:00公開)
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