40代50代女性が「いますぐ」始めないと大後悔する健康ケアって?専門医が教える「こんなに怖い」骨粗しょう症の話
閉経の前後5年を「更年期」と呼びます。日本人の直近の平均閉経年齢は52.1歳なので、40代後半から50代は更年期に当たる人が多数。この時期に女性ホルモン減少に由来する心身のトラブル、5大症状と言われるのぼせ・ほてり・発汗・抑うつ・不眠等からパフォーマンスの明らかな低下など日常生活の支障が起きた場合が「更年期障害」です。
「でも、更年期障害は65%の女性が放置したままで、異変を感じても対応していない人がほとんど。本来は自己判断せずに、日常生活が支障なく送れるように更年期の専門医にかかって欲しいのですが」
そう話すのは女性医療の第一人者、婦人科医の太田博明先生。
太田先生は1991年に慶應義塾大学病院に全国3番目の更年期外来である「中高年健康維持外来」を設置したパイオニア。そんな太田先生が長年にわたり強く啓蒙しているのが骨粗しょう症です。
でも、骨粗しょう症って70歳以降の話なのでは……?
「そんなことはありません。骨粗しょう症は閉経の時期に急激にリスクが上がる、いますぐ対応が必要な生活習慣病です。しかも、いまは50代女性の骨折が急増している危機的な状況。ですから、ぼくは機会があるたびにこうして女性の皆さんにこの危機を発信しています」
うそでしょう?と思いながらお話を聞かせていただきました。
40歳以降なら自治体の「骨粗しょう症検診」が…って、そんなの知ってた?
「最初に質問です。全国の自治体で『骨粗しょう症検診』を行っています。無料、または低価格ですが、あなたは受けましたか?」
と太田先生。いいえ、私は4年前から世田谷区在住、その前は渋谷区、新宿区。ですが、どこからもそんな案内はいただいていません。案内のあった検診は全部受けていますから、私の自治体では実施していないのでは?
「残念ながら、この検診は案内がくるわけではなく、自分で探して申し込むものです」
エッ??……調べてみると、なんと、私がいま住む世田谷区も実施していました。400円と格安! でも残念、私は51歳ですから、次は4年後です。
「40歳以降の女性は全員、5年に1度検診を受けられるのですが、受診率は10%以下。自治体の広報を検索すれば必ず載っています。これに限らず、更年期はアンテナを高くして積極的に情報を集め、自分の健康は自分で守る意識を持たないと健康格差がどんどん広がってしまう時期なんです」
厚労省サイトには「骨粗鬆症検診/当該市区町村の区域内に居住地を有する40歳、45歳、50歳、55歳、60歳、65歳及び70歳の節目年齢の女性を対象として行う問診及び骨量測定」とあります。30・35歳は世田谷区の独自追加なのですが、それ以前にこんな検診があることを全く知りませんでした。
「90%の人がそんな状態ですよ。でも、もうすでに2人に1人が90歳代まで生きる時代。45歳がちょうど折り返しですから、骨をチェックする人生最後のポイントです。そして、この検査も漠然と近所で受けてはダメです。保健所でだけ実施の自治体もありますが、医療機関で検査する場合はアンテナを高くして、どんな方法で検査しているかを調べて選ぶ必要があります」
えええ、先生、4年も待つのは心配だから私はお金を払ってでも今すぐ受けたいのですが、どこで受けてもいいわけではない……?
「骨粗しょう症の検査はかかとで調べるイメージがあるでしょう? でも、丈夫なかかとではなく、折れやすい部位の骨密度を測定しないと正しいリスク判定ができません。50代以降、骨折がいちばん多いのは背骨で、生涯確率は37%と高率。続いて足の付け根部分の大腿骨が22%。次に手首17%、そして上腕骨(肩の下)10%の順番。この頻度データとダメージの大きさから背骨と大腿骨の骨密度を計る必要が理解できますね」
その病院はどう探せばいいのでしょう? 世田谷区の検診対応医院のリストを見てみると、大まかに病院は整形外科か内科に別れるようです。
「まず、どの科でもいいですから、骨粗しょう症を診察すると書いている、できれば専門外来がある病院を選んでください。整形外科でも骨粗鬆症専門外来が全部にあるわけではありません。逆にいまは内科の先生がたの多くが生活習慣病のひとつとして骨粗しょう症も診察してくれますから、そちらを受診しても。骨の新陳代謝のバランスも血液検査で見てもらえます。また、日本骨粗鬆学会のサイトから専門性のある骨粗鬆症認定医を探すのもひとつの手です」
ちなみに、世田谷区の場合は測定法として二重X線吸収法(DXA法、デキサ法)と定量的超音波法、2つの方法が書かれています。私はどちらの医院を選べばいいのでしょうか?
「超音波法はかかとで調べます。いっぽう、DXA法の多くは腰椎と大腿骨ですが、手首を測る方法もあります。腰椎と大腿骨が測定可能なDXA法で測定できる医療施設を選択するのが正解。ただしDXA法はX線を使うため、妊娠中の方は受けられません」
そもそも40代ですでに「骨を気にしたほうがいい人」って誰?(答え・全員です)
近年の研究では、骨が健康で若い人ほど、肌ツヤがよく、見た目が若いということが判明しています。逆にいえば、骨がスカスカな人は実年齢より老けているということ。
「いまどきの女性はみんな、骨粗しょう症ハイリスク群だと思っていいくらいです。なぜなら、痩せていて小柄な人がいちばんリスクが高いから。ぼくの外来にもBMI18.5未満のモデルのような痩せ体型の女性がよく来院します。また、6割くらいは遺伝ですので、母親の背中が曲がっている、骨折をした、骨粗しょう症の治療をしている、これらの人は40代どころか30代から意識したほうがいいでしょう」
そのほか、食事が不規則な人もハイリスクです。特に、朝食を抜きがちな人は「必要な栄養の1/3が常に不足している」と捉えたほうがいいそうです。
「骨といえばカルシウムのイメージですが、タンパク質も大事です。カルシウム、タンパク質、そして食事で摂取したカルシウムを体に取り込むのを促進するビタミンD。この3つが骨の健康の鍵となる栄養素です。そのほか、ビタミンK、マグネシウム、亜鉛、カロテノイドなども骨の健康をサポートのために必要です。これまで偏った食事で暮らしてきた人は負債を抱えている状態。更年期をきっかけにバランスのよい食事に整えてください」
実は、ビタミンDの80%は体内で生成されていますが、これを阻害するのが過剰なUVカットなのだそう。
「ビタミンDは皮膚に紫外線が当たるとコレステロールから代謝されて体内で生成されます。本来は体内でできないので摂取が必要なものがビタミンなのですが、ビタミンDの80%は体内でできるので『ホルモン』なのです。日焼けが嫌いな方は、ですから、たとえば肩や手のひらなど、差支えのないところはできるだけ日光に当てて、ビタミンDの合成を促してください。もうひとつ、お子さんの過剰なUVカットも医師からすれば『問題あり』です。やせ願望、美白願望が女性の骨量を減らしてしまいますが、そのお子さんたちの骨量もじゅうぶんではない傾向が見られるんです」
20年前と比較すると、9歳時点の骨量が10.2%も低下といちばんの差があります。つまり、子どもたちはそもそも胎内時点でカルシウムやタンパク質が不足していた上、骨量少なく小さく生まれてきて、さらには外遊びが減った影響でビタミンDの合成も減っているというトリプルパンチを受けているのだそう。将来の骨粗しょう症予備群です。
「これらの影響で、現在は30代ですでに骨粗しょう症の予備群が3.2%います。骨量は20代をピークに、更年期手前まではほぼ同じ量で推移し、閉経の少し前から一気に減ります。20代までにどれだけ増やしておくかが80代、90代の人生を決めるため、長い目で見て骨を育てる必要があるのに、30代で予備群になってしまうと閉経時点で骨折してしまいます。これが冒頭で申し上げた危機的状況の原因です。40代の10.5%、50代は半分以上が骨粗しょう症予備群です。あなたご自身はもちろん、お子さんまで一蓮托生の危機なのです」
なぜ閉経ごろにそんなに骨折が増え始めるのですか?
話はちょっと戻ります。先生、そもそもなんで更年期手前で骨量がそんなに減るのでしょう?
「骨はもともと形成と破壊を繰り返して強度を保っており、およそ5年で入れ替わっています。45歳までは男女の骨密度に差はありませんが、閉経の少し前に女性ホルモンが減り始めると骨形成と骨破壊のバランスが崩れ、破壊される骨より作られる骨が少なくなってしまいます。このため急激に骨が減り、55歳ごろには骨密度が男性のはるか下になってしまいます」
閉経直後から女性の骨折が増えていくのはこれが理由。50代で多いのは手首の骨折で、60代からは背骨の骨折が増えていき、70代では背骨が手首を上回ります。72、3歳ごろからは足の付け根の骨折が手首を上回り、75歳からは一気に急増します。
「足の付け根の骨折は要介護生活につながります。骨折前の生活まで回復する人はわず20%。また、背骨の骨折『椎体圧迫骨折』を起こした人の5年後の生存率は約60%しかなく、これは大腸がんや乳がんの5年生存率よりも劣る数字です。閉経後の女性にとって、骨粗しょう症はがんと同様、あるいはそれ以上に命とりになる恐ろしい病気です」
骨密度が若年成人の70%以下に減少すると骨粗しょう症と診断されます。骨量は閉経前の48~50歳の2年間で4.5%減りますが、「いちばん減る」閉経後の2年間はなんと年に2.75%、つまり2年で5%以上減少します。さらに、閉経後3~5年は年1.5%ずつの低下。つまり、48~60歳で20%も低下するので、もともと貯金が90%を切っていた人たちは全員70%を下回ってしまい、60歳で骨粗しょう症になるというわけ。
「65歳の時点で80%を維持するのが現在の医療の目標値です。90歳時に75%であれば生涯骨折せずに過ごせるからです。このために、45歳時点であとみんな5%増やす必要があるんです」
日本人女性は、寿命は長いものの、その分寝たきりなど不健康な期間も長いことでも知られます。女性の健康寿命は生命寿命ほど長くなく、不健康期間は男性よりも3.34年も長い。人生の晩年に健康を損なって要介護や寝たきりで過ごす現実がある事に気が付いて欲しいのです、せっかくの長生きの意味がありませんと太田先生。
「いま、100歳を迎える人が年に5000人いて、89%が女性です。しかしみんな骨や筋肉が弱い。もともと日本人は他民族に比べて筋肉と骨格が虚弱な傾向があるところに軟水の国土で、カルシウムとマグネシウムが不足しているのも原因の一つです。どれだけ他を気をつけても、女性の健康寿命は骨と筋肉の加齢による劣化で損なわれてしまうことをよく念頭に置いてください」
「日本ははっきりいって、更年期障害治療の後進国なんです」
そういえば、閉経前後に女性ホルモンが減少するのが骨量減少の原因なのならば、女性ホルモンを薬の形で補う更年期障害の治療法、ホルモン補充療法(HRT)を行えばどうでしょうか?
「その通り、HRTは女性の骨粗しょう症の予防に一定効果があると言われています。このほか、閉経期以降注意しないとならない生活習慣病である高脂血症、高血圧の抑制にも働くと言われています。ですが、日本は圧倒的なHRT後進国です」
はい、それはよく知っています、この記事を書いている私も18年から20年にかけて3か所の婦人科でHRTを断られました。21年の4回目のトライは絶対に処方してくれる先生を口コミで聞いてから受診しました。ただ、消極派の先生がたもそれなりに根拠があってのことだと聞いています。
「欧米ではHRTの最盛期には2人に1人がHRTを受けていましたが、これは欧米人は重症のホットフラッシュに非常に苦しめられるからなんです。1時間に1回大量の発汗に就寝中も問わず見舞われるそうで、比較すれば日本人は1日2―3回程度とずっと頻度も少なく軽いのです。このため欧米ではHRTを必要とする人がわが国に比べて何倍も多く、アメリカではHRTが持つ乳がんや血栓症のリスクを考え、あらかじめ子宮を全摘出する人も一定数いると言われているくらいです。子宮がなければ乳がんや血栓のリスクを上げる黄体ホルモンを服用せず、エストロゲンだけの補充でいいからです」
日本でHRTが普及し切らない原因もこの乳がんと血栓のリスクを鑑みてのことですが、太田先生が中高年健康維持外来で見てきた限り、やはり日本でもHRTでの乳がんを発症しやすい傾向を感じるとのこと。ただし、HRT中は検査を1年に1回必ず行うため、見つかりやすいという条件もあります。
とはいえ、黄体ホルモンも合成黄体ホルモンの一種がリスクを上げるということが判りはじめ、乳がんと血栓症が低リスクな天然型の黄体ホルモン薬(エフメノⓇカプセル 100mg)がわが国でもやっと昨年から使用可能になりました。
ここまでの前半記事では「骨が減る恐怖」をたっぷり教えていただきました。続いて「骨の量を維持するためには何をすればいいのか」を教えていただきます。
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