47歳、突如卵巣を切除した編集者が『女性の覚悟』から受け取り続ける「自分を励ますためのシンプルなメッセージ」

5月末、突然の激痛に見舞われ、受けた診断は腸閉塞。その後あわただしく左の卵巣を切除した47歳編集者。その手術日は奇しくも、彼女が2年以上かけて担当した坂東眞理子さんの新刊『女性の覚悟』の発売日でした。

前編『「もう働きたくない」47歳編集者が卵巣をとって『女性の覚悟』に触れるまで』に続く後編記事です。

 

【47歳、あまりに急激な人生の転機。『女性の覚悟』に必要なことは#1】後編

 

そんな私が『女性の覚悟』を説く坂東眞理子さんという巨人に出会った

6月30日に腹腔鏡手術で左卵巣をとった。

この日は、私が2年以上かけて担当した『女性の覚悟』という本の発売日だった。著者は、坂東眞理子さん。血やザクロを思わせるワインレッドカラーに、どーんと「女性の覚悟」というタイトルだけが載っていて(帯には坂東さんの顔写真もあり)、発売前、社内のおじさんスタッフからは「なんだかコワイ」といわれたデザインだ。

私はこの本を、「護符」だと思っている。

坂東さんは現在、昭和女子大学の理事長・総長だ。320万部を超える大ヒット本『女性の品格』を書いた女性、といえば聞いたことがある人もいるだろう。

坂東さんの魅力は、なんといっても、その前向きさと、76歳とは思えないバイタリティ。そしておしゃれ。いじわるじゃない。

いつお会いしても、坂東さんの周りの空気は、カラッとしている。富山県出身だそうだが、昔訪れた真夏の黒部ダムと晴れた立山の情景がよぎる。豊かな水をたたえたダムのように、ご自身の知識と経験を、次世代の女性たちにむけて、本に放流させている。

ご本人は小柄で、きれいに手入れされた黒髪ショートカットと福耳。仕立てのいい明るい色のスーツやジャケットをいつも着ている。コンクリートの黒部ダムに例えたと知ったら、苦笑されるかもしれない。そういえば、坂東さんはコロナ禍前、富山の同級生と立山登山を楽しんでいた健脚でもある。

 

私は、西洋占星術を嗜むが、坂東さんは太陽星座がしし座。性格を表すとされる月星座は牡羊座だ。どちらも火の星座で、リーダー気質に優れ、時代のパイオニアとなる可能性があり、王道を好む。性格は裏表がなく、ややミーハーで明るい。体力もある。野球でいうなら巨人ファン。ラッキーカラーは赤とオレンジ。

自力で人生を切り開くタイプの坂東さんは、占いは信じないかもしれないが、あたっている気がする。

 

文芸系出版社でない主婦の友社で、ミリオンセラー作家の坂東さんに『女性の覚悟』を書いてもらえることになったのは、古本屋で出会った1冊の本がきっかけだった。『女性は挑戦するーキャリア・ガールの生き方』菅原真理子著。1978年主婦の友社刊行とある。

 

菅原真理子は坂東さんの旧姓で、この本はなんと、処女作にあたる。総理府(当時)のキャリア官僚当時、キュートで知的な菅原女史は、おじさん官僚にいろいろ意地悪されつつ、思い通りにならない日々の中で、若い女性たちにむけて「みんなで立ち上がろう!」と熱っぽく説いている。この本から40年以上。この本の続きを書いてみませんか、と坂東さんに提案したのが、『女性の覚悟』のスタートラインだ。

 

 

『女性の覚悟』を読んで気づく「アンコンシャス・バイアス」

『女性の覚悟』は2部構成となっている。

第一部のタイトルは「女性の人生 昭和から令和へ」。

この40年間で女性の立場や意識がどう変わったか、を考察している。

坂東さんの経歴や思い出も語られる中で、一番ぐっとくるのは、「アンコンシャス・バイアス」というキーワードだ。

英語はめっぽう苦手だが、無意識の思い込み、という意味らしい。

 

家事や育児、介護は女性の仕事だという思い込み。よき妻、母にならなければという思い込み。女性は男性の出世の邪魔にならない程度に働き、家庭を顧みなければという思い込み。すべて世間や男性から押し付けられた幻想なのだが、実はそれらを女性自身も無意識に思い込んで実践しているのではないか、という指摘だ。

 

坂東さんは言及しないが、「白髪は染めなくては」「更年期で辛くても、手作りの料理をがんばらなくては」「モノを断捨離して、すっきり暮らさねば」「仕事を続けるからには、キャリアや給料アップをめざして、きっちりやらねば」というのもすべて、誰かからの刷り込み、無意識の思い込みかもしれない。

 

私が感じてきた

「年齢のせいで仕事にダメだしされる」
「この会社でなければ、もっと売れる本が作れるかも」

「給料が夫より安いのは、私の人間的価値が低いから。だからせめて、家事はしないと」
「給料があがらないのは、私が成長のない人間で、周囲から必要とされていないから」

というのも、長年の刷り込みなんじゃないだろうか。

 

 

一日一回、『女性の覚悟』で「ビブリオマンシー」

『女性の覚悟』の第二部タイトルは、「後半期を生きる『覚悟』」。

50代以上の女性にむけて、坂東さんが考える、日々を前向きに生きるためのヒントとエールが語られている。

 

コロナ禍で在宅勤務が増え、ますます働く気がしないとき、家事が面倒なとき、体調がすぐれず不安なときに、私がやる占いがある。

それは「ビブリオマンシー(書物占い)」だ。

ビブリオマンシーの歴史は古く、古代ローマ時代にはすでにあったそうだ。聖書やコーランを用いてされることもあり、あたりすぎたのか、中世では教会から禁止令が出たこともあった。日本に詳しく紹介したのは、博識な心理占星術研究家の鏡リュウジさんではなかったろうか。

 

書物占いは、簡単だ。

自分が好きな本を1冊両手にはさみ、メッセージを受け取りたいことを心の中で唱える。例えば「この仕事、やる気を出すにはどうすれば?」「私って、なんでこんなにうまくいかないの?」など。目を閉じて深呼吸をし、ぱっとページを開く。

開いたページの中で、目にすっと入ってきた言葉や文章が、今のアナタに必要なメッセージだという。一神教の世界では、そうしたメッセージは天啓、なのだろうが、八百万の神様がいるジャパンでは、「ちょっとしたアドバイス・ヒント」くらいの軽い気持ちで試せるから不思議だ。

 

この書物占いを、実際に『女性の覚悟』でやってみた例をご紹介しよう。本をめくる日が違うと、違うメッセージを受け取るのも興味深い。

 

私がやってみた『女性の覚悟』からのメッセージ

Q 「今日はなんだか働く気がしない、さぼりたーい!」

→「自分と未来は変えることができる。他人と過去は変えることができない」(82ページ)

「次々と押し寄せてくる情報をしばらく遮断して、それまで目を向けてこなかった自分の内面を見る時間をつくる」(230ページ)

 

Q「体調がいつもすぐれない。職場の人は、私が休んでいる間、迷惑だったろうな。もう手術前のようには戻れないのかな」

→「人の世話ができるときが花、いつどこでだれのお世話になるかわからないのだから」(124ページ)

「必要な治療を受けたら、気のまぎれることをします。(中略)好きなことをし、他にしなければならない用があると、体調の悪さを忘れます」(223ページ)

 

Q「編集者はつぶしがきかないし、65歳とかまで働くとか、無理そう。老後のお金はどうなるのか、不安だな」

→「『一応生活できるのなら、ぜいたくを求めない』と覚悟しないときりがなく、いつまでも不安です。『覚悟』をきめて、毎日足を地につけて生きていきましょう」(190ページ)

 

Q「最近、友達に全然会えてないな。つまんない」

→「人生のステージが変わると、付き合う人が変わっていき、年齢とともに親友がいなくなっていくというのは寂しいですが、受け入れなければならない現実」(167ページ)

 

Q 「料理作るのめんどうだな。上手じゃないし」

→「人には得意なこと、不得意なことがあります。(略)人生のすべてをあきらめるのではなく、特定の分野だけを手放す(略)得意でないことを抱え込んでいると、疲れるだけなく、自己評価が下がり、自己肯定感が下がっていきます。元気がなくなるのです」(235ページ)

 

もちろん、こんな占いをしなくても、『女性の覚悟』の気になる章だけ、ちらっと読むだけでもいい。

あなたが普段抱える、やわらかな自己否定感、将来への漠然とした不安が小さくなるヒントが、この本には散りばめられている。老後には、まだまだ先は長い。「覚悟」は急には持てそうにないが、真っ赤な護符代わりのこの本があれば、なんとか、毎日やり過ごせそうだ。

ぜひ、坂東さんからあなただけに贈られる、「お守りことば」を見つけてほしい。

 

 

『女性の覚悟』
 坂東眞理子・著 1350円(税込) 主婦の友社

後半期の人生をより輝いて生きるために、自分の人生の責任者である覚悟をもとうと坂東さんは呼びかける。覚悟が決まれば、自ずと自分がやれることがわかってくる。自分の人生を誰より自分がいとおしみ、これからの日々を大切に生きようという、女性へのエールが詰まっている一冊。

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執筆者:井頭 博子
1974年生まれ。編集者。書籍『女性の覚悟』(坂東眞理子著)編集担当。ファッション誌「Cawaii!」「Ray」「mina」を経て、現在は50代向け雑誌「ゆうゆう」で老後資金、片づけ記事などを担当。好きなものは、清水白桃、ビターチョコ、昔ながらの魔女。

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