
何度会っても「はじめまして」の認知症患者が介護美容で見せる「驚きの変化」とは
私(ライター小林)は認知症の義母の介護を始めて数年になりますが、ふとした時に「ちょっとした美意識の高さ」を感じて驚くことがあります。義母がずっと探していたお気に入りの帽子が見つかって、それを被るとご機嫌で出かけてくれたり、拒否し続けていた洗髪も、シャンプーの香りとボトルの色(ピンク)が気に入った途端、応じてくれるようになったり……。そういった経験から、私も「介護美容」に期待を寄せる一人です。
一般社団法人日本介護美容セラピスト協会(株式会社ナリス化粧品100%出資)は、2014年4月の設立以降、心と体の美容療法®を創出。全国で、介護と美容の手法を取り入れたセラピスト(ビューティタッチセラピスト®)の養成と認定講座を開催し、2025年3月末でセラピストの認定数は3000名を突破しています。
そこで今回は、講座の卒業生であり、認定セラピストとして10年ものキャリアを持つ小川 真由子さんに、仕事を始めたきっかけや大事にしていること、「介護美容」にまつわるエピソードなどについてお話をうかがいました。
前編『注目の「介護美容」なぜ人気?「徘徊がなくなった」「病気の早期発見」キレイになるだけじゃないそのパワー』に続く後編です。
毎回「はじめまして」でも、香りで記憶がよみがえる!
口紅の色を相談しながらセレクト! 会話が弾む楽しいひととき © 2025 Naris Cosmetics CO.,Ltd
――小川さんの心に残っているエピソードを教えていただけますか?
認知症の方に関して言えば、施術したこと自体を忘れてしまう場合もあり、毎回お会いするたび「はじめまして」になる方もいます。もちろん、私も「初めてお会いしますね~」と合わせますが、施術が進むにつれ、触れる感覚や香りなどから思い出してくれることもあるんです。
いつもはハンドセラピーだけをする方が、「今日こそお化粧をしてもらおうかしら? きっと娘も喜ぶわ」と気持ちに変化が生じたり、アロマセラピーの香りを感じたことにより「この匂い、知ってる。マッサージが気持ちよかったのよね~」と、気分よく施術させてくれたこともありました。
――五感を刺激することは、認知機能の向上につながるとも言われていますよね。
そうなんですよ。リラクゼーションや集中力アップ、筋肉の緊張緩和など、ADL(日常生活動作)やQOL(生活の質)の向上に影響します。普段のデイサービスで「早く帰りたい」と言い続けていた方に施術をしてみたら、気持ちが落ち着き、穏やかになって。そういうところで、私自身も「触れるケア」の素晴らしさを感じています。
――「介護美容」は見た目が美しくなることで、気持ちが明るく前向きになる……と理解していましたが、それだけではないんですね。
「触れる」ことで変化に気付き、病気の早期発見につながったケースもありました。ある高齢者施設でフットケアを行っていた際、足の浮腫(むくみ)がひどく「腫れ方が気になるな……」という方がいて、施術を中止し病院へ。どうやら血栓ができていて、あと少し遅れたら手術になっていたと聞きました。日頃から皮膚の状態や顔色などエステティシャンやヘルパー目線でもしっかり観察することで、こういった変化にも気が付けたと思っています。
フットケア セラピー前(文中に記載のケースとは異なります) © 2025 Naris Cosmetics CO.,Ltd
フットケア セラピー後(文中に記載のケースとは異なります) © 2025 Naris Cosmetics CO.,Ltd
――それは、ご家族にとっても有難いですね。
逆に私も、ご家族のサポートに感謝していることが多いんです。ある方は、デイサービスの前日に「明日はエステの日だね」と娘さんが声をかけてくれるので、当日の施術もスムーズ。メイクをして帰宅すると、「綺麗にしてもらえてよかったね~」と一緒に喜んでいるそう。セラピーの効果が、ご本人だけでなくご家族にも伝わっているのをうれしく感じます。
夜中の徘徊がなくなり介護が楽に。「介護美容」がもたらす変化
このように、あらゆる効果や可能性を持つ「介護美容」。しかし実際、その認知度は、まだ決して高いとはいえない状況です。その辺りについて、株式会社ナリス化粧品 広報担当部長の横谷 泰美さんにお話をうかがいました。
――これまでの小川さんのお話で「介護美容」に多くの可能性を感じましたが、課題を挙げるとすればどのようなことでしょうか?
「介護美容」をもっと多くの方に知ってもらうには、子ども世代の理解が重要だと思っています。でも実際は「高齢なのに、まだお化粧なんて言ってるの?」という声が圧倒的かもしれません。メイクをしたり美容や身だしなみに意識を向けたりすることは、自分らしさの表現の一つ。だから、それができなくなることで大きな影響があるんです。
昔は当たり前に眉を描いていたのにできなくなり、だんだん人と会わなくなる。外出の機会が減って歩行が困難になり、認知症が進むということが起こる。ところが「触れるケア」をしたことで安心し、夜中に徘徊しなくなり、そのことでご家族や周囲の方が楽になるといった事例もたくさんあります。
「介護美容」は見た目の変化だけでなく、気持ちの変化もある。そのことで、ご家族の介護も変わるかもしれない、というようなことをもっと伝えられたらいいですね。

施術後、ご家族からお礼の手紙が届くことも! © 2025 Naris Cosmetics CO.,Ltd
――「デイサービス拒否」「昼夜逆転生活」といった義母の問題に直面している身としては、とても響きます。横谷さん、ありがとうございました。では最後になりますが、小川さんにこの仕事の魅力や今後の夢などをお聞きできればと思います。
心を込めて施術すると、ちゃんと相手にも伝わるんです。だから「介護美容」の現場では、いつも「ありがとう」という言葉が飛び交っています。かつてのエステティシャンとしての施術とはちょっと違い、今行っている「ビューティタッチセラピー®」は、心に作用するところが大きくて。私にとっても自信につながり、大きな喜びを与えてくれる仕事です。
また、私自身は美容を施すのが仕事ですが、「ご自身でメイクやケアなどをできるようになってほしい」という想いもあります。化粧品の蓋の開け閉めや刷毛を使うなど、動作自体が機能訓練にもなるので! そして「介護美容」がさらに広まり、誰もが当たり前のサービスとして利用できることを願いながら、ご本人にもご家族にも幸せな時間を届けてゆきたいです。
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